第11話 世界一豪華なゴミ袋

「あ、いた!青柳!聞こえてるなら返事ぐらいしやがれ!!」


 何故か必死に辺りを探している青柳の頭を思いっきり叩く間宮。


「それどころじゃないんですよ!!邪魔しないでください」

「あぁ?…」


 やはり何かがおかしい。いつもなら喜んでいい状況なのに、そんな余裕すら青柳から感じられない。

 それは周りにいたスタッフ達にも言えることだった。


「な、何があった?」

「何があったじゃありませんよ!!」


 焦りからか殆ど会話にならない。


「だから何があったかまずはちゃんと落ち着いて話せって」


 間宮に嗜められ一呼吸つくと落ち着きを取り戻し始める。


「…実は、神道さんがこの後着るはずの衣装が全く見つからないんです!!」

「はぁ!?どういうことだよ!!」

「そんなの私に聞かないでくださーい!」


 神道含め、周りのスタッフ達は血眼になって衣装を探している。


「くっそ!!俺の祈りが通じなかった!なんで最後の最後にこんな事になるんだよ……」

「きっと祈りが足りないからこんな事になるんですよー!!間宮さんのせいだ!」


「冗談言ってる場合かよ!急いで探せ!!」

「はーーい!!」


 いつもの様に頭を叩く暇もないまま一緒に間宮も衣装を探す。


「あ、衣装ってどんなやつなんだ?そういえば俺は見たことがないぞ」

「言われてみれば私もです。本番までお楽しみって事でリハーサルでも着てませんでしたもんね……」


 2人の間に疑問が浮かぶ。


「神道。衣装ってどんなやつだったかみんなに教えてもらえる?」


 霧島も捜索に加わりながら、神道に問いかける。


「とにかく派手でスペシャルで俺にしか着こなせない特別な衣装だ!!見ればわかる。めちゃくちゃ高かったんだからな、絶対見つけろよ!!」

「それじゃ分からないわよ。もっと具対的に分かりやすく!」


「分かりやすくって言われても……」

「例えば色とか!」


「ああ。それなら色は透明だ」

「透明!?」


「そうだ。スケスケでめっちゃおしゃれな服だぞ〜」


 こんな状況でも自己主張は全く変わらない神道だった。


「スケスケでおしゃれって。どんな服をアイツは子供番組で着るつもりなんだよ……」


 探しながら思わず愚痴が溢れる間宮。


「でも、そんな特徴的な服だったらすぐ見つかりそうですけどね〜……ん?」


 青柳は何かに気づく。


「あの〜…」


 青柳は真っ青な顔で呟く。


「なんだよ?時間が無いんだから言いたい事があるならさっさと言え!」

「例えばその服ってゴミ袋みたいなやつですか!?」


 間宮に急かされ、思ったありのまま言葉にする青柳。


「なんだゴミ袋とは!!俺の衣装に失礼じゃないか!!」


「ちなみにどうなわけ?」


 霧島が冷静に間に入る。


「ゴミ袋なわけがないだろう!!まぁ、透明だから遠くから見ればビニール袋に見えない事もないかもしれないが……そんな物に見間違えるわけがない!」

「やっぱりそうだーー!!!」


 青柳は大声で叫ぶ。


「バカっ!声が大きいんだよ。観客に聞こえるだろうが…」

「すみません……」


 間宮の注意を受け声のボリュームを下げる。


「どうしたんだよ?」

「あの、衣装の場所、私分かったかもしれません……」


「マジか!?どこなんだよ」

「ご、ゴミ箱……」


「はぁ?今なんて言った?」

「だからゴミ箱……多分ですけど」


「なんでそう思うんだよ…?」

「それは、私が捨てたから。テヘッ!……」


 笑顔で舌を出し誤魔化す青柳。


「「「はあぁーーー!?なんだってぇぇーー!?」」」


 キャストとスタッフの想いがひとつになった瞬間だった。


「どういう事だ?」

