第25話 君が求めてくれる限り

「ねぇ、本当にこんな所であってるわけ!?」


 ポチを追いかけ魔王達がやって来たのは、撮影に使う機材や美術道具が至る所に敷き詰められている倉庫だった。


「こんな所だからこそ怪しいのではないか」

「まぁ確かに。ここにいるなら隠れる所はいっぱいありそうだけどさ」


 ポチは辺りをキョロキョロと見渡すだけで動こうとしない。


「本当にいるならなんでポチは何も動かないのよ。持ち主の所まで連れて行ってくれる筈でしょ」

「恐らくポチも迷っているのだろう」


「迷ってる?」

「ああ。恐らくこの部屋には持ち主の気配が充満している。そのせいで正確な場所までを把握することが難しいのだろうな」


 我もポチ同様、倉庫内をくまなく見回す。


「やっぱりここじゃないんじゃないの?こんな所流石に子供でも入らないって」


 優菜も倉庫内を恐る恐る捜索するが、物の多さに断念する。


「フッ…」

「?」


「子供だからこそこんな所でも入れる場所があるんじゃないのか?」

「え、」


 魔王が指差した先は、撮影で使われなくなったガラクタが無作為に山のように重なられた場所。


「いや流石にあの中は」

「あそこを見ろ」


 目線を少し下に下げると僅かな隙間にできた穴のようなものが見える。


「ウソ……。まさか本当にあの中!?」

「かもな」

「いやいや、やっぱここは流石にあり得ないってば!」


 奇跡的にバランスを保っているこのガラクタの山。少しでも不用意に触りでもすれば崩れれてきてもおかしくはない。


「あり得ないを当たり前にやってのけるのが子供の特権だろ」


 するとポチもその穴の近くにやってくると、何度も我ら頷いてみせる。


「ほらな」

「ウソでしょ……」


 唖然とする優奈。


「さて、どうしたものか」

「もう……こうなったら一個ずつ退かすしかないじゃん!」


「却下。一個ずつなど面倒だ。どうせやるなら一気に片付けるぞ」

「それができたらやるに決まってるでしょ!」


「だからやる」

「は?」


 魔王は優菜を下がらせると、ガラクタの山に向かって魔法を唱える。

 すると、山のように重なっていたガラクタがみるみるうちに別の場所へ移動していく。


「何これ……」


 目の前の起こってる現象に頭が追いつかない。


「この程度のガラクタを移動させるくらい、我にとっては朝メシ前ってやつだな」

「アンタ、マジシャンとして世に出た方がいいんじゃないの?」

「考えておこう」


 そして粗方物が片付いてくると、体育座りをしながら開いたく口が塞がらない少年の姿が見える。


「いたぞ」 

「よくもまぁ、あんな中にいたものね」


 するとポチが少年の元へ駆けていく。


「え、」


 動く人形の姿に驚く少年。


「まさか、ゴライアスなの?」


 ポチは頷くと少年の肩に乗る。


「ゴライアスって…ダサっ」

「ダサくなどないわ。ゴライアス実にいい名前じゃないか。ポチなんて名前より何百倍もな」

「信じられない」


 拒否反応を示す優菜と正反対な反応を示す魔王。


「少年よ。やっと見つけたぞ」

「おにいさんたちって、もしかしていつララのひと?」

「そうよ。君のことみんな心配してたよ」

「ごめんなさい…」


 謝る大翔に余計な気を遣わせないよう首を横に振る優菜。


「いいや、本当大迷惑な奴だよ、お前は」

「うっさい」

「ぐあっ!!……」


 魔王の脇腹を狙い的確に肘を当てる優菜。 


「皆怒ってないから私達と一緒に帰ろ?」

「いや、怒ってるだろ」

「いいからアンタは」

「させるか!」


 再び魔王の脇腹を狙う優菜。それを踏まえて避けようとする魔王。


「いやだ」

「え?」


