第21話 ちびっこクライシス
翌日。
今日の収録はいつもより賑やかだった。
「わぁぁぁーーー!!すごいすごい!!」
「テレビでみたところだーー!!」
抽選で選ばれた20人の子供達がスタジオに集まり、収録に参加するのだ。
テレビに参加するとなって興奮した子供達が暴れ回りスタジオは大混乱。
「待て!ダメだ、それを触っては!!」
スタジオの愉快な装飾物がポロポロと取れていく。
「あまり走るな、ほら、カメラはあっちだぞ!!」
撮影中にも関わらず興味があれば直ぐどこかへ行ってしまう。
この様に無邪気に暴れ回る子もいれば
「…………」
皆踊っているのに1人だけただ棒立ちでじっとカメラを見続けている子もいる。
「貴様は何をしに来たのだ……」
これは想定外だった。まさか魔王である我の指示に耳を貸さない奴がこんなにいるとは。
子供ってこんな無茶苦茶だったのか。
しかもこんな面倒な事を午後もやらなければいけないとは。
どうやら我に子供の相手は向いてないらしい。
やはり我と対等に相手が出来るのは勇者だけなのか……
「アイツ…子供相手に相当テンパってんな。あれだけ上手くいってた生放送が嘘みたいだ」
「でもいいですよねこの感じ」
仕事の手を止めあっけらかんな様子を見せる青柳。
「そうか?」
「そうですよ。この子供達が自由に騒いでる感じ、なんかめちゃくちゃ子供番組って感じして楽しいじゃないですか!」
「全く楽しくないね。俺からしたら面倒毎が増えただけ。これならまだ神道が幅利かせてた方が楽だった気がするよ」
青柳の相手をしながらも忙しなく自分の仕事をこなし続ける間宮。
「そういえば午後のスケジュール聞きました?」
「ああ?今と同じように子供達入れて撮影するだけだろ?」
「それはそうなんですけど……」
口籠る青柳。
「なんだよ、なにか問題でもあったか?」
「いや、別にそういうわけじゃないんですけど~」
「だったらなんだよ」
「間宮さん。これ聴いたら絶対面倒だって言うと思って」
「なんだそれ、言うわけないだろ。ただでさえこうやって面倒毎に絡まれてるんだ。ちょっとやそっとじゃ俺は動じないね」
間宮も手を止め霧島に耳を傾ける。
「本当ですか?」
「本当だよ」
「絶対ですよ?」
「絶対だ」
「じゃあ……」
青柳が耳元で囁く。
その瞬間、さっきまでの自信に満ち溢れた間宮の顔からやる気を失った死んだ魚のような目をする。
「そりゃあ、最高に面倒だ……」
「ほらーー」
「いやーすまんね。急な頼みだったのに」
「いえいえ、それは大丈夫なんですが。その子が例の」
会長の機嫌を伺いつつ会話を続ける霧島。
「そう。私の孫の大翔だ。どうしてもこの番組に出てみたいと孫に頼まれてしまってね。つい最近、一年生になったからその記念も兼ねて祝ってやりたくてな」
「厳格そしてやり手で知られ、鬼の髙橋とまで周りから恐れられていたという会長もお孫さんには弱いんですね」
「いやー本当その通りだよ。孫には自分の子供の時以上に甘やかしてしまう。困ったものだ」
なんて事を言いながらも顔は笑顔そのもの。本当に困るのはその爺さんに振り回される周りの方なのだが……。
そう思いながらも霧島は孫の大翔君に話しかける。
「ひろとくん!今日はよろしくねー」
「…………」
むすんとしたまま何も発さない大翔。その手にはデフォルメされた恐竜の人形を力一杯握りしめていた。
「…その恐竜かわいいよね。実はお姉さんもそのシリーズ好きなの」
霧島は偶々持っていた彼が持っている人形と同じキャラクターが描かれたアクリルキーホルダーを見せる。
「!……」
少し反応があった気もするが直ぐに下を向いてしまった。
「こら大翔。せっかくお前の好きな番組に出れるんだぞ。挨拶ぐらしたらどうだ?」
「…………」
そう言われると大翔は声こそ発さなかったもの頭だけを下げ、初めて自らの意思を見せた。
「すまないね。どうやら自分が好きな番組に出れるっていうんでとても緊張してるみたいだ。許してくれ」
「いえいえ、全然気にしてませんから。あ、そうだ、ひろとくん。あっちで今日するダンスとかの説明するからおいで!」
再び頭だけをゆっくりと縦に振ると、霧島に連れられていく。
「それじゃあ霧島君。ひろとのこと暫く頼んだよ。撮影が終わったころまた迎えに来るから」
「あ、はい。お任せください」
「ったく、ここは託児所じゃないっつーの……」
「やっぱりあのおじさん。センス無いんですよ」
霧島の様子を少し離れた場所から伺っていた間宮と青柳。
「アレが例の子だろ」
「そうです。間宮さんが嫌がる面倒毎の種ですよ」
「あーあ、それにしてもやっぱり権力者ってのは違うなーー」
「そうですねーー」
「そう言ってるお前もそうだろうが、このコネ入社!」
側にあったハリセンでぶっ叩く間宮。
「いったぁ!!だから私はコネ入社じゃありませんってば!!何度言えば分かるんですか、もう〜」
「そっちじゃなくてもっと突っ込むべきところはあるだろ……」
「え、何がです?」
ぽかんと口を開ける青柳。その真っ直ぐな態度に呆れた間宮は話題を変える。
「だけどたやっぱりスポンサーの孫ってだけでこの待遇だぞ。ちょっと羨ましいよなー」
「そうですか〜、私は全然そうは思いませんけど」
「それはお前がそっち側だからだよ。ったく、ちょっとは考えても見ろよ。普通、この番組の観覧や番組に出演する子達は抽選に当たった子達だけだろ?」
「ですね」
「それなのにスポンサーの孫ってだけで無条件で番組に出れるんだぞ。ズルいだろ?」
「あ、本当だ!!あの子ズルいよ!!流石はあの会長の孫ですね」
「ヘッ、お前にだけは言われたくねぇんだけどな…」
「なんでです?」
再びぽかんとする青柳。見れば見るほどなんだかムカつくなんと言えないこの表情。
「いいや、気にすんな……」
「はーーい!!」
間宮は出そうになった拳をそっと左手で抑えた。
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