まおうさまとあーそぼっ!!!~我子供番組で無双中〜
春風邪 日陰
第1話 我、ミスしたので
「ヤバい!!」
男は走る。
「このままでは……」
道行く通行人を掻き分け、ただひたすらに走っている。
「マジでヤバいぞ!!」
待ち合わせの時刻まで残り5分。
ここから目的地までざっと見積もっても1キロはあるだろう。
このままでは間に合わない。
「ああ、どうして我はこんな時に限って寝坊するのだー!!」
我の名前はディアボロス・サタン。名前からしてわかるように魔界の王、つまり魔王である。
そんな我とした事が重大なミスをした。我の未来がかかってるこんな時に限って2度寝を3度繰り返すなど痛恨の極みである。
それに最近の我はミスが多い。疲れが溜まっているのか、それとも、歳のせいか……。
いや、まだ20500歳。この世界でいう所の25歳だ。まだおじさんではない。
そもそもあんなミスが起きてしまったから、こんな些細なミスが続くのだ!
数ヶ月前。
我は因縁の相手である勇者と戦っていた。
勇者は人間の為に、我は魔族の為に互いに戦いあった。分かり合おうとする事もあったが、結果的にそれは叶わず力で決着をつけることとなった。
長きに渡る戦いの末、遂にその戦いに終止符が打たれた。
「ディアボロス……お前の負けだ!!」
勇者が我に剣を向ける。
「奢るな人間風情が!!我に膝をつかせたくらいで勝った気になるなど100万年早いのだよ!!」
とは言ったものの、その時の我に反撃する力は残っておらず口から出るのはただのでまかせだけだった。
「我は不死身だぞ、その剣を持ってしても我は倒せん!そんな1人で何ができるというのだ!!」
正確に言えば不死身ではない。人間と違って少し体が丈夫で少し長く生きる程度。致命傷を負えば我も死ぬ。
「いや倒してみせるさ…俺には師匠の、共に戦って来た仲間の意思を受け継いだ。俺は1人じゃない!俺は仲間と共に戦ってるんだ!!」
「バカが!!そんな綺麗事で我が倒せるとでも!……なっ!!」
その時起こった出来事に我は信じられなかった。勇者の持つ剣は光り輝き、遂には勇者自身が光を放ち出した。
こんな事奇跡が起きない限りあり得ない。ただでさえ、今の我はジリ貧で瀕死状態だというのに、そんな奇跡はオーバーキルでしかない。そもそも奇跡が起きなくても我は倒せるというのに。
本当に神がいるのだとしたらこの勇者はどこまでも神に愛されている。
そして、我は神に嫌われている。
「これで終わりだ!ディアボロス!!」
動けぬ我に勇者が剣を振り下ろす。
このままいけば間違いなく我は死ぬ。きっと奇跡の力とやらで生き返ることも出来ないのだろう。
だからと言って諦める我ではない。
魔王であるならばばどんな時でも諦めず、対する敵にウザがられるほど噛みついてこそ魔王だ。
今日のところは我の負けと認めよう。だがしかし、貴様の勝ちだと思うなよ勇者。
「これで終わりだと思うなよぉ!!」
勇者の剣は我を真っ二つに切り裂いた。
切り裂かれる瞬間、我は瞬時に魔法を唱えた。
勇者の攻撃によって肉体は滅びるだろう。だが、魂さえ残っていれば我の力で肉体を再生することはできる筈。
そう考えた我は切り裂かれた瞬間に魂を分離、誰も知らない我の隠れ家に転移した。
ここなら誰かに邪魔されることなく体を休めることができるからだ。
それがどのくらいの時間を要するかは我にも分からないが生きてさえいればいずれ、再び奴と戦いあうことが出来る。
そう信じて我は眠りについた。
これまでの間にミスがあったとすればちゃんと目的地に転移出来たかどうか確認せず眠りについてしまったことだろう。
あの時、もうちょっと確認していればこんな大きなミスに繋がる事はきっと無かったのだ……。
あれからどの位の月日が経ったのか我には分からない。
数日かそれとも数年か。
確かなのは、長き眠りから目覚めた我は自らの目を信じられなかったってことだ。
広がる景色もそこに歩く人々も我の知っている人間の生活とは異なっていた。
戸惑う我に巨大な走る箱は大きな音を鳴らし我に警鐘する。
その時我は察したのだ。
我は自らの隠れ家に転移したのではなく、何かの手違いか偶然がきっかけで別世界に転移したのだと。
そう、赤信号が点灯する交差点の横断歩道でど真ん中でその事実に気づいた。
やはり神は我の事が嫌いらしい。
それからはあっという間だった。
ここは我の住む魔界なんて世界は存在せず、人間世界さえ我の知っている環境とは大幅に異なること。
そしてこの世界は日本と呼ばれる国らしい。
全知全能の力と記憶力を持つ我ですらそんな国の名前は聞いたことがない。
そんな理由からここが異世界だと確信した我は、当然転移魔法で元の世界へ帰ろうと試みたのだが上手くは行かなかった。
別に魔法が使えなかったわけじゃない。他の魔法はいつも通り使うことが出来る。転移魔法だってこの世界で存在する場所なら何処へでも行くことが出来る。
ただ世界を跨ぐ事をだけが出来なかったのだ。
ならば仕方あるまい。我は直ぐに別世界へ帰ること諦めた。
我のいた世界に未練がないわけではないが、出来ないものは仕方がない。魔王の我が出来ないのだから他に方法などあるわけがないからな。
そんな我がまず最初に取った行動。それはこの世界に順応すること。
我は魔法でこの国の人間として相応しい姿に変化した。容姿に拘りがあるわけでは無いが、一応、街で見かけた俳優の姿を参考にさせてもらったが、別にそんなのはオマケみたいなものだ。
それ以上に大事なことがある。それは文化も常識も違うこの世界で生きる為にはまず知識を得なければならない。
幸いな事に言語は我の世界と似ているもので覚えるのにあまり時間はかからなかった。そして我はこの世界で生きていく為に必要な物事を数日で完全に理解した。
我は魔王だ。自慢じゃないが我は器用なのだ。自慢じゃないがな。
そんな器用な我もすぐさま壁にぶつかった。
この国の事はおおよそ理解した。だがそれだけじゃどうしようもないことがあった。
知識があっても金がないのだ。学んで分かった事はこの国で生活する為には金がなければどうしようもない。
どの世界でもやはり金は大事らしい。それだけは世界が変わっても変わらない唯一な事だろう。
金がなければ住む場所も食べる物さえ手に入らない。
幾ら文化や常識を知り姿たもこの国に順応したとしても、それでは本当にこの国に順応したとは言えないだろう。
まぁ、我は魔王だ。基本的に腹は空かない。だから食べなくたって死ぬことはない。寝る場所が無くたって困ることはない。その気になれば空だって飛べるし、地面に潜ることだって出来るのだから。どうだって出来る。
だけど、腹が空かないからといって食欲がないわけじゃない。焼肉だって寿司だってハンバーガーだって食べたいに決まってる。
空も地面も自由自在に行き来が出来て眠くもならないけれど、我だってエアコンが効いた部屋でゴロゴロしたい。
そうとなったら自ずと金が必要になってくる。
何度も言うがその気になれば効率よく金を稼ぐことなど容易だ。何故なら我は魔王なのだから。でもそれをし過ぎてしまえばこの国のこの世界のルールを破ってしまう。それではやはり順応したとは言えないだろう。
合法的に当たり前に稼げる方法で金を稼ぐのだ。器用な我であればそれも容易にこなせる。
そう高を括っていた。
我は手始めにコンビニのバイトから始めた。
履歴書、経歴云々は我の力を使ってなんとかやり過ごしたので問題は無かった。
仕事内容だってちゃんとこなせていた筈だ。言われた事はやったし自分から仕事も探してこなしてきた。完璧だった。魔族の王である魔王の我が人間の為に律儀に働いていたというのに。その筈なのに。
「クビだ」
「何?…」
我は余りにも突然の出来事に理解が追いつかなかった。
「だから、今日で君はクビだ。もう来なくていいから」
「何故だ!!」
「何故ってね…」
「仕事は間違い無くこなせていた筈ではないか!なのに何故我がクビなのだ!?」
「確かに君はウチの店で1番仕事が出来る人材だよ。頼りにしてる。だけどね、」
「だけどなんなのだ。はっきり言ってくれ」
歯切れの悪い店長に我は痺れを切らす。
「だけど君のその笑顔が怖くてお客さんが全然寄り付かないんだ!これじゃ仕事が出来ても全く商売にならないんだよ!!だからクビだ!」
「な、なんだと……」
我の笑顔が怖いだと。怖いからクビなのか……そんな理由で人は仕事を失うのか。なんて恐ろしい世界なんだ、この国は!!
