46 空白の居場所
「……とほほ」
こ、困ったな……。
なぜか
とは言え、大事な事は聞けたから感謝しないと。
リアンの承認については
「となれば羽金先輩に相談しないと」
だが、まさか大勢の生徒がいる学院の中でリアンの可否についてのお願い事をするわけにはいかない。
二人になれるような場所に誘えるほど気軽な関係でもないし、時間が経っている内に
「……となればだ」
善は急げ。
あたしは寄宿舎の階段を上って行った。
寄宿舎は三階建てとなっており、その住み分けは非常に簡単。
一階が一年生、 二階が二年生、 三階が三年生となっている。
その構造によって、下級生が上の階に行く事はほとんどない。
「……おお」
同じ建物内で作りも全く一緒なはずのに、どこか雰囲気が違うように感じるのはなぜだろう。
やはり上級生の品格の高さというか、引き締まった雰囲気を感じる。
普段あたしがいる空間はどこか陽気で和気あいあいとしている事が対比で分かる。
まあ、それはいいとして。
「……羽金先輩の部屋ってどこだろう」
冷静に考えると、部屋が分からなかった。
廊下を適当に歩いてみるが、それで分かれば苦労はしない。
しかも先程から度々すれ違う上級生に怪訝そうな視線を集めているので、それが気になって仕方がない。
アウェイ感がすごいのだ。
「貴女、ちょっといいかしら?」
「え、あ、はいっ」
通りかかった上級生に声を掛けられる。
や、やばい。
挙動不審すぎて怪しまれたか……?
「先日はお世話になったわね」
「……はい?」
全く身に覚えのない話にあたしは首を傾げる。
「ほら、街頭演説の時のっ」
声を掛けてきた人の隣の子がまた別に話しかけてくる。
二人組の上級生って……。
「……あ、ああっ、あの時のクレームを入れてきた先輩!」
街頭演説の際に物申してきた上級生の二人組だった。
ま、まさかこんな所で遭遇するなんてっ。
……いや、わりと高確率で有り得るか。
しかし、こんな所で声を掛けてくるという事は、またあたしに文句でもあるのか……!?
「そ、その事なのだけれど……」
「あの時は申し訳なかったわ、反省しているの」
「……え?」
何と二人は殊勝な態度というか、どこか気まずそうにしながら頭を下げるのだった。
こ、これはこれで身に覚えがないぞっ。
「いえ、生徒会選挙での貴女と
「それに羽金会長の演説も聞いて我に返ったわ。私達がいかに愚かな行為をしていたか……」
あ、ああ……なるほど。
生徒会選挙の時に意見が変わったんだ……やはり千冬さんが当選するだけあって、その効果はこういう所にも出ていたらしい。
「い、いや、大丈夫ですから。あたしはもう全然気にしてませんから」
「本当?」
「許してもらえるかしら?」
「許します、許しますっ」
上級生二人に謝罪されるなんて落ち着かなくてしょうがない。
あたし達が真剣だったという事さえ伝わっていれば、それで良かったじゃないか。
「……あ、すいませんっ、ちょっとお願い事をしてもいいですか?」
そこで妙案が閃いた。
「あら、どうしたの?」
「羽金先輩の部屋を教えてくれませんか?」
「……羽金会長の?」
これは渡りに船、せっかく先輩の方から声を掛けて来てくれたのだからこの機会を逃すわけにはいかない。
「いいけれど、どんな御用なの?」
「……え、そ、それは……」
“リアンの申請を認めないでくれ”なんて言う訳にはいかない。
「……現在の学院の制度に関して改善願いたい部分がありまして、直談判しようかと」
「それは会長のプライベートの時間を使ってまでお願いする事かしら?」
「ええ、生徒会の活動時間に申し上げるべきかと」
ぐ、ぐぬぬ……。
正論パンチが二連続。
し、しかし、生徒会役員の皆様がいる所で言える話じゃないんですねぇっ。
「こ、これは緊急を要するのです。さもないと羽金先輩の未来が危ういんですっ」
「そ、そんなに
あたしの剣幕に、二人は口に手を当てて驚く。
「で、ですからっ、教えてくださいっ」
「それは分かりましたが……」
「貴女、一体何者なんですか……?」
フルリスの行く末を司る者……は言い過ぎか、調子に乗りました、ごめんなさい。
◇◇◇
――コンコン
「どうぞ」
案内してもらった部屋の扉をノックすると、すぐに返事が返ってきた。
しかし“どうぞ”とは言われたものの、後輩が来るとは思っていないだろうから、いきなり部屋に上がるのは気が引けるな……。
「あ、あのー
「え、楪君? 珍しいね、入っていいよっ」
許可が取れたので扉を開ける。
「失礼します……」
部屋に入ると作業中だったのか、テーブルでノートを広げている羽金先輩がこちらを振り返っていた。
髪もまとめて眼鏡を掛けていたのだが、そのビジュが新鮮だった。
「ん? 私の顔に何かついているかな?」
「あ、いえ、普段はお見掛けしない姿だったのでつい……」
「ああ、これかい? ふふ、部屋の中くらいは機能性を重視するさ」
「眼鏡も初めて見ました」
「ああ、実は普段コンタクトでね、視力があまり良くないのさ。でもこんな私も知的だろう?」
眼鏡をくいっと上げて艶やかに微笑む。
こういうのも絵になりすぎるから困っちゃうなぁ……。
「はい、とても似合っています」
「……おっと、ちょっとした冗談のつもりだったんだけど、本当に褒められると反応に困るね」
「先輩の容姿だと冗談になりません」
あと成績も本当に良いから、どこを切り取っても冗談になりようがない人なのだ。
「……ふふ、お世辞でも素直に受け取っておくとしようかな。ほら、座っていいよ?」
空いている前の席を指され、あたしは言う通りに座らせてもらう。
「それで? まさか私のこの姿を見に来た訳でもないだろう?」
「あ、そうです、ちょっと相談がありまして……」
危ない危ない。
羽金先輩の意外な姿に喜んでしまって、本来の目的が一瞬消し飛んでいた。
「えっとですね――」
端的に、
「うん、話は理解したよ」
こくこくと、羽金先輩は何度か頷く。
「えっと、それではあたしの話を受け入れてくれる方向で……?」
「申し訳ないけど、それは出来ないな」
きっぱりと断られてしまう。
「この学院でリアン同士で生活をするのは自然な流れだ。人間関係での不和があったなら考慮はするけれど、君たちは仲が良いのだろう? 配慮する理由があまりになさすぎる」
案の定と言うべきか、当然の事のようにあたしの要望は通らなかった。
「……そう、ですよね」
しかし、あたしだって馬鹿じゃない。
こうなる事は想定できた、であれば……。
「あ、あの、代案というのはどうでしょうか……?」
「代案? まぁ、問題なければ聞くけど……」
「羽金先輩もリアンがいませんでしたよね?」
「ああ、私は生徒会長だから皆が配慮してくれていたんだ」
ヴェリテ女学院では伝統として生徒会長と副会長がリアンの関係を築いてきた。
その伝統を羽金先輩が拒否していたのを、千冬さんがご立腹されていたのは記憶に新しいのだが……。
その空席が狙いだった。
「あの、よろしければ羽金先輩が明璃ちゃんとのリアンになってくれませんか?」
「……私が?」
そして、そのリアンの組み合わせが原作通りのシナリオでもあった。
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