第7話 通学路には派手過ぎる
逃げるように我は楽屋へ戻り着替えを済まそうとロッカーを開けた。
「これは……」
中を見て驚愕した。
ここまで来るのに着て来た私服が刃物のような何かで切り刻まれていたのだ。
「これが俗に言うイジメというやつか?下らん事をする奴もいたもんだ」
しかし、これはこれで困ったことがある。我が着てきた一張羅がこのザマだ。どうやって帰ればのよいのだろうか。
流石に衣装のままってわけには行かないだろうし、だからと言って裸で帰るってのもな……。
見られる事は別にいいが、何か他の問題があった気がする。
どうしたものか……。
「そのままそれ着て帰っていいわよ。また後でちゃんと返してくれればね」
「プロデューサー……」
我が振り返った先にいたのは霧島だった。
「やっぱり、こうなっちゃったか」
「どういう意味だ?」
「実はね、あなたが来る前にも新メンバーが同じ目にあった事があるのよ」
「それで着替えを持ってるのか聞いたのだな」
「ええ。だけど今の私じゃ、分かってても防ぐ事はできないから……」
出会った時とは大分表情が違う。人間は色々と大変らしい。
「まるで犯人が分かってるような言い分だな」
「分かってるわよ。こんな事する奴1人しかいないもの」
我もそんな奴は1人しか思いつかない。
「神道か」
「……」
霧島は黙ったまま少しだけ首を縦に振った。
「所で同じ目にあったその新メンバーは今どうしてるのだ?」
「辞めたわよ。正確には辞めざるを得なかったって言う方が正しいけど」
「そうか」
「だからこそ貴方にはまだ辞めてほしくない」
「我も人の事をあまり言えんが、随分勝手な事を言うんだな」
「分かってる。だから今は私の勝手に付き合って欲しい」
女性が我に頼み事をしてくるなど、過去を振り返っても思い出せない。
本来ならその気持ちに応えたいが、
「プロデューサーの気持ちには応えたい。だがそれは無理だ」
「なんでよ?」
「我はこの番組に必要ないからだ。我は変われない。今のままではやがて貴方にも嫌われる事となるだろう。それだけは嫌なのだ」
魔王だって好きで嫌われたいわけじゃない。
「確かにそうね。今はこの番組に必要ないかも」
「だろう」
自分で言ってても悲しくなるのに、言われたら余計複雑ではないか。
「だけどこれから先は必要になる」
「我に先などないわ」
「あるわよ。多分ね」
「多分か、口の割には随分曖昧だな。それで我に納得しろと」
「そうよ」
言い切るのか。
霧島の目は必死そのものだった。
少なくても我にはそう見えた。
「明後日、月に一回の生放送があるの。スタジオには番組を見に子供達もやって来る。それに出て」
「……分かった」
「え、本当に!?」
そこまで驚くことではなかろう。
「だがそれで我は辞める。我も他の仕事を探すのに忙しいからな。それでもよいな?」
「貴方の気持ちが変わってなかったらね」
「フッ、言うではないか。我を生放送に出演させた事後悔しても知らんからな」
「そんなもんしないわよ」
「衣装、借りてゆくぞ」
こうして我は明日の生放送の出演を決め、テレビ局を後にした。
その帰り道の途中、着ていた派手な格好なお陰で周囲の大人から冷ややかな目で見られた事を我は忘れないだろう。
だけど何故だろう。周りにいた子供だけは様子が違っていたのは。
カッコつけずに大人しく転移魔法で帰っていればこんな事で悩む必要も無かったな……。
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