第22話 世にも大迷惑なかくれんぼ

「じゃあみんな!じゅんびはいいかなーー!?」

「はーーーい!!!」


 撮影本番、少し前。

 なおみおねえさんが子供達に語りかけ士気を高めていく。

 この前起きた魔王の50連発NGの影響もあってからか、番組の進行は奈緒美が担当することとなった。

 勿論、メインで歌うのも奈緒美だけ。

 そして我はというと……


「だからってこんな端は流石にあんまりだろうが…」


 魔王は画面から見切れるギリギリに配置された。


「何故我がこんな場所に」

「仕方ないだろ?」


 魔王のインカムから間宮の声が聞こえる。


「、聞いてたのか?」

「聞こえただけだよ。いいか魔王。今回の主役は奈緒美とそこにいる子供達だからな。くれぐれも前みたいに目立つなよ!!いいな?」


「分かった…」

「本当に頼むぞ。素人の子供相手に何度も取り直しは無理なんだからよ」


「だから分かっておる!」


 くそ……。

 目立ちたいわけではないがなんだか悔しいな。

 こんな気持ちになったのは、我が初めて勇者に傷をつけられた時以来だな。思い出すだけで腹立たしい。


「じゃあいっくよーーー!!」


 奈緒美の合図を受けた間宮は撮影を始める合図をする。


「青柳」

「はい。それでは本番まで、5秒前!!4.3.2.」


「あの〜……」


 カウントが終わりカメラが回り始めようとした瞬間、1人の男の子が突然手を挙げた。


「え、あー、カット!!」


 仕方なく間宮はカメラを止めさせる。

 青柳は慌てて男の子に子供のような口調で事情を聞きにいく。


「えっと、どうしたのかなぁ?ひろとくん」

「あの、、ちょ、ちょっと」


 もじもじする大翔。


「ん?」

「……トイレにいきたい」


「え、今!?あーー、すぐおわるからがまんできないかな〜?」

「むり……」


 彼が肌身離さずに持っている恐竜の人形は強く握りしめられ潰れていた。


「そっかぁ……間宮さんどうします?」


 青柳は小声でインカムを使って間宮に尋ねる。


「これだから金持ちと権力者の子供は……しゃあない。10分休憩だ!!今日は押すぞ、覚悟しとけ」

「はーい……」


 スタッフ達の項垂れた様子がどこを見回しても伺える。

 そして撮影は中断。10分の休憩が取られた。


「じゃあ、ひろとくん。トイレいこっか」

「んーん、ひとりでいける」


 案内しようとした青柳の手を振り解く大翔。


「そっか。ばしょとかわかる?」

「うん」


「わかった。じゃあ、おねえさんたちここでまってるからいっておいで」

「うん……」 


 そうすると、大翔はスタジオを駆け足で出て行った。


「間宮よ」

「なんだよ?」


「撮影しないのか?」

「話聞いてたろ。やりたくても出来ねぇんだよ。ちょっと待ってろ」


 インカム越しからでも間宮がイラついてるのが分かる。


「待つ必要ないだろ。子供はまだ沢山いるではないか。その子達だけで撮影すればいいだろ?」

「それが出来たらとっくにやってるよ」


「なに?」

「あの子はスポンサーの孫なんだ。その爺さんが自分の孫が番組に出てないなんて知ったら、なんて言われるか分からないだろ?下手したらスポンサーを降りるなんて言われかねない。待つしかないんだよ」


「そうか、やっぱり人間は大変だな……」

「所詮俺達庶民は権力者のいいなり。我慢が仕事なんだよ」


「なるほどな。って、俺達?おい、我は庶民などではないぞ!」

「はいはい、わかったわかった。もうすぐ撮影再開すっからちょっと待ってろ」


 魔王を雑に遇らう間宮。


「チッ、間宮の奴信じておらんな…」


 我は不貞腐れながらステージの隅っこに座り時間が経つのをただただ待つしかなかった。



 それから10分後。

 スタジオがやけに騒がしくなり、スタッフ達もなんだか慌て始めてる。


「間宮よ、そろそろ時間ではないのか?」

「分かってるよ!!」


 我の当たり前の問いかけは怒号で返ってきた。


「何をそんなにキレることがあるのだ……。そういえば人間はカルシウムという成分が足りないとイライラするらしいが、間宮のあれもその類か?」


 魔王の思いとは裏腹に現場は大慌てだった。


「青柳、どうだった!?」

「……駄目です。トイレには誰1人入ってませんでした!!」


「マジかよ……本当にちゃんと見たんだろうな?」

「見ましたよ!!女の私が男性トイレに入ってもなんのトラブルも起きなかったのが何よりの証拠です」


「おいおい、これどうすんだ……」


 頭を抱える間宮。


「これヤバいやつですよね」

「ヤバいに決まってるだろ。これじゃ撮影が再開出来ないんだからな!」


「いや、それもそうですけど」

「なんだよ」


 柄にもなく珍しく冷静に分析を始める青柳。


「もしもこのままひろとくんがいなくなった事が会長にでもバレたりしたら、どうなると思います?」

「え。それは……きっとキレられる」


「それで済めばまだいいですよ」

「他になんかあんのかよ?」


 頭を抱え過ぎた間宮は頭が回らない。


「この事がきっかけで会長の怒りを買った私たちはきっと責任を取らされる事になるでしょう」

「そうか……。そうなったらやがてスポンサーからも撤退。そうなれば番組はもう」


「ええ。おしまいですよ……」


「やべぇじゃん!!」

「ヤベェですよ!!」


 事態の重大さを改めて認識した間宮は更に慌てふためきだす。


「そうだ、こんな大変な時に霧島さんもどこにいんだよ!」

「あーー、ちょっと前に上司に呼ばれたってことでどこか行きましたよ」


「マジか……。しゃあねぇ!俺達でなんとかするしかない。お前ら!!急いで局内の出入り口塞げ!!死ぬ気であの子供を探すんだ。見つからなきゃ俺達の未来はない。いいな、見つけて来るまで戻ってくるんじゃねぇぞ!!行けーーー!!」


「はい!!」


 間宮にに鼓舞されたスタッフ達は全員仕事を投げ出し、スタジオから飛び出ていく。


「あ、間宮さんは!?」

「俺も行くに決まってんだろ!青柳は上を探せ。俺は下に行くからよ!」

「あ、はい!」


 遅れて青柳、間宮達も大翔君を探しに向かう。

 だが、間宮は直ぐに足を止めると先に魔王の元へ向かう。


「お前もそんなとこで突っ立ってないで探しに行けよ!!」

「何故我が。それは我の仕事ではないはずだろ?」

「馬鹿野郎!!」


 間宮は我の頭を思いっきり叩く。


「なっ……」


 グーだぞ。グー。グーで我を殴っただと。

 今までならまだ冗談だと笑っていれたが、もう限界だ。


「勘違いすんな!それが今のお前の仕事なんだよ!!いいからつべこべ言わずに行ってこい」

「っ…仕方ない。だがこれが最後だからな。これが終わったら我はこの仕事を辞める」


「!…勝手にしろ。どっちにせよ、子供が見つからなかったら嫌でも辞める事になるだろうからな。とにかく行け!」

「っ……」


 間宮の圧力を受け渋々我もスタジオを出て子供を探すことに。

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