第19話 まおうさまクラスチェンジ

「予定している改編内容としましては、子供達の積極的な番組参加。そして思い切って番組MCの変更をと考えております」

「………」


「!!(MCの変更だと!?俺への相談もなしにあのプロデューサーどういうつもりだ!!)」


 苦悶な表情を浮かべ怒り心頭な神道だが、会長の目もありいつものように声を出すことが出来ずにいる。


「番組改編はこれからの番組の運命を左右する大きな選択となります。そこで類い稀なる真贋をお持ちの髙橋会長のご意見をお聞きしたいんです」


「(ヨシ、なら大丈夫だ。会長は俺の事をとても気に入って下さっている。その会長がそんなバカな話を認めるはずがないからな!!)」


 明らかに余裕がなかった表情から打って変わって完全に安心しきる神道。

 喋ってもいないのに表情だけで五月蝿いくらいだ。


「…因みにこの事進藤君はなんて言ってるんだね?」

「俺はですね、」


 喋り出す進藤の声を掻き消すように霧島は大きな声を出し過剰にアピールする。


「実は!!このリニューアル内容を最初に考えてくれたのは何を隠そうそこにいるあきひろおにいさんなんですよ!」


「は?」


 霧島の発言に頭が追いつかない神道。


「ほう進藤君がか!」

「ええ。この番組をより子供達が楽しめる、そして思い出になるような番組にするためには新しい展開必要だと、そう仰ってくれたんです」


「おいおい俺はそんなこと……!!」


 神道が喋り出そうとした瞬間、いつの間にか背後にいた間宮

 と青柳が口を塞ぐ。


「んーんー!!…(お前ら!!)」

「頼むから今は黙っとけ」

「お口チャック!!」


 間宮達は小声で神道に釘を刺す。


「俺はこの番組を愛している。この番組を良くする為なら喜んで俺はこの先を後輩に譲る。ってそう言ってくださったんです!!」


「ほう…あの神道君がそこまで考えていたとはな。神道君、それは本当なのかい?」


 会長が神道の方へ振り返ると間宮達は慌てて塞いでいた手を外す。


「ゴホッ、…あの、それはですね……ちょっとスミマセン」


 息を整えると神道は霧島を連れて小声で話し始める。


「おいっ、今のどういうつもりだ。俺はそんな話一度もしてないだろうが!!」

「なら、そういう事にしておきなさい」


「なんだと?」


 先程の霧島からは想像出来ないような冷酷さが感じられる。


「アンタが今までキャストやスタッフ達にやってきたパワハラやセクハラの数々。それ全部週刊誌にリークされたくなかったらね」

「っ!!……お前、まさか俺を脅すのか!?」 


「そうよ」

「お前な、誰のお陰で今日までこの番組がやってこれたと思ってんだよ!俺だぞ、この俺だ!!それなのにお前は恩を仇で返すつもりか」


「……確かに、アンタのお陰でこの番組は続いてこれた。だけど今のままじゃ番組やってる意味がないのよ!!」

「おまっ…」


「私決めたのよ。この番組のためなら悪魔にでもなってやるってね」


 霧島の圧が神道を追い詰める。


「神道くん、それでどうなんだね?」


「会長がお待ちよ。さっさっと決めなさい。この番組の為に好感度を上げて去るか、私と一緒に地獄に落ちるか」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」


 真っ青だった神道の顔はどんどん赤くなっていく。


「進藤君?」


「そうなんですよ!!全部、俺がこの番組を愛してる故の提案なんですよーー」

「やっぱりそうなのか!」


 コロッと態度を変え会長に擦り寄る事を選んだ神道。


「ええ。この番組を長く続ける為には変化を止めてはならない、そう考えたんです。今度は未来有望な若手達がこの番組をより子供達の為に、高みを目指していく番だとね!!」


「よくもまぁ、あんなでまかせが言えたもんだ…」

「本当ですよ。この番組のことなんて1ミリも考えてなかったくせに…」


 いつものように小声で愚痴る間宮達。


「いやぁ、流石は進藤君だね!!よくこの番組の事を考えている。君が決めたなら私は応援するよ。霧島プロデューサー」

「はい!」


「私は実にいい提案だと思うよ」

「ありがとうございます」


「私も神道君と同じようにこの番組を愛している。これからもスポンサーとして私に出来ることはなんでもしよう。力にならせてくれ」

「勿論です!これからもよろしくお願いします!!」


 霧島と会長は熱く握手を交わす。

 スタッフ達はそれを大きな拍手で祝う。


「所でプロデューサー。神道君の代わりのMC誰に任せるつもりなんだい?私は是非だね、」

「分かっておりますわ。私も最初からそのつもりでしたから」


「ほお!となると」

「ええ。新番組MCは、まおおにいさんに任せたいと考えております!!」


「えっ……」


 途中から話についていけなくなり、興味をなくし暫くぼーっとしていた魔王は思わず戸惑いを隠せない。



「いいじゃないか。これからは君が主役だ!!」


「ちょっと待て…。それは魔王である我にもっと目立てと言っておるのか?」


 確かに、この仕事を始めた最初は、どうせテレビに出るなら魔王として目立ちたいと考えてはいたが、今は違う。

 人気になればなるほど、今朝のような無邪気な子供達に襲われ続ける生活が長くなるってことだ。

 そんな大人数の人間から常日頃襲われる恐怖と戦うくらいなら、元の世界で勇者と戦っている方がよっぽどマシだわ!!

 頼む、プロデューサー。そうじゃないって言ってくれぇぇ!


「そうよ。まおおにいさんこれからもっと頑張って!!」


「なっ…なんだってえぇぇ!!」


 こうして魔王ディアボロス・サタンこと、まおおにいさんは、願い通じず子供番組に出演する陽気なおにいさんから、番組MC兼うたのおにいさんにクラスチェンジしたのであった。

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