第6話見知らぬ女子生徒にラブレターを手渡される

「それでは私は帰るのじゃ」


 その日の授業が終わりソルトは急いで帰ると慌てて教室から出ていく。


「なんだあいつ、あんな慌てて」


「そうですね、もしかしたら何か企んでいるのかもしれないですね」


 笑みを浮かべながら話しかけてきたのは今日ソルトと共にこのクラスに転校してきた朱華という女子生徒。


 ソルトの話によればこの子が人の恋を喰らいその人の人生までも喰らう恋の悪魔と呼ばれている一人らしいが、とてもそうは思えずただの普通の可愛い女の子と言ってもいい。


「あら、急に話しかけてごめんなさい。お昼をお誘いしてあの子に邪魔されたものでしたからあの子がいなくなるのを待っていたものでして」


 ニコニコと笑顔を見せてくる朱華に俺は少し緊張していたソルトから聞いた恋の悪魔の事もそうだが、実は女子と話すのはそれ程得意ではなくなんなら昔の出来事により女子と話をするのが苦手になってしまったのだ。


「その、ソルトとあなたはお知り合いなんですか?」


「そうですね……あなたはあの子からどれくらいお話を聞いておりますか」


 どうすればいい素直にあなたは恋の悪魔なんですかと聞けばいいのか悩んでいると。


「あ……あの刹那君」


 教室に入ってきた見知らぬ女子生徒は俺の名を呼ぶ。そして朱華の方を見る。


「あらら、どうやら私はお邪魔らしいですね。では刹那君また機会がある時にお話でもしましょうか」


 朱華はバッグを持ち教室から出ていく、教室には他にもまだ残っていた生徒達が俺達の方に注目してきているが見知らぬ女子生徒は目の前にまで近付いてくると。


「これ、受け取って下さい」


 そして見知らぬ女子生徒は手紙くらいの封筒を手渡してくる。女子生徒は封筒を手渡したらすぐにいなくなってしまった。


 家に帰宅するとソルトが部屋のベッドで漫画を読みながらくつろいでいた。俺は勉強机の椅子に座り、あの見知らぬ女子生徒が手渡してきた封筒を開ける。


 中には綺麗に折り畳まれていた手紙が入っていて綺麗に文字が書かれていた。簡単にいえばこれはラブレターだったのだ、しかも俺は今日生まれて初めてラブレターなんていうのを受け取った。


 だが俺は相手の事を全く知らないのに何故相手の女子生徒は俺なんかにラブレターをと思っても仕方ない。


 ラブレターには明日の放課後屋上で待っていると綴られている。これは明日の放課後に確かめてみるしかないと思った。


「なぁソルト」


「なんじゃ、私は漫画を読むので忙しいのに」


 ソルトは読んでいた漫画を見るのを止め漫画を持ったまま俺の顔を覗き込んでくる。ソルトにもラブレターの事を話そうと思ったが、そんな軽々しく話してしまうのもどうかとも思う。


「いや、その漫画面白いよな。今どこら辺読んでるんだよ」


 今ソルトが読んでいる漫画の話題に切り替えた。正直その日はラブレターの事を考えてしまい全く寝る事ができなかったので次の日完全に寝不足だった。


「ねぇ大丈夫少し顔色悪いけど」


 朝ご飯を食べていると母さんに心配される。


「大丈夫、大丈夫。昨日ちょっと寝付けなかっただけだから」


 隣の席に座ってソルトは黙々と朝ご飯を食べている。


「ごちそうさまなのじゃ、それじゃ母君。学校に行ってくるのじゃ」


 ソルトは俺よりも早く朝ご飯を食べ終わると元気よく母さんに挨拶すると、すぐにリビングから出ていき玄関の方へと行ってしまう。俺も朝ご飯を食べ終わりソルトの後を追って俺も学校へと向かう。


 教室に着く前廊下に昨日ラブレターを手渡してきた女子生徒が友人と思われる他の女子生徒と話ながら歩いているのを目撃する。


「そういえば昨日のあれ結局なんだった訳」


「昨日? 私何かしたっけ」


「いや、ほら放課後になって突然手紙なんて書き出したと思ったらすぐに教室から出ていったじゃない」


「何それ怖い、え……私全然そんな事した覚えないんだけど」


 そう言って話す二人は隣の教室へと入っていくのだった。


「昨日の事に覚えがないって一体どういう事た

 だ」


 今の話から昨日ラブレターを手渡してきた女子生徒は全く身に覚えがないみたいな顔で友人に答えていた。


 教室に入ると他のクラスメイト達も既に数人教室にいて談笑しているようで黙って席に着く。隣の席を見ると俺よりも先に出ていたソルトはまだ来ていないらしい。


「おはよう刹那君」


 突如として声をかけられびっくりしてので振り返ると昨日転校してきた朱華がニッコリ笑顔を見せてきていた。


「えっと、おはよう」


「全然元気ないみたいですけど大丈夫ですか?それにその目の隈昨日ちゃんと寝ました?」


「これは昨日ちょっと考え事をしていたら全然寝付けなかったから実は寝不足で」


「ああ、そういう事ですか、睡眠はしっかりとった方がいいですよ」


 一言だけ言うとそのまま彼女は後ろの席にまで歩いていき自分の席に座る。他のクラスメイト達もすぐに彼女が来た存在に気付くと昨日のように話しかけにいく。


 始業のチャイムが鳴ったが、そのままソルトが教室に来る事はなく一限目の授業が始まる。結局ソルトが来たのは昼休みになった直後である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る