29 生徒会室はアウェイになりがち
「いよいよ、これから生徒会始動だね」
副会長になった
「ええ、そうだけれど……」
その言葉にはどこか迷いが感じられた。
恐らく彼女にとっての新しい挑戦に戸惑いも混ざっているのだろう。
「大丈夫だよ、千冬さんなら出来る」
「ええ、そう言ってくれるのは心強いのだけれど……」
それでも尚、困惑を隠しきれていない声音。
やはり人は習うより慣れろ、実際に行動する事でしかその恐怖に打ち勝つ事は出来ないんだ。
「……それよりも、どうして付いて来るの?」
「へ?」
生徒会に向かう千冬さんに並走していると、怪訝そうな表情を向けられた。
「ほら、元責任者として初出勤はお見送りしたいと言うか」
「……聞いた事ないけれど、百歩譲ってまだそれは分かったとして」
尚も千冬さんの額の皺は濃くなる。
なんでそんなに嫌がってるのかな?
「どうして
なるほど。
さっきから千冬さんが怪訝そうな表情を浮かべていたのは、それが理由らしい。
あたしが勝手に先走り過ぎていたようだ。
「……えっと、小日向が生徒会を見てみたいって言うから」
「言ってませんよ!?」
そう、あたしは
だってそうしないとマズイのだから。
「ほら、やっぱり迷惑そうじゃないですかっ。わたし大丈夫ですから、生徒会を見に行かなくてもいいですからっ」
わーわー騒ぎだす明璃ちゃん。
彼女もまた未知の経験に恐れを抱いているのかもしれない。
「大丈夫、生徒会の人達は皆いい人だから」
「皆さんとは会った事ないですよねっ」
「モニター越しでならあるよ」
「何言ってるんですかっ!?」
原作をプレイした経験としては、生徒会の人達で嫌味を言ってくる人はいなかった。
だから安心して欲しいんだけどねっ。
「初日に部外者が来るのは、さすがの羽金会長も嫌がると思うのだけれど……」
千冬さんに迷惑そうに指摘される。
確かに普通ならそうかもしれない。
しかし、忘れてもらっちゃ困るがこの子は主人公。
ヒロインとの出会いを嫌がられるはずがない、それは本能レベルで刻まれているはずだ。
「大丈夫、小日向は歓迎される」
「何を根拠に言ってるんですかっ」
「運命だからね」
「拒否される未来しか見えませんっ」
わーわー喚く明璃ちゃん。
むー。
そんな苦手意識持たなくていいのに……。
「はぁ……貴女って見境ないのね」
「え、そう?」
千冬さんが溜め息交じりで肩をすくめる。
どうやら呆れられているみたいだ。
「貴女は誰にでもその行動力を発揮するのね、
「……ん? 誰でもって事はないけど」
あたしの行動はいつも主人公とヒロインの為に行っている。
なので一部の人にしか発揮されない行動力だ。
役に立っているかは別として。
「でも、私だけというわけではないでしょう?」
「え、あ……まぁ……」
生徒会選挙では千冬さんのために奮闘したが、今は明璃ちゃんのために奮闘している。
それは事実だ……けど、それが何か問題なのだろうか。
「それが私の為だけなのなら、いくらでも歓迎するのだけれど……」
「えっと……」
それは難しい相談だ。
やはり千冬さんにとっては、自分に付き従う従順な存在がお望みなのだろうか。
「はぁ……まあ、いいわ。好きにして」
千冬さんはやれやれと首を振りながら諦めたように先を歩き始めた。
どこか押し黙ったようにも見えたけど、気のせいかな。
「よし、許可とれたよ小日向」
「すっごい嫌々そうでしたけどねっ、あたしの名前も一切出てませんでしたけどねっ」
「はは、そんなに名前呼んで欲しいんだね。かまってちゃんだなー」
「そういう意味じゃないですけどねっ」
なんだろう。
珍しく明璃ちゃんが感情的だなぁ……?
