14 思いは絡み合って
「さて、アレはどういう事か説明してもらおうかしら……?」
放課後。
あたしは
ちなみに現在、あたしは床に正座である。
足冷たい。
「大変、申し訳ありませんでした……」
あたしは街頭演説でブチギレてしまった。
ブチギレた結果、空気はとんでもない事になった。
“上級生に声を荒げて叱責を始める副会長候補とその責任者”
そんな前代未聞の街頭演説は、今きっと学院内を騒がせている事だろう。
狭いコミュニティだからこそ、異端児のニュースは瞬く間に駆け巡る。
こんな劣勢の状況を作り出したあたしに対して、千冬さんが怒るのはごもっともだった。
「なんであんな事をしたの?」
「いえ、非常に不愉快だったので……」
どう言い繕おうと、後の祭り。
きっと千冬さんの怒りは収まる事はないだろう。
許されようなんて思っていません。
せめて、罪の告白だけは偽りなく。
どんな断罪も受け入れる覚悟は出来ています。
「不愉快とは?」
「千冬さんに対して“ヴェリテ学院の伝統と格式を辱める”なんて、有り得ない事を言ってる人がいたので」
だが、そう思わせてしまったのは
あたしがもっと上手く事を運び、原作通りに
つまり、あの現象を引き起こした
それでも感情的になったのだから反省でしかない……。
「そう、貴女の言い分はよく分かったわ」
さぁ……これからあたしは千冬さんにどんな罰を受けるのか。
怖いけど、逃げる気はない。
これはあたしの罪なのだから。
「顔を上げなさい」
ああ……きっと、顔を上げた瞬間ビンタだな。
きっとそういうヤツだ。
痛いだろうなぁ……でも受け入れるしかない。
「はいっ!」
あたしは決死の覚悟で顔を上げ、目と口を閉じ、その瞬間を待った。
罪とは痛みなのだっ。
「……ん」
あれ、すぐ頬にビンタが飛んでくると思ったけど、何事もない。
じ……焦らしプレイ?
こ、怖い……。
「貴女、ずっと何をしているのかしら」
「え、この身は断罪を受け入れる覚悟で……」
「意味が分からない事を言っていないで、目を開けなさい」
「……はい?」
おや、とあたしは目を開く。
そこには憤怒の表情はどこ吹く風で、むしろ落ち着きを払っている千冬さんのご尊顔があった。
どゆこと。
「怒ってないの?」
「怒るって、何によ」
「いや、ほら、あたしが千冬さんの街頭演説を無茶苦茶にしちゃったから……」
「……はぁ」
千冬さんが溜め息を吐く。
今度こそ、言葉の槍があたしを突き差してくるのだろう。
「腹は立っているわ」
「やっぱり……」
「でもそれは貴女にじゃないわ」
「え?」
意外な言葉だった。
「私は私に腹を立てているの。貴女が不安材料なのは百も承知だった、それを踏まえた上でその要素を上手くコントロール出来ると思っていたから。でも実際にはそうはならなかった、それは私の未熟さのせいよ」
そこで、千冬さんは表情に影を落とす。
彼女が落胆を明らかな態度で示すなんて、よっぽどの事だ。
「いやいや、千冬さんが落ち込む事はないと言うか……」
それはそれであたしも困る。
せめて怒るなり責めるなりしてくれないと。
贖罪にならないではないか……。
「むしろ、あそこで言い返せる度量には恐れ入ったわ。あそこまで学院の風紀を無視して言いたい事を言えるのは貴女くらいでしょうね」
「それは褒められているのか貶されているのか微妙なラインだ……」
「そうかもね……。でも気持ちは嬉しかったわよ」
「え、そ、そうなの……?」
てっきり予定を台無しにしたあたしに怒り心頭だとばかり。
「ええ、少なくともあの場で私の味方でいてくれたのは貴女だけだったから」
「千冬さん……」
気付けば、千冬さんはどこか力の抜けた柔和な表情になっていた。
時間も経って、少しだけ気持ちの整理がついてきたのかもしれない。
状況は決して望まれたものではないけれど、この千冬さんとなら一発逆転も……。
――ガラッ
そこに割って入るように、扉の開く音が突然響いた。
「……ユズキ、これはどういうこと?」
反射的に扉の方を見ると、白銀の少女 ルナ・マリーローズの姿があった。
すぐに目が合う。
「え、どゆ事とは……?」
しかし、そのルナの目つきが異様に険しい。
とても穏やかな雰囲気ではない。
「どうして床に正座させられているの……?」
なるほど、ルナはあたしが教室で謎に正座をしている事が気になっているらしい。
「あ、えと、これは反省の証としてだね……」
日本人が和室以外で正座をする事に違和感を持っているとか、そういう事なのかな?
ちゃんと説明してあげないと。
「スズカゼ、どうしてユズキにこんな事をさせているの?」
あれ、全くあたしの話を聞いていない。
ルナはつかつかと教室に入り、非難めいた口調で千冬さんに問いかける。
「これは
そうです。
あたしが謝罪の態度として、勝手に正座をしていただけなんです。
決して千冬さんにやらされていたわけではありません。
「仮にそうだとしても、そもそも巻き込んだのはスズカゼ。ユズキが謝る必要はない」
すると、ルナはあたしの両脇に腕を入れてぐいっと引っ張り上げる。
そんな細身で、あたしを軽々と持ち上げるとか……王子様?
って、ちがう。何きゅんとしてんだ。
「行くよ、ユズキ」
「え、行くって、どこに?」
「スズカゼのいない所、もう責任者なんて辞めるべき」
お、おやおや……?
ルナの目はいつになく鋭いし、声音も口調も辛めだ。
マジトーンって感じなんだけど。
「ルナ・マリーローズ、どういうつもりよ。私と楪はこれからの生徒会選挙について……」
「“どういうつもり”は、こっちのセリフ。責任者なんかのせいで、ユズキは悪口を言われている」
あ、えっと、ルナはあたしの事を守ってくれているのか……?
「ルナ、それは違うよ。アレは因果応報というか、あたしの普段の振る舞いが悪いせいで……」
「違う、スズカゼの演説に付き合わされなければユズキがこんな目に遭う事はなかった」
いや、それはそうとも言えるかもしれないけど……。
でも、物事はそんな簡単に割り切れるものではなく……。
「勝手な事を言わないで、私と楪は協力関係にあるのだから貴女が邪魔する権利はないわ」
その千冬さんの反論に、ルナがギロリと睨む。
「その
「……そ、それはっ」
それは今の千冬さんにとっては痛いカウンターだった。
「だからユズキは渡さない、ルナが連れて行く」
「え、ちょっとルナ!?」
そして、あたしはルナに体を抱っこされたまま廊下へと強制連行されていく。
「あ、あれれ……?」
え、責任者の放棄ルートとかあるの?
いや、そもそもルナと千冬さんのこんなガチ口論自体見た事ないんだけど……。
あたしは正解の見えない展開に、頭を混乱させるばかりだった。
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