魔王に恋をする
@seisaito
第1話
俺はあまり人のことを好きになれなかった。
無論、性欲は溜まるし、好意寄せてくれる人は全員手を付けた。
ただ、そこにあるのは単調な快楽だけであり、睡眠や食事と区別する線は存在しない。
故郷を離れ、勇者として活動していく間にできた、信頼できる仲間たちでさえ、例外はない。
だが、そんな俺が恋をしてしまった。
いや、一目惚れという方が正しいのか。
俺の思っていた魔王というのは、背が高く、顔は怖くて、丈の長いローブを着た男だった。
しかし、現実は全く異なっていて、顔の彫りは浅く、身長も低い、しかも可愛い女。
今すぐ、自分のものにしたい。
全身に興奮が駆け巡る。
独占欲に体が侵されていく。
しかし、俺はこいつを殺さなければならない。
そのために各国の王は俺のことを無償で支援してくれたし、ここにいる仲間の中には、魔王の配下に大切な人を殺された者もいる。
どうにかできないだろうか。
名前くらいは知りたい。
好きな相手の名前くらいは。
そんな俺の心境など仲間は知るはずもなく、臨戦態勢に入っている。
「貴様が魔王なのか?」
仲間の一人が少し離れた場所にいる魔王にそう聞いた。
確かに、こんなのが魔王のはずない。
きっと、魔王の娘とかなんじゃないか。
淡い希望を抱く。
もしそうなら、この子は俺の家に連れ帰ろう。
洗脳の魔術をかけて、俺がこの子の父親ということにしよう。
誰にも奪われないように地下に閉じ込めるんだ。
しかし、そんな希望は儚く散った。
「そう」
魔王はそう言った。
声もタイプだ。
ますます、恋愛感情が膨らんでいく。
死体なら持って帰ってもいいだろうか。
全身をパーツ事に分けて、いろんなところに飾ろう。
考え込んでいるうちに、横にいた魔術師が詠唱を始めた。
俺はこいつの実力を知っている。
詠唱の速度は速く、威力は人知を超えている。
そんなものをぶつけてしまったら、俺の死体が傷物になってしまう。
死んだら、治癒魔術は効果がない。
まずい
まずい
俺は咄嗟に魔術師の首を切った。
やってしまった。
そう気づいたときにはもう手遅れだった。
魔術師の頭が鈍い音を立てて床に落ちる。
胴体は血を噴き出しながら崩れ落ちる。
仲間は全員呆気にとられたような顔をしていたが、俺にはもうどうでもいい。
ほんの数秒で、俺は自分の心に整理をつけた。
俺の向かい側で魔術師の横に立っていた治癒魔術師は、驚きのあまりに膝から崩れ落ちて、言葉にならないような悲鳴を上げていた。
他の仲間も多種多様な反応を示した。
その中には当然、俺を糾弾するものもいた。
だが、俺の耳には何も届かない。
そもそも俺は、仲間達が気に食わなかったんだ。
どいつもこいつもコネで俺のパーティーに入ってきて、まともな実力があるのは俺と、さっき殺した魔術師だけ。
ここに来るまで何度殺してやろうと思ったことか。
パーティーの奴らは皆殺してしまった。
しょうがないのだ。
だって見られたから。
これでようやく、魔王を自分の物にできる。
死体にする必要はない。
縄で縛って持って帰ろう。
地下に閉じ込めるなんてもったいないことはしない。
力を封じ、獰猛な魔物に体の一部を目の前で、食わせるなんてどうだろうか。
生きている限り、治癒魔術で体を治すことができる。
自分の体を目の前で食われる時、この女はどんな顔をするのだろうか。
一歩、一歩と魔王へと近づく。
さて、どうやって話しかけようか。
俺は今まで口説いた事なんてないからこういう時どんな声をかけたらいいかわからない。
確か、そこで死体になっている奴の一人がこんなことを言っていた。
「あなたの爪に惹かれました。僕の女になってください」
完璧だ。
俺は勇者だ。
失敗なんてするはずない。
しかし、魔王はなんの言葉も発さず、攻撃をしてきた。
なぜだ。
告白は完璧だった。
振られたのか、この俺が。
深く傷つく俺に魔王はこういった
「仲間を大切にしないやつは嫌いだ」
俺は泣いた。
初めてだった。
こんな感情を抱くのは。
だから焦ってしまった。
失敗した。
失敗は取り返せない。
そう悟った俺は、剣で自分の首を切り落とした。
来世では失敗しないことを願いながら。
魔王に恋をする @seisaito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます