陽炎

ゆ〜 @WGS所属

カゲロウ

禊萩ミソハギの花がちょこんと狛犬の上に置いてある。


神社の真ん中では煌々と炎が輝いていた。





田舎に帰った夏休み。

それは子供の頃は1年の中でも1、2を争うビッグイベントだった。

でも、僕はお盆がすぎた今、楽しみなことがあった。



陽炎かげろう


それは田舎だからこそ(?)の風習で、夏のお盆が終わると1週間以内に供えていた花を燃やすというもの。お盆のときにできた死者との思い出を天に伝えるためらしい。

各家庭で燃やすのが基本だが、燃やせない所は村で一番大きい神社で集めて燃やす。名前の由来は、燃やしたときに陽炎ができるからだそうだ。



お盆の時期には決まって花が飾られるだろう?

あれを燃やす。

飾られる花の中で僕が好きなのは、竜胆だった。

青い竜胆のとした姿と、祖父が言った「正義」という花言葉に惹かれたのだと思う。



菊や竜胆、金盞花キンセンカに禊萩。

これらの色とりどりの花を燃やすだけの儀式じみた風習。



神社には小学校にあがってからは幼馴染と二人で欠かさず見に行った。

祭りでも無いのに出る屋台にテンションが上って、その子は浴衣を着ていた。

でも、4年生になったあたりかな、

いつしか1人だった。




落ちた花弁の1枚でさえもが、


炎のなかで舞っている。


その姿が綺麗で、忘れられなくて。


これが楽しみなんて趣味の悪いやつだと思った人もいるだろう。




でも、その燃やしている間だけ。

その「陽炎」の期間だけ、

陽炎の中に彼女は現れた。

小学校5年生くらいからだった。



彼女は陽炎の中にとたたずんでいるが、

幼さがまだ残っていて。


白い肌に、細い手足、

具合の悪そうな青白い顔。

すん、とした顔をしていてもいつもどこか寂しそうだった。


そこで、あれは幽霊なのだと高校生くらいのときにやっと悟った。




知り合いじゃない、



きっと。


言い切れない。

分からない。



でも、最期に神社の炎が燃え尽きたときに何かを言うように口を動かして笑顔で消えていく。


毎年何を言っているのか知りたくて、田舎に帰っている。


そして今、神社で燃やしている炎は消えかけてきた。



陽炎が大きく揺らぐ。


彼女のとした姿も揺らぐ。




最期に残った青い花弁が、赤い火花に飲み込まれる。


彼女が口を動かした。


「す・き・だっ・t」



声が出ていた訳じゃない。

なぜか分かった。

あの1枚の青い花弁のせいだと僕は思っている。




狛犬の上から小さな花が1輪見守るように乗っていた。








菊(白)

…【】【誠実な心】


竜胆(青)

…【誠実】【正義】【


金盞花

…【姿】【静かな思い】【別れの悲しみ】


禊萩

…【愛の悲しみ」【】【悲哀】【慈悲】

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