第9話 インビジブル圧力
翌日。
生放送数時間前。我は昨日同様スタジオに向かうと、昨日と比べ周囲の様子が少し違う事に疑問を持った。
「間宮よ、何かあったのか?」
「お前なんで来たんだよ!」
「は?」
どういうことだ。なんでそんな事を言われなきゃならない。
「もしかしてお前まだ聞いてないのか?」
「我は何も知らんぞ」
「マジかよ……ちょっと来い!」
我の手を引っ張り人目のつかない場所に行く。
「我相手に何するつもりだ。悪いが我は男に興味は…」
「バカ!冗談言ってる場合かよ!!」
我の頭を思いっきり叩く間宮。この前も思ったのだが奴の叩き方には遠慮がない。
「なんなのだ……」
間宮は小声で話し始める。
「実はな、昨日お前が帰った頃、急遽予定が変わって台本も変わったんだ」
「そうか。ならばその台本を我にも見せてくれ」
「無理だよ」
「何故だ。もしかしてドッキリってやつでもするのか?だから我には何も言えないのだな。なるほど」
「だから冗談言ってる場合じゃねえんだよ!載ってねぇんだよ」
小声だった声がだんだと大きくなる。
「載ってない?何がだ?」
「……だから、お前の名前が載ってないんだよ」
「何かのミスか?」
「ミスじゃない。お前の出番が丸々無くなったんだよ!!」
「な、なんだとっ!!」
おいおいどういうことだ……。霧島さんは何を考えておる。
「それは本当なのか」
「これが冗談言ってる奴の顔に見えんのかよ?」
「いや、見えんな」
「だろ。ここだけの話、神道が霧島さんに圧力をかけたらしい」
「圧力?」
「前にも言ったろ。今のこの番組はアイツで成り立ってる。アイツのお陰でスポンサーがついてるくらいだからな」
「それがどうかしたのか?」
「だからだよ。アイツはお前を出演させるならこの番組を降りるって言ったらしい」
「脅したのか…」
「ま、そうなるな……」
ここまで人間は腐っているのか。我も魔王として自分勝手な振る舞いはしてきたが誰かを脅した事は一度も無かった。
「それで急遽台本が変わったお陰でこっちは仕事が増えた。嫌な予感って当たるもんなんだな……」
「霧島さんはどこだ?」
「今、色々と調整に回ってて忙しい。話は聞くのは無理だと思った方がいいな」
「だが、」
「気持ちは分かるがこっちも仕事なんだ。頼む理解してくれ」
間宮は我に頭を下げた。人間はこんなに頻繁に頭を下げるのか。
我には理解ができん。
もしかすれば魔王である我がこの世界に順応しようとしている事が間違いなのかとも思えてきた。
「もうよい。言いたい事は分かった」
「本当にすまない…」
「どうしてまた謝るのだ。そんなに我に惨めな気持ちになれと?」
「そうじゃない。それが嫌だから謝ってんだ」
「難しいな人間は」
「これは俺の勝手な意見だがお前はこの番組に必要な気がする。少なくても霧島さんはそう思ってる」
「らしいな。本人が言ってた」
「そっか。なら、あの人の事を恨んでやるな。あの人の事だ。最後までお前を出演させようと抵抗していた筈だからな」
「恨む気などさらさら無いわ」
「相手が悪かったんだ。そう思うしかない」
相手が悪いから戦わない。その選択肢があるのなら我は勇者に敗れてなどいなかっただろうな。
「ところで、我が出演する筈だった部分はどうなるのだ?」
「それがさ、この為に急遽作らせた特別な衣装を着て神道のワンマンショーをやる事になったんだよ」
「なんだそれは!?そんなもので子供が喜ぶのか?」
「さあな?少なくても俺が子供だったら興味無い」
「ならばやる必要なんかあるのか?」
「仕方ないだろ。それが大人の事情ってやつだ」
「子供向け番組で大人の事情か……大変だな」
「皮肉だよな。俺達も正直何が正しいのか分かりやしねぇよ」
すると、
「神道さん入られます!!」
スタッフの声が聞こえ神道がスタジオに入って来る。
「ヤバっ、奴が来た。奴にバレないうちにお前は帰れ。これ以上の面倒毎はごめんだからな」
我を隠すように隅へ追いやる。
「分かった、分かったから押すな。我は物ではないぞ…」
「ちょっと先に裏口がある。そこからならバレずに出れる」
「いやその必要は無い」
「?」
間宮が振り返った時には我が既に転移魔法を使った後だった。
生放送まで1時間前。
最後のリハーサルを終えたキャスト、スタッフ達は各々の準備に取り掛かり本番に備えていた。
「青柳!そろそろスタジオに観客入れられるようにしとけよー」
「分かってますって」
次々と間宮の指示を受ける青柳。
「あれ、誰よ…こんな所にレジ袋を置きっぱなしにしたのは。ここはゴミ捨て場じゃないっつーの!」
そのビニール袋のような物体を丸めてゴミ箱に捨てる。
「青島ー、ちゃんと仕事やれよー」
「だからやってますよー!!もう、間宮さんったら人使いが荒いんだから……ま、嫌いじゃないけど」
青柳はそのままルンルン気分でスタジオ観覧に来てる観客達の元へ急いだ。
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