 大翔の声に思わず優菜は動きを止めると、咄嗟に避けた魔王の股間を蹴る。


「なっ!……くっ、(我相手にこうも的確にダメージを与えられる奴がいるとはな。末恐ろしい女だ)」

「どうして?」


「……」


 優菜の問いかけに頑なに答えようとしない大翔。


「ッ…やっぱり怒られるのが怖いのか」

「そうなの?」


 首を横に振る大翔。


「じゃあなんで?」

「………」


 口籠る大翔だったが、局部を蹴られてもなお堂々としている魔王の姿を見たからか、ゆっくりと訳を話し始めた。


「……恥ずかしいから」

「なーんだそんなことだったの。だいじょうぶだよ、緊張してるのはみんないっしょだから」

「そうじゃない」


 訳に納得した優菜は大翔を励まそうとするが、大翔は首を振ってそれを拒絶する。


「ぼくがいつララにでてたってことがクラスのみんなにバレるのがはずかしいんだ……」

「あーー…なるほど」


 大翔の思いに妙に納得した表情を見せる優菜。


「どうした?」

「私この子の気持ちちょっと分かるのよ」

「ほぉ……」


「私はこの番組が好きだから仕事も好き。だけど、周りからしたら低年齢向けの子供番組に出てる私よりドラマとかゴールデンタイムのバラエティーに出てる私の方がみんなは好きなのよ」

「そうか……」


「私も前にクラスの子達にそうやってバカにされた経験もあるしね」


 優菜の話を聞き大翔もそれに共感したようで思いの丈を告白し始めた。


「ぼくもいっしょ。がっこうでじこしょうかいをしなきゃいけなくて。すきなことをおしえてて言われたから、いつララをみるのがすきってこたえたんだ」

「へぇ……」


「そしたらみんなにわらわれたんだ。いちねんせいにもなったのにまだそんなのみてるのかって」

「ソイツら最悪ね…」

「ああ……」


「だから、ぼくがばんぐみにでてるってばれたらまたみんなからわらわれる。それがいやだったんだ」

「大翔くん」

「ふーん……」


 空返事ばっかり続ける魔王を睨みつける優菜。


「ねぇ、さっきからふーんとかへぇーとかほぉーとかそんなんばっかりだけどさ、大人なんだからもっと上手いこと言えないわけ!?」


 優菜は再び魔王の股間を蹴ろうとするが、魔王に防がれてしまう


「っ!」

「2度は喰らわんわ。大体それなら我になんて言って欲しいのだ」


「だからそれは!」

「お前も言っていただろ。この番組が好きだと。自分が好きならばそれでいいではないか。何故他人の価値観で自分の好きなものさえ否定されなきゃならないのだ!我にはそんな人間の考えが全く理解できぬわ」


「魔王……」

「周りにどうこう言われようがそんなもの自分がいいならいいではないか。別に悪いことをやってるわけじゃない。だったら堂々とおもいっきり楽しんで逆に自慢してやらないでどうする!」


 魔王の言葉に優菜は頷き笑顔を見せる。


「そうだよ大翔くん!好きなものは好きでいいんだから!!このチャンスものにしなきゃいつか絶対後悔するよ」

「おねえさん」


 優菜は深く頷く。


「少年よ。この番組に出演するのはそう簡単なことじゃない。そうだよな優菜?」

「その通りよ。いつララは誰でも出演出来るほど甘い番組じゃない。出ようと思ったって出れないのが当たり前なんだから!」


 魔王のパスを受けた優菜は大翔を大袈裟に煽っていく。


「そうなの?」

「そうよ!おじいちゃんのおかげでそのチャンスを手にいれたんだから大切にしなきゃ、おじいちゃんがかわいそうだよ」


「でもそれじゃこんどはみんなにおじいちゃんのおかげだってばかにされるかも…」

「あ、あーそれは…」


 思ってもなかった方向に転がってしまい優菜は目に見えて動揺する。


 やれやれ……人間という生き物は他人の目を気にしなきゃ動けないのか?