幾ら姿をこの国の人間達に合わせた所で我が魔王な事は変わらない。所謂イケメン風のこの姿でもどうやら我の魔王としての素質までは隠しきれなかったらしい。
魔王としての素質を否定され最初は苛立ちもあったが今では何も思わない。
その気になればこの世界などいつでも……。
そう思っていると苛立っている自分が馬鹿に感じるからだ。
しかしあくまでも我の目的はこの世界にできるだけ順応すること。
気に食わないからって世界を滅ぼす事じゃない。
そんな我は諦めず目につくアルバイトを片っ端からやってみた。それでも結局最後は。
「笑顔が怖いんだよ!!悪魔じゃないんだからもっと笑顔じゃなきゃ!」
とか、
「喋り方とかもっとどうにかならないのか!そんな様子じゃ何処へ行っても上手く出来るわけがない」
などと同じような色々な事を散々言われた挙句、挑戦した全ての仕事をクビになった。
このままではこの世界の、この国の人間として順応する事が出来ない。
偶然とはいえせっかく別の世界に来たのだ。簡単に終わらせてしまうのは勿体無い。
だからと言って我が魔王であることは決して変わらないしそれは変われない。この非難轟轟の張り付いた我の笑顔も我の喋り方も。
どうすればいいのかも分からず、その日もバイトをクビになり途方にくれていたある日。
1人の女性が我に救いの手を差し伸べた。
「ねぇ、良かったらウチで働かない?」
その一言に我は歓喜し、何の仕事かも聞かずにその手を掴んだ。
そして今日。
我はその女性に会う為にテレビ局に向かっている。
何の仕事か詳しい話は聞いていないが、恐らくテレビ番組のスタッフか何かなんだろう。あの人もその局の関係だと言っていたしな。
我がいつものようにクビになる様子をたまたま見かけて声をかけてくれたらしい。
裏方の仕事なら我の笑顔が理由でクビになることもなさそうだ。
魔王である我が裏方なのはアレかもしれないが今回限りは仕方あるまい。目を瞑ろう。
このチャンスは絶対に逃してはいけない。魔王の勘が我にそう言っている。
だから絶対に遅刻なんかしちゃいけないって決めていたというのに!!
くそッ!
何故、こんな時に限ってあんな強力な睡魔が我を襲うんだ!
眠いなんて暫く思ってなかったのに……。
まずい、待ち合わせまで残り1分。
間に合うか?いや、間に合わせる。
我は全速力で街を駆けた。このチャンスをモノにする為、そして我に手を差し伸べてくれたあの女性の想いを踏み躙らない為にも。
そして気づいたのだ。
「あ、転移魔法使えば一瞬じゃないか!」
そして我は一瞬で目的地へ辿り着いた。
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