第3話 ドMなコネ入社とドSなディレクター

「お前中々やるな」

「うん。本当ですよ。まさかあの神道さんに口答えをする人がいるなんて」


 すると2人のスタッフが我に話しかけてきた。


「其方達は……」


「俺は間宮。ディレクターやってる。で、隣にいるのがADの」

「青柳夏目です」


「コネ入社のな」

「ちょっと違いますよー!!変な事言わないでくださいよ」


「別に嘘じゃないだろ」

「私はただ親が局のスポンサーやってるってだけでコネ入社なんかじゃありません!!」

「それをコネ入社って言うんだよ」


 間宮は持っていた台本で青柳の頭を叩く。


「痛いっ、これパワハラですよ!暴力だ!」

「他の奴相手ならな。お前がこうやってくれって入社当時俺に言ってきたんだろうが!私はドMだから乱暴にしてくださいって」


「そうでしたっけ?」

「そうだよ!俺あの時マジで内心引いたんだから。とんでもない後輩が来ちまったってな」


「ありがとうございます!!」

「褒めてない」


 再び青柳の頭を叩く。さっきよりいい音がスタジオに鳴り響く。


「いった〜〜い」

「変な声出すなよ……」


 態度の割にはこの2人、相性は良さそうだ。


「うむ。2人ともこれからよろしく頼む」

「その感じ、コイツ並にお前も変わってるよな〜……」


「ところで気になったのだが神道とは誰の事だ?」

「誰って、もしかしてお前あの人が誰かも分からずたてついてたのか?この業界で働くのに?」

「うむ」


 真っ直ぐすぎる我の目を見て間宮は呆れる。


「マジかよ……。あのな、さっきお前とやりあってたのがこの番組のメインキャストで俳優兼タレント兼アーティストの神道明弘だ」

「色々やっておるのだな」


「この業界、色んな事に手を出してる奴は珍しくないからな」

「でもあの人ってその割にはどの仕事もパッとしないんですよね〜。目立った活躍がないっていうか。別に人気がないわけじゃないのに不思議です」

「そりゃあ、人気はあるけど業界関係者から嫌われてるからだろ」

「あーーなるほど、それで」


 青柳は大きく頷き納得する。


「それなら何故仕事があるのだ?干されててもおかしくないだろうに」

「それはだな……」


 間宮が辺りを確認し、他に人がいないところを確認すると小声で話し出す。


「アイツがいると売れるからだよ」

「それ小声で話すことなのか?」


「だって皮肉なもんだろ。俺達業界関係者からとことん嫌われてるっていうのによ、アイツが番組に出ればそこそこの視聴率は毎回取れるしグッズだって売れる。要するに干したくても干せねえんだよ」

「そうなんですよね〜。あの人、パッとしないくせに意外と人気あるんですよね」


「意外とめんどくさいのだな」

「そ、面倒くさいんだよ。実際、この番組はアイツが出演してるお陰でなんとか視聴率を保ってるわけだしな」

「あの人もそれを分かってるから、私達相手にも当たりが厳しいんですよ。だから好き放題番組でもやれるんですよ〜。私達が何も言えないって分かってるから。ムカつきますよね」

「ふむ……」


 我が魔王として君臨していた世界じゃこんな面倒な事はなかった。殆どの魔族はとても分かりやすい性格で、そもそも面倒事やトラブルを嫌う。魔族というだけで誤解されがちだが、我らが住んでいた魔界はこんな世界とは比べものにはならないくらい平和で温厚な世界だった。

 我のいた世界にいた人間達も同族同士で戦争を繰り返していたが、似たような事は世界が変わっても変わらないらしい。

 これではよっぽど人間の方が想像上の魔族に近いのかもしれないな。


「誰がめんどくさいって?……」


 背後から声が聞こえて、間宮達の背筋が凍る。

 恐る恐る振り返ると、そこにいたのは。


「3人揃ってなに仕事サボってんのよ」

「って、霧島さんか…」


 そこにいたのはプロデューサーの霧島だった。


「誰だと思ったのよ?」

「いえ、別に」


「なら2人ともさっさっと自分の仕事やりなさい。暇だっていうなら仕事増やしてもいいけど?」

「いえ結構です!行くぞ青柳、仕事だ」


 間宮は逃げるように自身の仕事に取り掛かりに向かう。


「ちょっと待ってくださいよ!置いてかないで!」


 間宮を追う青柳。 


「あ、まおおにいさんも収録頑張ってくださいね!じゃ、また後で!」


 立ち止まった青柳がそれだけ告げると間宮を追いかけて行った。


 収録?

 その言葉に我の直感は引っかかる。

 そしてその訳は直ぐに分かった。


「さ、まおおにいさんも仕事よ。これに着替えてちょうだい」 


 霧島が渡したのは、神道程ではないが派手なデザインの上下一式。

 かつての我もこれほど奇抜で派手な服は着たことがない。


「これが、ここでの正装なのか?」


 先程までいた間宮も辺りにいるスタッフもこのような派手な格好はしていないのが我は疑問に思った。


「そうよ。貴方だけの衣装。ここではこれが貴方の着るべき格好よ!」


 衣装?スタッフである我が衣装だと。何かがおかしい。何だこの違和感は……


「どうしたのよ、そんな顔しちゃって。もしかして緊張してる?」

「プロデューサーよ、一つよろしいか」


「なに?」

「ここでの我の役職はスタッフだよな?」


「え?」

「え、」


「あれ、もしかして私言ってなかったけ……」

「多分だが聞いてはおらんぞ、まさか我の仕事って」


「そうよ。貴方の仕事は新メンバーまおおにいさんとしてこの番組に出演することよ!!」

「な、なんだって!!……」


 正直さっきまでの様子で何となく察してはいた。

 けれどまさか魔王である我が人間の子供番組に出演するなんて……。

 そんなの、

 そんなの!!


 意外と面白いかもな。


「ワハハハハハッ!!」

「いきなり笑いだした…もしかして壊れた?」


 こうして魔王ディアボロス・サタン。改め摩戒魔央はまおおにいさんとして子供番組の仲間入りをした。

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