第20話 天才子役は毒牙がよく似合う
「カット!!…おい、魔王!!」
「またか……」
「お前、うたのおにいさんとして番組の顔になったんだからさ、もっとちゃんとやれよ!!」
番組リニューアル後からの初収録。キャスト陣も大きく変わり番組は一新。
そんな記念すべき収録で、間宮に叱られる続けること15回目の魔王。
「我だって我なりにやっておるわ!!あんまガミガミ言うのではない!」
「それが嫌ならもうちょっと歌、上手くなれよ〜〜」
呆れながら項垂れる間宮。
「し、仕方ないであろう?魔王である我にだって苦手な物の1つや2つはあるのだから…」
「だけどよ、流石にこの音の外れ具合は見てるちびっ子耐えられないって」
「……じゃあ、どうしろというのだ」
「頑張るしかないだろ!もうお前が主役ってことで番組が再スタートする事になったんだからよ」
あれよあれよという間に番組がリニューアルして撮影が始まったが、元の世界で魔王として戦っていた頃の方がよっぽど楽だったと、最近はずっと思う毎日だ。
「ったく、神道のバカがいなくなってちょっとは楽に仕事ができると思ってたんだけどな。今の方が仕事量増えてるんですけどーー!!」
我に嫌みをぶつけるな。我だって同じ気持ちだ。
「本当よ、足引っ張んなって話」
見たこともない子供が毒を吐く。
「…さっきからずっと思ってたのだ。あの生意気な子供は誰だ!!」
「優菜よ」
撮影が上手くいかない様子を見かねて霧島がやってきた。
「プロデューサー」
「説明してなかったけ。今回リニューアルのついでに復帰することになった子役の小笠優菜よ」
「復帰?」
「そうよ。ほら、神道って子役と共演NGだったから。それで暫く番組を休んでもらってたのよ」
よくそれで子供番組に出ていたものだ。
「年齢的には貴方の方がよっぽど年上だと思うけど」
そりゃそうだろ。なんせ我は20500歳だからな。
「芸歴的にはこの中で1番長いんだから。色々と教えてもらいなさいよ」
「だが所詮は子供だろ」
「子供って言うな。ポンコツ」
「ぽ、ポンコツ……」
なんてドSで生意気な小娘だ。
「なぁ、青柳」
「はい?」
魔王が唖然としている中、間宮は青柳に話しかける。
「優菜ってそんなに芸歴長かったのか?最近はドラマやバラエティーで見ること多くなってきたけどさ」
「私もテレビの情報でしか知らないんですけど、生後3ヶ月には既にオムツのCMに起用されてたみたいです」
「3ヶ月!!そんな小さい頃からか」
「ええ。それからずっと子役としてちょこちょこ活躍を続けて、最近ようやく人気子役として知名度が上がってきたみたいですよ」
「アイツって何歳だっけ?」
「11歳です」
「あれでまだ11歳なのか!?随分大人っぽく見えるけど」
「それが彼女の売りなんですよ。それに彼女、子役とはいえ女優ですから」
「天才って奴か。末恐ろしいな」
「ねぇ、ポンコツ」
「……」
「ポンコツってば!!」
我の足を思いっきり蹴飛ばす優菜。
「いたっ!……我はポンコツではない。魔王だ。用があるならせめて名前で呼ばんか」
「嫌よ。歌は音痴で15回もNG出す奴は十分ポンコツだと思うけど?」
「なっ……(それを言われるとぐうの音もでぬではないか)」
それを受け間宮達スタッフの顔は必死に笑いを堪えているようだった。
「悔しかったら、もっと上手くやることね。そしたら特別に名前で呼んであげる」
「おのれ……どこまでも我を小馬鹿にしおって。よかろう。ならばやってやる。必ずお主を納得させ我を魔王と呼ばせてやるぞ!!」
「やれるもんならやってみなさいよ」
そして満を持して撮影は再開。
意気込む我はその後50回追加でNGを出し、そのシーンは丸ごとお蔵入りとなった。
「霧島さん!!」
「ちょっ、そんな怖い顔しないで。せっかくの美人が台無しよ」
2人だけの会議室で霧島に詰め寄る槇乃。
「茶化さないでください!!」
「なら落ち着いて。それじゃ話しにならないから」
「すみません……」
我を取り戻し、一定の距離をとる槇乃。
「で、なに?奈緒美が私に話だなんて珍しいんじゃない?」
「私はやっぱり反対です。あんな男はこの番組に相応しくない」
「誰のこと?」
「あの男ですよ!摩戒魔央!」
とっていた筈の2人の距離が再び近くなっていく。
「どうしてあの男なんですか!?」
「近いな……。アイツだからよ」
「は?」
「あんな奴だから、この番組には必要なのよ」
堂々と言い切る霧島の様子に頭を抱える槇乃。
「台本通り進めない。歌は下手。周りのスタッフ、演者までにも迷惑をかける。そんな奴のどこに必要な要素があるって言うんですか!!」
「だけどさ、面白いじゃん」
霧島の一言に騒然とする槇乃。
「面白いって……。これは仕事ですよ。私達はプロなんですよ!!」
「そうよ。だからこそアイツが必要なんじゃない。プロの私達じゃ出来ないようなことをやってのける素人がね」
「すみません。意味が、わかりません……」
「大丈夫。私もよく分かってないから」
「え?」
霧島は微笑み槇乃の方をそっと2回程叩くと、そのまま会議室から出て行ってしまう。
「やっぱりあの人も無茶苦茶ね……」
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