第13話 魔王の手も借りたい
「……あ、ようやく見つけた!!」
「ん?」
「なに昼間からいい大人が公園でビール飲んでんのよ」
「別に良いではないか。仕事があるわけではないのだから我が何をしようと勝手だろ」
生放送の出番を失った我は、なけなしの金でビールを買いテレビ局近くの公園で黄昏ていた。
そんなタイミングで霧島はやってきた。
それも息を切らし、顔色も真っ青。その様子を見るに何かが起こったに違いない
「そっちこそこんな時にどうした。生放送は良いのか?」
「その前に今日は本当にごめんなさい。全部私の力不足。本当に申し訳ない!」
来るや否やいきなり深々と頭を下げる霧島。
何故この国の人々はこうも簡単に頭を下げれるんだ。プライドがないのか?いや、逆か。
「それで実は今、トラブルがあって生放送は中断してる」
「だからなんだ?」
「……私が言えた事じゃないのは分かってる。だけど言わせて。もう一度貴方に番組に出て欲しい」
「ほう……本当にどの面下げて言ってるのかって話だな」
「何を言ってくれても構わない」
霧島の瞳は凛と真っ直ぐ我を見つめていた。
「ならば何故謝ってまで我に頼る?我でなくても打開する方法なら探せばいくらでもあるだろうに」
「悪いけど、今の私には貴方に頼む事しかろくな方法が思いつかないのよ」
「随分思い詰めてるようだな」
「それだけピンチって事よ……正直言って猫の手も借りたい気分なの」
「それで我を頼ると…」
「時間が無い。早く答えて。出てくれるの?それとも出てくれないの?」
「決断する前に1ついいか?」
「出てくれるなら」
「フンっ……ずっと前から気になってたことがある。何故あの時偶々通りすがっただけの我に声をかけた?」
「それ、今どうしても言わなきゃいけないやつ?」
「別に。言いたくないのなら好きにすればいい。我も好きにするだけだ」
「いじわるな人……」
拗ねる霧島。
美人のそんな顔も偶には悪くない。だけど、どうせなら笑ってる顔が見てみたい。そんな気もする。
「魔王だからな。当然だ」
「そういうところよ」
「あ?」
「そうやって自分のことを魔王だって言い張って決めつける感じ。きっとそういうところを私は気に入っちゃったのよ」
「いい加減な理由だな」
「そうよ。何か文句でも?」
少し照れた表情を浮かべる霧島。
「いや別に。ちょっとな」
これにはなんだか拍子抜けだ。運命的な出会いがきっかけだとか、なんか、そんなロマンチックな事を少しでも期待していた我が恥ずかしい。
「だって中々いないわよ。セリフ以外で自分の事を魔王だって言い張る大人は」
「…それで我をスカウトしたのか?」
「そうよ。普通ならそんなバカな事言ってる奴を引き入れるなんて前代未聞。どうかしてるって逆に私が怒られちゃうもの。だからこの事は会社には秘密ね」
「秘密にするくらいなら我なんか引き入れなければ良かったではないか。今もそうだ」
「さぁね、細かい理由なんて私にだって分からないわよ。だけど初めて会った時思ったのよ。貴方なら何かを変えてくれるって」
「……」
「私はその直感を信じただけ」
「ならその直感は外れたのかもな。我の事を買い被りすぎだ」
「かもね。だとしても私は自分の選択に後悔なんかしないわ。貴方が私に後悔させるとは思えないから」
「まだ信じるのか我の事を」
何故彼女はこれ程真っ直ぐなのだ。
どうしてそこまで魔王である我を信じれる。人間からも同族である魔族からも距離を置かれていた我を何故そんな理由だけで信じられる。
「あ、だけど勘違いしないで。別にそれ以上の意味はないから。ただ私は貴方を信じた私を信じてるだけ」
「そうか……」
言うじゃないか。ならば我も。
「ってかさ、ごめん。めんどくさい!!」
「なっ……」
煮え切らない我に痺れを切らした霧島は今までじゃ想像できないほどに豹変しキレる。
「さっきから何迷ってんのよ!!こっちは時間がないのよ!さっさと決めてちょうだい!」
「それはだな……」
「何で迷ってるか知らないけど、アンタ魔王なんでしょ?」
「そ、そうだ」
「だったらちょっとの理不尽くらいでたじろぐな!魔王だったらそのくらい簡単に打ち破ってみなさいよ!!」
これが霧島の本性か……。
どうやらこの世界の女性は内心、気が荒い鬼のような一面があるらしい。
美しいな。そして強い。魔王である我が霞むくらいだ。
「魔王らしく私の期待くらい簡単に超えてみなさいよ!返事は!?」
「ハハハハハッ!!!……いいだろう。面白い!そこまで言われたら我も負けておれんからな。お陰で迷いは断ち切れた、感謝するぞ」
「そ、なら良かった」
「魔王として民の期待に応えるのは当たり前だと思い出した。どうやら我はそんな簡単な事も忘れていたようだ」
「なら力貸して?」
「ああ。こんな我で良いのならな」
「ありがとう」
「うむ。猫の手より魔王の手を掴んだ事、後悔はさせん」
「有言実行頼むわよ」
我は差し出された手を握る。
「そうと決まったら急いで!!」
霧島は時間を時間を確認する。
「ヤバっ、残り1分もないわ。とにかく走って!!」
「落ち着け。まだ焦る時間ではない」
「何言ってんのよ!!いいから、早く走って。じゃなきゃ間に合わない」
我を強引に引っ張りスタジオに向かおうとする霧島。
「懐かしいな。ちょっと前の我もそうやって時間に追いかけられ焦っていた」
「なら今ももっと焦ってよ!!」
「同じミスはしない。もう大丈夫だ」
「はぁ?」
「目を瞑れ」
「何言ってんの?」
「急いでるのだろう。ならばさっさと目を瞑れ」
「だからそんな暇はないんだってば。ああ、もう30秒もないわよ」
「騙されたと思って目を瞑れ!一瞬で構わない」
「なんなのよ…」
強引に押し切られ仕方なく目を瞑る霧島。
「もう良いぞ」
「これで満足?なら急ぐわ、」
その時間約1秒。霧島が再び目を開けるとそこは既にテレビ局の中だった。
「何これ……え、どういうこと?なんで私、テレビ局にいんのよ!?さっきまで私外にいた筈なのに。ねぇ、どういうことなの!?」
想定外の事態にたじろぎながら霧島は我の方へ急いで振り向く。
「って、アイツもいないし。いつの間に……。一体何がどうなってんのよーー!!」
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