第2話 魔王の口は思い立ったら止まらない

 テレビ局についた我は辺りを見渡し例の女性を探す。

 すると、明らかに挙動不審な様子を見せていると後ろから声をかけられる。


「わっ!!」

「うむ」

「あれ、意外と驚かないのね?」


 不服そうな表情を見せるのは例の女性だった。


「いや驚いている。余りにも驚きすぎでリアクションを間違えただけだ」

「何よそれ。やっぱり君結構面白いわね。誘って良かったわ」


「だが我を脅かすとはお主もやるな」

「ふふっ。思ったより想像以上かも」

 我を不思議そうに見つめながら笑う。


「なんだ?」

「いや気にしないで。こっちの話だから」


「そうか……」

「そういえば自己紹介まだだったわね。ようこそハレルテレビへ!私ここでプロデューサーやってる霧島那月です。これから貴方の上司になるからよろしくねー」


「うむ。我の名は摩戒魔央だ。これからよろしく頼む」

「まかいまお、変わった名前ね。じゃこれからは、まおお兄さんね!」

「うむ…」


 お兄さん?その呼び名が少し気にかかるが気にしてる暇はなさそうだ。


「それじゃあスタジオに案内するから付いてきてちょうだい」

「うむ」


 さてスタジオでする裏方の仕事とは何をするのだろうか…。実に大変そうだが有意義な仕事に違いはない。この世界に順応するため我の全力見せてやろうではないか!!


 意気込む我に水を刺すように霧島が言う。


「あ、その前に。一応聞いとくんだけど着替えって持ってる?」

「いや、持ってはいないが必要だったのか?」


「別にそういうわけじゃないんだけど、ちょっと色々とね……」

「色々?」


「まぁいいわ。アナタなら別にどうとでもなるでしょう。何とかなるわ!気にしないで」

「そうか、ならいいのだが……」


 彼女の言葉に疑問も残ったが我は案内されるがままスタジオに向かった。



「そういうことで、今回からの新メンバーまおおにいさんです!!」

「うむ、摩戒魔央だ。これからよろしく頼む」


 スタッフ達が拍手で我を労う。

 彼女がプロデューサーを担当する番組<いっしょにラ・ラ・ラ!!!>通称いつララのスタジオに案内された我は出演者やスタッフ達に自己紹介する事となった。

 聞くところによるとこの番組は民放局唯一の子供番組らしく、今年で10年目という節目を迎えるらしい。

 どうやら我はその子供番組の制作スタッフとして働く事になるようだ。


「おい、よろしく頼むじゃなくてよろしくお願いしますだろ?このくらいの礼儀すら出来ないのか」


 ん?何だこやつは…。いきなり無礼な奴め。魔王でもある我でも着たことないような派手な服を着おって。

 いかんいかん、それでは今までの繰り返しではないか。


「いいじゃない。ちょっと変わってるけど、きっと悪い子じゃないわ。これもちょっとした個性ってやつよ。だからそのくらい甘く見てちょうだい、うたのおにいさん」

「フン、個性ね。それで済んだら警察はいらないだろ?礼儀すらなってない奴が俺の番組に出るなんて俺は認めないぞ。そもそもこの番組に新メンバーなんて必要ないだろ。俺とうたのおねえさんの2人だけいればこの番組は成立する筈だ。視聴率だってそこそこ取れてるんだからな」