ヒロインとの出会いを前に興奮しているんだね、うん。
◇◇◇
「「「失礼します」」」
三人仲良く生徒会室に入室する。
部屋の一番奥、一人用の堅牢な作りのテーブルに座る金髪の少女が視界に飛び込んでくる。
窓を背に、金糸のように髪が輝いている。
「おや……? 早速お客さんが来るなんて、これまた珍しい生徒会の始まりだね」
首を傾げながらも口元に微笑みを絶やさない羽金先輩。
その手前には長テーブルに隣り合わせで座っている役員の方々がいるが彼女らは困惑している様子だった。
同じ生徒会役員でも反応は随分と異なる。
「涼風君が来るの当然として。楪君と……ああ、君は転入生の小日向君だったね?」
「は、はいっ! 小日向明璃と申します!」
ぺこっと勢いよくお辞儀する明璃ちゃん。
やはり羽金先輩は生徒の事を全員把握しているようだ。
「自己紹介ありがとう。それで二人は何の用で生徒会室へ足を運んでくれたのかな?」
一刻でも早く明璃ちゃんの存在を認知してもらいたかったから、なんだけど。
「どうですか彼女? 何か感じません?」
多くは語らず、悟ってもらう。
羽金先輩ほどの人なら分かるよね、明璃ちゃんの魅力がさ。
ヒロインの中でも貴女は異色なんだから。
「うん、可愛い子だね」
にこっと爽やかな笑顔で羽金先輩は答える。
「か、かわ……!?」
明璃ちゃんが言葉を失っている。
ヒロインにいきなり褒められるなんて、さすが主人公。
「会長……」
千冬さんは呆れた様子だった。
やはりヒロイン同士は戦う運命?
「ふふ、涼風君も凛々しくて美しいよ」
「……誰が私にお世辞をお願いしたんですか」
「私は思った事を言ってるだけなんだけどね?」
「軽薄です」
あはは、まいったね。
と、大した気にする様子もなく肩をすくめる羽金先輩。
「これで楪君だけ何も言わないのは不公平かな?」
「あ、いえ、あたしは別に……」
明璃ちゃんに可愛いとの感想を頂けたので、あたしは満足です。
これで二人のルートも開拓できたので後はお任せするのみだ。
とか思っていると、羽金先輩はあたしの前に立っていた。
……なんで、あたしの時だけ歩み寄って来た?
「君は――」
羽金先輩は屈むとあたしの首元に顔を近づけてくる。
「――食べちゃいたい、かな?」
「んな……!?」
首筋に吐息が掛かる距離で、なんか羽金先輩が変な事言ってる!!
それと同時にぐいいっと両腕を後方に引っ張られる感覚! 痛い!
「会長、冗談は止めてください!」
「せ、先輩……! 楪さんは食べ物じゃありませんっ!」
どうやら千冬さんと明璃ちゃんに腕を引っ張られ、羽金先輩との距離を離されたようだ。
二人同時に腕を引っ張るもんだから、飛んで行っちゃいそうで痛かったけど。
「あははっ、なるほどね。先約がいたわけだ」
「そういう冗談も悪質です」
「食べ物屋さんじゃないんですから予約とかありませんっ」
……おおう。
一瞬にして羽金先輩と対立する構図になっているんだけど。
思ってたのと違う。
「君たちがそのスタンスなら否定するつもりはないけれど。いつだって勝利は行動を起こした者にしか手に入らない事を忘れずに、ね?」
余裕の笑みを浮かべたまま席へと戻る羽金先輩。
どんな時でも優雅さを失わないのは流石としか言いようがない。
「行きますよっ楪さんっ! もう用は済みましたよねっ!」
「あ、え、ちょっと」
来た時とは対照的に、出る時は明璃ちゃんが強引に引っ張っていく。
「いつでも来ていいからね」
ひらひらと羽金先輩が手を振る。
「楪さんはもう来ないそうです!」
なんで明璃ちゃんが答えるの!?
そんな事を言う間もないまま、あたしは生徒会室を強制退去させられた。
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