47 絆を結びましょう


「ど、どうでしょうかっ、明璃あかりちゃんとのリアンは……!?」


「まさかそう来るとは思わなかったな……」


 困惑したように頬をかく羽金はがね先輩。

 とは言え、原作通りの展開が上手く行かない事はさすがのあたしも分かってきた。

 問題はこの課題をクリアするために、どうアプローチしていくかだ。


「何か問題があったでしょうか?」


「いや、問題以前と言うか……私は小日向こひなた君の事はあまり

知らないし……リアンになる理由がないよ」


 本来であれば明璃ちゃんは、千冬ちふゆさんとの生徒会選挙を一緒にやっていて、それをきっかけに羽金先輩との距離も縮まるはずだった。

 それをあたしが代わりにやってしまった事で、親密度が上がっていない。

  だから、異なる方法でリアンに繋ぎ合わせるアプローチが必要だ。


「理由で言えば、そもそも羽金先輩はどうして千冬さんとのリアンを拒んでいるんですか?」


 そもそも羽金麗という人物は、なるべきリアンを拒んでいる。

 その理由を紐解けば、羽金先輩に認めてもらう糸口が見えるかもしれない。

 

「私かい? ……そうだね、私は出来るだけ既存の枠組みを撤廃したいと思っているんだ」


「それが千冬さんとの関係が?」


「私個人に涼風すずかぜ君に対する悪感情はないよ? 彼女はとてもいい子だからね。でも、会長と副会長は必ずリアンにならないといけないなんて、個人の自由を無視しているだろ?」


「でも、それを含めての仕組みなんじゃ……」


「プライベートは切り分けるべきさ。“伝統”を軽んじるつもりはないけれど、価値観をアップデート出来ないのは“老化”と一緒だよ」


 つまり羽金先輩は伝統を重んじてはいるけども、時代にそぐわないものは改善したいとう人物なのだ。

 この価値観を明璃ちゃんに繋げて行ければ、あるいはっ。


「でしたら明璃ちゃんとリアンになれば、羽金先輩の考えを示せると思います」


「それは、どういう事かな?」


「まだ転入したばかりで学院の事をよく分かっていない明璃ちゃんは、言わば真っ白な状態です。その彼女とリアンになれば、羽金先輩の“悪しき伝統を撤廃し、新しい学院を作る”意思表示として皆に伝わると思うんです」


 それに人間関係の点から見ても、本来であれば主人公とヒロイン同士なのだから相性が良いのは保証済み。

 今はまだきっかけを失っているだけに過ぎない。


「……うん、なるほどね。でも、そういう君はどうなんだい?」


「あたしですか?」


「そういう君だってリアンはいないんだろ、何か理由があるんじゃないのかい?」


 ああ……あたしにリアンがいないのは楪柚稀のせいであって、選り好みをしているわけではない。

 一人は楽だけど、誰かいてくれたらそれはそれで楽しいだろうし。


「いえいえ、あたしは学院側が認めてくれるなら誰でも歓迎ですよ。ただ明璃ちゃんとのリアンだけは、彼女のためにならないと思っているだけです」


 基本的に“あたしのような悪い見本を転入生に見せるべきではない”という意見を主張させてもらっている。


「……君の話は分かったよ」


 そう言って朗らかに微笑む羽金先輩。

 え、もしかして?


「い、いいんですかっ?」


「ああ、君の願いを叶える方法を前向きに検討させてもらうよ」


「ほ、本当ですかっ!?」


 や、やった!

 流石は生徒会長、話が分かっていらっしゃる!


「だから今日はもう休むといい、明日も学院での勉強があるからね」


「わ、分かりましたっ、ありがとうございますっ! 羽金先輩!」


 そうして、あたしは喜びに軽やかなステップをしながら自室へと戻るのだった。




        ◇◇◇




「ふぅ……朝日が眩しいわね」


 翌日の朝、今日は晴れやかな空が広がっている。

 降り注ぐ陽ざしに、手をかざした。 


「ふふ……これも全てが上手く行った証拠ね」


 きっとお天道様もあたしの頑張りを褒めてくれているのだ。

 それしか考えられない。


「何を道の真ん中で空を見ているのよ」


 どんっと背中に軽い衝撃が加わり、何かと振り返れば千冬ちふゆさんが怪しい者を見るような目でこちらを見ていた。


「わ、千冬さんっ……ちょっと今日は眩しいなと思って」


「何で眩しいのに空を仰ぐのよ、余計に眩しいでしょうが」


 それ言わないでよ……。

 ちょっと悦に入っちゃってたんだよね。

 でも恥ずかしいから言えなくて、何と説明しようか困っていると……。


「……昨日は悪かったわね」


「え?」


 あたしの沈黙が気まずい空気に感じたのか、千冬さんの方から話しを続けてくれた。

 そして意外にも謝罪の言葉で。


「貴女を無視して私個人の感情を爆発させすぎたわ……だから謝ろうと思って」


 隣を歩きつつ、ちらちらとあたしを見ながら千冬さんは謝り続ける。


「いやいやっ、千冬さんが謝らないでよ。相談に乗ってくれただけでもありがたいんだからっ」


 非常識な相談をしたのはあたしの方なのだから、千冬さんが罪悪感を感じる必要はない。

 むしろもう怒ってない事が分かって、こちらの方が一安心したくらいだ。


「そう……ならいいのだけれど。でも、どうするの? 貴女の事だから小日向こひなたには直接言ってないんでしょ?」


「ふふ……千冬さん、それがどうにかなりそうなんですよ」


「あら、そうなの? 意外ね、どうしたのよ」


「それが……」


 事の詳細を語ろうとして、ふと思い留まる。

 “羽金麗と小日向明璃”

 原作ではこのリアンに対して、千冬さんは羽金先輩に相当な苛立ちを覚えて反抗する。

 伝統を真っ向から否定され、尚且つ気になっている明璃ちゃんも取られたような形になるからだ。

 自尊心と恋心を両方取り上げられたような気持ちになれば誰だって感情が荒立つ。


 さて、今回はどうだろう。

 羽金先輩と明璃ちゃんとを繋げるのに、あたしが一枚嚙んでいる。

 こうなると怒りの矛先はあたしに向いてしまうだろう。

 せっかく千冬さんが謝ってくれたのに、またお怒りになってしまう結末が目に見えていた。


「……い、いずれ分かるよ……」


 どうせバレて怒られるのは既定路線なのだが、小心者のあたしはそれを先伸ばしにしてしまう。

 その曖昧な回答に千冬さんは首を傾げる。


「まぁ、解決したのなら良かったけれど」


「……うん、ごめんね」


「どうして謝るのかしら」


「……いや、一応先に言っとこうかなって」


 断罪の時には大人しく受け入れよう。







 ほどなくして、その時は訪れた。


「ちょっと柚稀ゆずきちゃん!? これは一体どういう事ですかっ!?」


 昼休みに意気揚々と羽金先輩にリアンの申請をしに行った明璃ちゃんだが、その帰りの足取りは鬼気迫るものだった。

 きっと羽金先輩は事の経緯を説明するのに、あたしの名前も出したのだろう。

 誠心誠意、これは明璃ちゃんの為であると説得しよう。


「……あたしは明璃ちゃんの事を思ってやったんだよ」


「これのどこがわたしの為なんですかっ、ひどいですよ柚稀ちゃんっ」


「仕方ないの、になる方があたしなんかより学べる事がたくさんあると思って――」


「どうしてになってるんですかっ!?」


「――てえええええええええっ!?」


 それはあたしも知らないんですけどおおおおっ。

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