「取れてるって言ったって、増えもしてねぇんだけどな……」


 1人のスタッフの小声が聞こえる。


「おい、なんか言ったか?」

「いえ、何も!」


「とにかくリニューアルの必要なんてないんだよ。俺はコイツが番組に参加することは反対だ。なおみおねえさんもそう思うだろ?」


 男は隣で黙って下を向いていた女に話しかける。


「え、あ、私はどっちでも……」

「なんだよ、もっとはっきりしろよ!そんなんじゃこの芸能界で売れることも、俺みたいないい男を見つけて結婚する事なんか出来ないぞ!?」

「はぁ…そうですねー……」


 女は言い返さずただ頷き返した。


「おい、そこの女」

「え?…」


 その様子に我は我慢できなかった。


「何故言い返さない」


「ちょっ……」

「おいおい、アイツ本気か?……」


 スタッフ達の動揺する声が聞こえる。だが我はその動揺する意味が分からなかった。


「何故言い返さなかったと聞いてる。どうなんだ?」

「どうって、別に、私は……」


 妙に口籠る女。


「もう良い。気持ちは分かった。ならば我が代わりに言ってやろう。この世界ではそこにいるああいう男を時代錯誤というのだろう?今は昭和でも平成でもない令和らしいじゃないか。もっと時代に順応しないと時代に置いてかれるぞ?」

「は?…俺が時代錯誤?お前何言ってんだ」


「だってそうだろ。お主がやっていることはセクハラやパワハラというやつじゃないか」

「変なこと言うな。俺はそんな事をしていない!!俺がしているのは先輩としての後輩に向けての有り難いアドバイスをわざわざしてやっているだけだ!!俺はお前達の事を思って言ってやってるんだぞ!それなのになんなんだ、さっきからのお前の態度は!」


「別にアドバイスをしてくれなんて頼んだ覚えは一度もないわ。大体、お前のその格好はなんなのだ?派手好きだった勇者でもそんな奇抜な格好はしないぞ。ピエロかなんかのコスプレか?それとも変態なのか?」


 我の一言が男を唖然とさせる。


「ぴ、ピエロ!?俺が変態…これはな、俺が特別にデザイナーにデザインさせた、俺がイメージする白馬の王子様の特別な格好なんだ!!ピエロでも変態じゃない!!」

「そうだったのか、すまない。我の知っている王子はもっとまともな格好していたものでな。気づかなかった」

「っ……なんなんだお前はさっきから!!言ってる意味がわからないんだよ!!大体俺とお前は初対面でしかも俺は先輩だぞ!?その態度おかしいだろ!!」


 男は怒りのあまり我に掴みかかってくる。


「おっと」


 我はひらりと身をかわす。


「お前……」

「すまない。怒らないでくれ、そんなつもりで言ったわけじゃない。これで満足か?」


 またやってしまった。我の口は我でも制御が効かん。黙っていればよかったものを……これはまたクビだな。


「だったら避けるなよ!」


 再び男は我に襲いかかる。


「はいそこまで!!」


 強引に間に入ったのはプロデューサーの霧島だった。


「2人とも仲がいいのはいいけど、暴力沙汰だけはNGっていつも言ってるでしょ!貴方達はいつ何時も子供達の見本になって貰わなきゃ困るんだからね」

「これのどこが仲がいいんだ。そんなわけないだろ!」


「あら、喧嘩するほど仲がいいって事を私達に見本として見せてくれてたと思ってたんだけど、違うの?」

「え、」


 煽てられたことで男の表情が打って変わり、態度が豹変する。


「そうなんだよ、流石はプロデューサー。俺の事をよく分かってるじゃないか。これは俺なりにだな、子供番組に出演する必要な心構えを教えようとしてだけなんだよ。誤解を与えたようなら申し訳ない。魔央君だけっか、さっきは大声を出してすまなかったね。これからは一緒に子供達に夢を与えるような最高の番組を作って行こうじゃないか!!」

「うむ……」


 都合のいい奴だな。これだから人間は……。


「アイツ逃げたな…」

「ええ。あの人単純ですから」


 再びスタッフ達の呟きが聞こえる。


「おい」


 男がそのスタッフ達に睨みを効かせる。

 瞬時に目を逸らすスタッフ達。


「はいはい。取り敢えず自己紹介はこの辺にして、本番やるわよ。皆、準備して!!」


 我らは霧島の声を受け、それぞれの準備に取り掛かった。

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