第6話 運命の境界線

 このまま帰ってもよかったのだが、それはなんだか癪な気がして局内を歩き回ってから帰る事にした。

 テレビ局なんて来たくても来れる場所ではないだろうから、目に焼き付けておこう。

 帰ると言ったって帰る場所なんか無い。無駄に時間だけは山程ある我にとって暇つぶしには丁度いい散歩コースだ。

 でも、そう簡単なものでは無いらしい。


「……気づかないとでも思ったか。さっきから我の後ろでちょこまかとしているお前の事だ。姿を表せ」


 柱の影から出て来たのはなおみおねえさんこと、奈緒美だった。


「お前は確か槇乃、」

「槇乃奈緒美。初対面なんだから馴れ馴れしく呼ばないでくれる?」


「その初対面の相手になんのようだ」

「別に。ただちょっと気になっただけよ」


 気になっただけか。それは少し残念な気がする。


「撮影はどうなった?」

「アンタのせいで今日は中止になったわよ。お陰でこっちは大迷惑」


「それは、すまない……」

「謝るんだ」


「我にも非はあるからな。問題でも?」

「別に」


 別にいいのならなんでもよかろう。どうして彼女は我にかまうのだ。もしかして我のことが!!。

 こんな美人が我のことを気にしているだと!!


「でもアンタもバカよね」

「バカ?」


 前言撤回。


「何も言わず黙ってやり過ごしてれば良かったのに。ほんとバカ」

「バカで結構。我は奴が気に食わなかった。それに我からすれば黙ってるだけの奴の方がよっぽどバカだと思うがな」


「そんな事ばっか言ってるからバカだと言ってんのよ」


 ばっかとかバカとか似たような言葉を一度に言われすぎな気がする。


「言いたい事ばっか言ってればなんとかなる程ね、この世界は甘くないのよ!」

「だから黙ってるのか?」


「そうよ。アンタがさっき言ったことはあそこにいた皆が思ってることよ。だけど何も言わないの」

「なら何故言わない?」


「言ったって変わらないし何の特にもならないって分かってるから。私はね、何としてでも売れなきゃいけないの!!その為には我慢もするし、失敗するわけにはいかないの」


 どうやら彼女は我に怒っているらしい。魔王である我にとって敵を作るのは慣れてるがこんな美人相手は初めてだ。


「アンタにとっては正しい行動をしたつもりなのかもしれない。だけどねアンタのその軽はずみな正義感が誰かの迷惑になるのよ!」

「だからどうしたのだ?」


「あぁ?」

「そんな事我が知ったことか。これだけ言えるのならさっきも同じように言えばいいではないか」


「ウザイ、カッコつけんな」


 ぐっ……、そこまで言わなくても。だが美人相手に罵られるのも案外悪く無い。


「今のがお前の言いたいことか」

「そうよ」


「ならば、意外に我とは気が合うのかもしれんな」

「は、」


「ただひとつだけ違うことがある」

「何が言いたいの?」


「特が欲しくて生きてるほど我はこの世界に興味など無いわ」


 我はその一言だけ伝えると逃げるようにその場を去った。

 あんな美人相手に長時間2人きりは流石の我でも身が持たんからな。


「何なのよアイツ……」

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