「だって……スタジオに余計なゴミが落ちてると思ったから……」


「ゴミじゃねえよ!!なんで確認しなかったんだよ!?」

「すみませんでしたーー。だってゴミだと思ったんですもん!確認なんてするわけないじゃないですかーー」


「言い訳はいいから急いで持って帰ってこい!」

「あ、ハーイ!!」


 青柳は全速力で近くのゴミ捨て場へ急ぐ。


「ったく、あのバカ……。なんでこんな時にマジのミスしてんだよ。これだからコネ入社は……」


「だから、コネ入社じゃありませんって!!それに今それ関係ないじゃないですかー!」


 青柳が瞬く間に大急ぎて走って戻って来る。


「つべこべ言うな!!で、どうなったんだよ。見つかったんだろうな?」

「それが……もう回収された後でしたーー!!チリ一つ落ちてませんでした!」


 親指を立てて笑顔で間宮に報告する青柳。


「バカ!!ほんとバカ!!!最悪だ……」

「そんなにバカって言わなくたっていいじゃないですか〜、私興奮しますよ」

「お前って奴は……」


 頭を抱える間宮にインカムからスタッフの声が聞こえる。


「もうすぐCM明けます!!どうしますか!?」

「どうするって、この状況で……そうだ!!本来、番組の最後に流す予定だったダイジェスト映像があったよな?とにかくそれ流して時間繋げ!!」


「でも、それって5分ぐらいしか持ちませんよ」

「分かってるよ!それまでになんとかすんだよ!急げ!!」

「あ、はい!!」


 そしてCMが明けて番組が再開。スタジオ側は少し動揺も見られるが映像上はダイジェストが流れなんとか持ち堪える。


「間宮さん時間がありません。どうしましょう!?」

「どうしましょうってお前な……どうしましょうプロデューサー?」


「そんなの決まってるでしょ!」


 霧島はイラつく神道の元へ。


「仕方ない。緊急事態よ、今のまま歌って!!」


「ま、それしかないか……」

「ですね。神道さん!すみません、お願いします」


 霧島に連なり頭を下げる青柳。


「嫌だね」


 神道は真っ直ぐな目でそれを断る。


「え!?」


 まさかの返事に周囲は戸惑いも見せる。


「そこをなんとかお願いします。ちゃんと服は弁償するし、後で言いたいは全部私が聞く。責任も取る。だから今はこのまま出てください!」


 状況が状況なだけに頭を下げる霧島。

 だが、


「ふざけるな!!冗談じゃないぞ!!」

「気持ちは分かるけど、今はこれしか方法がないの!!お願いします!!」


 更に頭を深く下げる霧島だったが神道は聞く耳を持たない。


「嫌だ。俺の気持ちなんて分かってたまるものか!!謝って済むなら警察はいらないんだよ!!」

「お願いします!」


「アンタがいくら頭を下げようが俺の考えは変わらないぞ。俺はこの為に今日やって来たんだ。それなのにこんな状態で出れるわけがないだろう!!」


「服なんかどうだっていいじゃないですかーー。誰も見てないんだし……」

「お前が言うのか…」


 愚痴をこぼした青柳の指摘に間宮は呆れ、更に腹を立てる神道。


「服なんかとはなんだ!!あれはこの為に作られ、俺が気持ちよく歌うためだけに作られた一張羅なんだ!!あれがなきゃ俺のステージは成立しないんだよ!!」


「気持ちは分かりました。だけどこのままじゃ番組が、」


 なんとか説得を試みる霧島だったが、


「そんなこと知るか!!勘違いするなよ!俺のせいで放送事故が起きるわけでも、番組が終わるわけでもない!!お前らのせいで終わるんだ!!俺は帰る」

「え、ちょっと待って!」

「離せ!!」


 霧島の静止も振り切り進藤はスタジオから出て行ってしまった。

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