「だからそれがどうした?」

「え、」


「爺さんのお陰だろうがコネだろうが、お前の武器であることは変わらない。せっかく持ってる武器を使わないでどうする!我からしたら使えるものを使わない方がよっぽどバカだわ!!」

「だってさ、どうするひろとくん?」


「ぼくはばかじゃない!!」


 魔王は笑う。


「よく言った!その意気だ。お前の思いっきり楽しむ姿で学校にいる奴ら全員羨ましがらせてやれ!」

「うん!!」

「じゃ、行こっか!」


 優菜は大翔の手を握り出口に向かおうとするが、優菜は寸前で足を止める。


「どうしたのおねえさん。いかないの?」


 優菜はこれ見よがしに怪しげに笑う。


「そうだ。そういえばひろとくん?」

「なーに?」


 優菜にあからさまに子供のような口調で話し始める。 


「このおにいさん、きょうひろとくんといっしょにおどったらばんぐみやめちゃうんだって。しってる?」

「え!……」


 大翔は口を大きく開けショックを受ける。


「おい、なんのつもりだ」

「そ、そんなのうそだよね、おにいさん…」


 うっすらと涙を浮かべこちらを見る大翔。


「っ、そんなことで涙を流すな。それに案ずるな。我がいなくなっても番組が終わるわけじゃない。だから泣く必要など、」

「それじゃいやだよ!!」


「なっ…」

「ぼくはいつララがだいすき。だけどもっとすきになったのはおにいさんが、まおうがいてくれたからなんだ!!だからあってみたいっておもっておじいちゃんにおねがいした。それなのにもうあえないなんてやだよ……」


 涙浮かべ悲しむひろと。それに戸惑う魔王。

 そしてその様子を見て口角を上げしてやったりと微笑む優菜。


「だってよ。どうすんのポンコツ?」

「どうするって別にな、どうも…」


「ならぼくいかない!!」

「なぬっ!…さっきああやって納得したばかりだろ。それに最後だからこそ作れる思い出もあるんじゃないのか?」


「ぼく、これがさいごなんかやだよ!!」

「……」


 そんなに此奴は我を必要としてくれているのか?

 かつて人間からは嫌われ、同族の魔族すらからも距離を置かれていた我が。

 ここは我の居場所では無い。

 そう思っていたが、そう思っていたのは我だけだったということか。


「ファンの想いに応えるのがプロなんじゃないの?」

「小娘め、貴様こうなること分かっててわざとそうしむけたな」


「さぁね。でも、この子の気持ちと私の気持ちは似ているかも」

「まおう、おねがいだからやめないで……」


 泣き縋る大翔。


「……それがお前の望みか。それでお前は笑ってくれるのだな?」

「うん」


「分かった。ならば辞めるのは辞めだ!」

「え、ほんとに!?ほんとにずっとテレビにでてくれるの?約束だよ!」


「ああ。約束だ。誰かが我を求め続けててくれる限りはな」

「ありがとう!!」


 大翔は泣きじゃくりながら抱きついてくる。


「おい泣くな。我の唯一の私服が鼻水塗れになってしまうではないか」

「ポンコツ。こういうファンは必ず大事にしなさいよ。これ先輩からの忠告だから」


「分かってる。我も、我を思ってくれる人間の悲しむ顔は見たくないからな」

「ふーん。その台詞覚えとくからね。忘れないでよ」


「案ずるな。記憶力はいい方だしな」

「じゃあ今度こそ歌って踊りに行きますか!!」


 優菜は魔王を中心に大翔と手を繋ぐ。


「…ところで此奴はまだしも、お前まで我と手を繋ぐ必要はあるのか?」


 女性と手を繋ぐなんて相当久しぶりだ。手が汗ばんだりしてないだろうか。


「雰囲気よ。雰囲気。その方がらしいでしょ」

「そういうものなのか?」

「そういうものよ」


「おねえさん、まおう。はやくいこ!」


 大翔は手を引っ張り魔王達を急かす。


「ああ。行くか」

「それじゃあ、スタジオへレッツゴー!!」

「れっつごー!!」


 何故かノリノリな優菜に乗せられる大翔。

 そのまま大翔の方に乗っていたポコ改めてゴライアスも意気揚々としている。

 和気藹々したまま我らはスタジオへ向かった。


「あ、」

「あー」

「あ……」


 3人は出口の前で立ち止まる。


「アンタがどかしたガラクタ。なんでよりにもよって出口の前に積んであるのよ!!!なんとかしなさいよーーー」

「うむ……………」

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