第26話 なんとかなったんだよ

「……おい見つかったか!?」

「ダメです、上にはいませんでした!」


「そうか……」

「間宮さんは!?」

「俺もダメだ。手がかりすらみつからねぇ。こりゃあおしまいだな」


 スタジオに集まったスタッフ達の空気はまるでお葬式のように暗く落ち込んでいた。


「あーあ、ここでの仕事もこれで終わりかよ」


 すると1人のスタッフが慌てて駆け込んでくる。


「大変です。髙橋会長がもう直ぐここに大翔君を迎えにくるそうです!」

「そっか……。分かった。お前らは何があっても前に出るな。何か聞かれても全部俺のせいにしろ。いいな?」


「え、まさか全部1人で背負いこむつもりですか!?カッコ良すぎますってそれ!間宮さんらしくないですよ!!」

「ごちゃごちゃ言うな!仕方ないだろ。霧島さんが留守にしてる今、責任を取れるのは俺だけだ」


「でも、」

「でもじゃねえ!!」


 間宮は怒号をあげる。


「言ったろ。これから俺はらしくなく盛大にカッコつけんだ。お前らはそれを黙って見てればいい」

「間宮さん……」

「安心しろ。なんとしてでもこの番組だけは守ってやる。ま、たかがディレクターの俺の力でなんとかなればの話だが」


「悪いな間宮よ。カッコつけるのはお主ではない。我らの方だ!!」

「あぁ!?」


 声が聞こえて振り返るとそこにいたのは3人仲良く手を繋ぐ魔王達の姿だった。


「お前ら……例の子見つけたのか」

「ああ。それが我の仕事だからな」


「そうだな。って、なんで優菜も一緒にいるんだ!?確か今日はドラマなんかの撮影があって来れないはずだろ?」

「シッ!!」


 優菜は慌てて間宮の口を塞ぐ。


「(おい!いきなりなんのつもりだよ)」

「(すみません。でも今はなにも聞かずに黙ってて!!いい?)」


 敬語とタメ口が混ざる優菜。間宮にしか見えないように顔を隠すと間宮はそれを見て震え始める。

 直ぐに間宮は首を小刻みに縦に振る。


「(よろしい)」


 怪しげな笑みを見せて納得した優菜は塞いだ口を楽にする。


「子供の前で真似しちゃいけないことをするものではないぞ」

「あ、ひろとくん。よいこはまねしちゃだめだぞ♪」


 優菜は大翔にウインクしてみせる。


「う、うん」


「此奴は悪い子だから許されるのだからな。お主は良い子なのだからダメだぞ」

「誰が悪い子よ」

「グハッ……」


 魔王の脇腹を思いっきり殴る優菜。


「青柳。あの2人ってあんなに仲良かったか?」

「いや。でも前から優菜ちゃんの方はおにいさんの事気になってたみたいですけどね」

「へぇーー。あの子がね」

「ええ」


「あの……ごめんなさい!!」


 イチャつく2人を差し置き大翔が頭を下げ謝る。


「え、あ、」


 あまりにも素直に謝ってくる大翔に怒るタイミングを見失っしまう間宮。


「我からも。申し訳なかった」

「おい、お前までも…」

「ごめんなさい」


 魔王に続き優菜までも頭を下げる。


「お前ら……ったく。分かったよ。じゃあ、怒るのは無しだ」

「ゆるしてくれるの?」


「ああ。だけどその代わり君の楽しそうな顔を俺達に撮らせてくれ。いいかい?」

「うん!!」


「ヨシ。青柳!控え室に待たせてる他の子供達急いで呼んでこい!」


 気合いを入れ直した間宮はスタッフ達に指示を出す。


「間宮さんったら結局カッコつけちゃって。もう…」

「さぼんな青柳!!さっさと動け!!」


「はーーい!!」


 場に合わないほどのテンションのまま青柳はスタジオを後にする。


「アイツは。まぁいい。時間がない、なんとしてでも会長がここに来るまでに撮影を始めるぞ。いいな!?」

「ハイ!!」


 スタッフ達は急いで撮影の再開を急ぐ。


「ところで魔央。まさかお前までも一緒に謝るとはな、ちょっと意外だったよ」

「色々と気が変わってな」


「そっか」

「それより間宮よ。少し頼みがあるのだが」


「なんだよ?」

「このシーンもう一度我を主役にして撮影してくれないだろうか」


「はぁ!?」


 魔王の直談判に遠目で奈緒美の様子を伺う間宮。


「そんなこと言われたって、時間もねえしよ。それにお前本当に出来んのかよ?リハーサルの時みたいに失敗したらやり直しは本番じゃできないんだぞ」

「だからこそだ。我は土壇場に強いタイプだからな。きっとなんとかなる。なんとかしてみせる」


「なんとかってお前」

「頼む」


 再び間宮に頭を下げる魔王。


「お前、そんなに容易く頭を下げるような奴じゃなかっただろうが」

「これは容易い頼みじゃない。十分頭を下げるに値する大切なお願いだ」


「……分かったよ。そこまで言うならお前に賭けてやる」

「本当か。」 


「ああ。だがその前に俺が本物の謝罪ってやつを見せてやる」


 間宮は奈緒美の元へ行くと直ぐに頭を下げる間宮。


「すまない奈緒美。俺の独断だが今日の司会進行もう一度アイツに任せたいんだ。頼む。今日はいつも通りアイツのサポートに回ってくれないか」


 すると奈緒美は手に持っていたペットボトルを乱雑に置く。


「間宮さん。アナタも簡単に頭を下げるような人じゃないと私はそう思ってました。プライドも誇りもあるアナタが!どうしてそこまで……」

「直感だ。アイツはこの番組に必要な気がする。アイツを見るたびにそう感じさせるんだ」

「!!……」


 奈緒美は霧島も同じ事を言っていた事を思い出す。


「あんな奴だから、この番組には必要なのよ」


「頼む奈緒美。いや奈緒美さん!この番組の為にお願いします」


 さらに深々と頭を下げる間宮に心折れる奈緒美。


「……分かりました。そもそも私に番組の構成に口出す権利はありません。指示には従います。それがプロですから」

「奈緒美」

「だからちゃんとそれようの台本用意してくださいね」

「ああ。分かってる!」


 奈緒美の承諾が得られた間宮は急いでスタジオを後にして作業に取り掛かろうとした瞬間、優菜が道を塞ぐ。


「間宮さん」

「な、なんだよ…」

「私もこのシーンに出演させてください」

「は!?」


 優菜も頭を下げ必死にお願いする。


「おいおい今日はこういう日なのか……」

「お願いします」


 間宮は周りの視線を気にしながらも優菜に小声で話す。


「お前本当にドラマの撮影は大丈夫なのか?」

「それは…なんとかします」

「またなんとかか……本当になんとかなるのかよ?」

「なんとかします」


 決意溢れる優菜の表情に今度は間宮が折れる。


「…分かったよ。霧島さんには後で俺の方から説明してなんとかしておいてやる」

「ありがとうございます」


「…よし、お前らこの撮影絶対なんとかするぞ!!」

「ハイ!!」


 最後の間宮の号令が出演者達、スタッフ達のギアを格段に上げた。

 そして撮影は無事大成功で終わった。

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