第18話 やっぱりあのオッサン、カツラだよね

そんなやり取りの後、今日の撮影の前にプロデューサーである霧島さんがお客さんを連れて来ていた。

 神道などのキャストはもちろん周りのスタッフ達もその客に頭が上がらない。


「間宮よ、ちょっといいか?」


 我は客に挨拶を終え戻って来た間宮に問いかけた。 


「なんだよ?」

「ずっと疑問に思っているのだが、あの偉そうな男は一体誰なのだ」


「は?まさかお前知らないのか!?」

「知らん。あんな男一度も見たことないわ」


「お前やっぱりスゲェな……」


 何故だか間宮に感心される魔王。呆れられただけかもしれないが。


「で、なんなのだ、あの妙に髪の生え際が怪しい男は?」

「バカ!!そこは触れちゃダメなんだよ!」


 我の頭を思いっきり叩く。


「何故だ?だってアレじゃ明らかに」

「言っていい事と言っちゃいけない事がこの世界にはあるんだよ!」


「やっぱりあのオッサン、カツラだよね」


 間宮の背後から辛辣な女の声が聞こえる。


「お前、なに人の後ろから悪口言ってんだよ。青柳〜」

「いいじゃないですか~」


「良くねぇよ。ってかなんでお前は隠れてんだよ」

「私あの人と会いたくないんです…」


「は、なんで?」

「忘れたんですか、あんなに私の事コネ入社だって言うくせに!」


「それと何が関係あんだ……って、そういうこと」


 青柳の事情を察した間宮。


「なぁ、2人で話を進めないでくれ。我はさっぱり話についていけん」

「しょうがないな。いいか?あそこにいるあの人は、」


「カツラよ」

「青柳は一回黙っとけ」


 強引に青柳の口を塞ぐ間宮。


「あの人はだな、この番組のスポンサーをしてくれてる髙橋製菓の会長だ」

「スポンサーって事は偉いのか?」


「当たり前だろ。ウチは民放だからな。どんな番組もスポンサーがつかなきゃやってけない。スポンサー様が言うことは絶対なんだよ」

「ほう……」


「で、そんな髙橋会長は何故だか神道の大ファンなんだ」

「あんな奴のファンだなんてセンスないんですよ、センスが」


「だからお前は黙っとけ〜…」


 喋る青柳の口を再び塞ぐ間宮。


「なるほど。だからこの番組を支援してくれてるって事だな」

「で、そのスポンサーのライバル企業AOYAGIのご令嬢でコネを使って入社したのがそこにいる小娘ってわけだ」


「それであんなにあの男の事を嫌がっていたのか」

「ライバル企業社長の娘がスポンサーをしている番組を作ってるなんてあの人に知られたら、それはもう……。大企業のご令嬢も楽じゃないってことかね」


「ぷはぁっ!……やっと喋れる!!だから私はコネ入社じゃないって何度言えば分かるんですか〜!!」

「声が大きい!」


 慌てて青柳の口を塞ごうとする間宮だったが、既にそれは手遅れだった。


「君達!!」


 我の背後には真剣な面持ちの髙橋会長の姿があった。


「ヤバっ……間宮さん、私を守って!」


 会長の顔を見るや否やすぐさま間宮の後ろに逃げ込む青柳。


「もう手遅れだよ。諦めろ」

「そんなぁ……」


 絶望する青柳。


「君が噂のまおおにいさんかね?」

「うむ」


「あれ、私じゃない?」


 会長の目的が違ったことでホッとした表情を見せる青柳。


「もしかしてこの前の生放送の件で怒らせたんじゃ?」

「え、でもまおおにいさんの評判は良かったですよ」

「それはあくまでもネットでの話だろ。アレをスポンサーがどう思うかは別の話ってことだ」


 会長の目的を察した神道は後ろで何故かニヤニヤが止まらない。


「君!!」


 殺られる!……子供の次は大人に命を狙われるのか。獲物を狙うような眼差しとこの感覚、殺気で間違いない。懐かしい、勇者と戦っていた時の事を思い出す。

 いいだろう、ならばかかってこい!

 正々堂々魔王として相手になってやる。



「……良かったよ!!」


「え?」


 さっきまでの表情とは一変し、笑顔でこちらを見つめる会長に拍子抜けする。


 殺られない……何故だ!まさかこの男。その笑顔

 を使って油断でも誘ってるつもりか。

 そうはいかんぞ!!


「この前の生放送、本当に面白かった。あんなに笑ったのは久々だったよ!!」

「それはお前の本当の気持ちなのか?」

「!?」



「おいおい会長相手にタメ口かよ。やっぱりアイツタダもんじゃねぇ……」

「いいぞまおおにいさん!その調子でそのカツラも剥がしてちゃえ!」


「お前はなに変なとこで興奮してんだよ。(それよりもアイツ。あの人にタメ口なんて使って大丈夫なのかよ)」


 青柳の態度に呆れながらも魔王の行動に不安を隠しきれない間宮。


 その不安を的中させるかのように神道が動いた。


「おいお前!!髙橋会長にそんな利き方は失礼だろ!!…髙橋会長すみません。コイツまだ新人なもので全てはこの番組の顔である私の責任であります。どうか私の顔に免じて許していただけませんでしょうか」


「神道の奴。アイツを庇うふりして自分の好感度を上げようとしてやがる…」

「かぁーー、どこまで小賢しい男ですねあの男は!!」


「いやいや、いいんだ進藤君」

「え、」


「別に私はなにも気にしていない。それにそのほうがなんだか彼らしいじゃないか。アハハハ」

「そ、そうですね。あはは……」


 ご機嫌に笑う会長と対象的に明らかに引き攣った笑顔を見せる神道。


「たしか、魔央君と言ったね」

「さよう。我の名は摩戒魔央だ」


「それで魔王か。いやー実に面白いね!!君は本当に面白い!」

「それは本当なのか?もしや他に何か目的でも、」


「本当だよ。君が子供達に仕掛けたマジックもとても素晴らしかったし子供達と一緒に盛り上がる演出もとても良かった!まぁ、歌だけはもうちょっと練習してもいいかもしれないがな。でも何より子供達が楽しそうにしているところが良かった。とても見ているこちらも嬉しくなったね」



「あの会長意外と見る目があるのか。それともただの変人好きか?」

「決まってます。あのオッサンはただの変人好きの変態ですよ!」


「お前が言うな。この変人変態ドマゾADが!」

「ご、ご馳走様です!!」


「おいおい……」


 興奮する青柳とそれを興奮させる間宮の会話には誰も聞く耳を持たず魔王と会長との会話は進展を迎えていた。


「流石会長です!!見るべきところが分かってらっしゃる!!」


 突然霧島が間に入ると、やたらに会長相手にごまをすりはじめる。


「それ程でもないさ。私はただ面白いと思った事を口しただけだ。アハハハ」


 分かりやすい程機嫌が良くなる会長。


「そこで会長にひとつご相談がありまして」

「相談?」


「はい。実は今回の生放送の成功を受けまして、より子供達が楽しめるように番組改変をしようと考えています」

「ほう」


「改編!?そんな話してたっけ」

「いや私も初耳です」


 間宮達をはじめ周囲のスタッフ達も突然の発表に驚いている。

 それはキャストも例外ではなく。


「(改編だと!?……俺

 はそんな話知らないぞ!!)」


 分かりやすい程神道の顔には動揺が見られていた。

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