第12話 新たな能力者
放課後、教室で夏美を待った、しかし待てども夏美は来なかった。ゲームやアニメで主人公が過去に戻れる能力を持っている時、前と違う行動をしたら起きるはずのイベントが起こらなくなるやつだろう。武志との会話で踏み込みすぎたのだろう、武志から夏美に情報が行ってるのかもしれない。
しかし困った。これでは情報集めが出来ない。こちらから夏美のもとに向かってもいいが、俺から夏美に話しかけることはめったになかった。向こうもまだ疑念を抱いている程度だろうが、こちらから動けば、それは確信に変わるだろう。俺も武志と夏美が事件の関係者なのは半信半疑なのだが……
いくら待っても夏美が来ないので今日のところは、家に帰るとしよう。スマホを見ると朝、連絡先を交換した、柏木さんからグループチャットへの招待が来ていたので入り、挨拶をする。田中さんから「なんかよく分からないけどよろしく」と返信が来た。分からないのは当然だろう、いきなり事情を知っている人が現れたのだから。俺たち三人の中で田中さんだけが、タイムリープを経験していない。俺も経験が無ければ混乱していただろう。田中さんの適応能力は高い。
コンビニで晩御飯を買って家に帰った。晩御飯と言っても安いおにぎりを二個買っただけだが。バイトもしていない貧乏学生には贅沢は敵なのだ。軽くシャワーを浴びてから、おにぎりを食べる。食べながら事件の事を振り返る、連続失踪事件、それは超能力に目覚めた人間が手も触れずに人間を消滅させていく事件。手も触れずに消せるというのは能力を受けた柏木さんが証言してくれた。
次に、能力の有効範囲はどれくらいなのだろうか? 柏木さんが言うには消される前足音が聞こえて振り向く前に消されたらしい。ということは足音が聞こえるくらいの範囲に近づかないといけない。射程無限とかなら勝ち目は無いだろう。ここからは予想だが、柏木さんが消された場所はこのアパート、この部屋の玄関前だ。そして、四階のこのフロアまで犯人は来た、つまり、マンション外から柏木さんを消すことは出来ず、目視で標的を見ないと消せない可能性が高い。被害者たちは犯人と向かい合ったか背後から消されたはずだ。
そして、次は武志の能力だ。手をかざすだけで斬撃を飛ばせるのは反則級だ。田中さんも手をかざしてコーヒーカップを凍らせていたが、それとは次元が違う。首を一撃で飛ばす攻撃力があるのに、離れたところから攻撃できるのは強すぎる。味方になってはくれないだろうか、武志は悪いやつではないが、力を求めすぎるところがある。昔から強くなるのが好きだった。そんな武志が従っているのだから消滅の能力は武志の能力より強いのだろう。
次はこれから起こることをどうやって阻止するかだ。確か木曜日から三田さんが学校に来なくなる。ということは水曜日の夜に三田さんは失踪するだろう、それまでに何とかして三田さんと接触できないだろうか。学校で話すのは危ないので接触するなら放課後だな。
俺はスマホを取り出し、グループチャットにメッセージを送る。
「柏木さんか田中さんどっちか三田さんの連絡先知ってる人はいる? 記憶では水曜日の夜に失踪するはずなんだけど阻止したい」
本来阻止には危険が付きまとうが、容疑者が夏美だ。俺は夏美にこれ以上罪を重ねてほしくない。最近はあまり話したりしていなかったが、昔は仲の良かった幼馴染だっただけに犯行を止めたかった。
五分後にはふたりから返信が来た
「ごめん、知らない」
「私も分からない」
二人は知らないみたいだ。仕方ない危険だが、学校で接触するしかない。幸いにも同じクラスだ、タイミングは探せばあるだろう。
明日に備えて、その日は眠った。
朝、目が覚める。俺は悪夢を見ていた。大切な人が消えていく夢だった。タイムリープ前は田中さんや柏木さんは消えている。この夢を現実にしないように俺は頑張らないといけない。
学校に着き、教室に入る。真っ先に三田さんの席を見る。三田さんは授業の準備をしていた。ひとまず無事でよかったと安堵した。水曜日の夜に失踪するとはいえ、俺のここまでの行動で失踪時期が早くなっている可能性もあった。なるべく早く接触しないといけない。
昼休みもあと五分で終わる。しかし、まだ三田さんに話しかけることすら出来ていなかった。となりに武志がいるからだ。やはり武志が部活に行った後の放課後に話しかけるしかないだろう。
そして、今日の武志は口数が少ない。もともとおしゃべりな方ではないがいつもより静かだ。時折、じっとこっちを見てくるが、まだ疑っているのだろうか。
授業が終わり、放課後になった。
「武志おつかれ、また明日」
「おう」
武志は部活をしに行ってしまった。まだクラスには数人残っていたが、ここを逃せば話しかける機会がなくなってしまうと思い、意を決して三田さんに話しかける・
「三田さんちょっといいかな」
「新田? どうした?」
「話したいことがあって、ちょっとここでは……」
「なんだ告白か?」
三田さんは男だ。もちろん俺にその気はない。
「違うけど」
「まぁ冗談だ。駅前のハンバーガショップでいいか?」
俺は頷き、ハンバーガショップに向かう。道のりで会話は無かった。
ハンバーガショップに着き、注文して席に座る。
「それで、話って何?」
「三田さんって超能力って信じる?」
いきなりだが、超能力の話をする。これは柏木さんと初めて事件の話をしたときに柏木さんにされたやり方だ。超能力を知っていれば話は早いし、知らなければ別の手を使えばいい。効率の良いやり方だと最近理解した。
「へー新田も知ってるんだ、超能力」
「三田さんは超能力者だったんだね」
「そうだよ、誰にも言ってなかったけどバレるもんなんだね」
これは予想通りだった。女子供ばかり狙っていた失踪事件の犯人がなぜ急に三田さんを狙ったのかは謎だったけど、能力者なら狙われた理由も分かる。
「いや、疑惑の段階だったんだけどね」
「そうなのか」
「そう、それで、三田さんが超能力者なら話は早い。連続失踪事件の標的にされてるから気を付けてって忠告したかった」
「なるほど、最近失踪者が増えてるってあれか」
「そう、その事件を調べててね。捜査の結果三田さんが狙われる可能性が高いってことが分かった」
「なんで狙われるのか聞いていいか?」
「さぁ? そこまでは分からないけど、能力者だからじゃないかな」
「それだとおかしいじゃないか、僕が狙われる理由がはっきりしてないのに何で標的にされてるか分かるんだよ」
ごもっともな意見だ。三田さんが敵か味方かはっきりしていない状況だからあんまり言いたくないけど、ちょっとだけ説明してあげよう。
「三田さんが敵かもしれないからあんまり言えないけど、能力で三田さんが死ぬってわかったんだよ。知り合いに死なれたら寝覚めが悪い。だから忠告しに来た。それだけ」
「そうか、新田お前いいやつだな。話したことあんまりない僕に忠告してくれて。僕も能力者だ。だからその話信じるよ」
俺がいいやつ? 柏木さんが言うには前回三田さんは死んでいる。俺が動かなかったからだ。三田さんが失踪すると分かっていたのに俺は動かなかったらしい。リスクを回避するために動かなかったのだろうが、今回も、三田さんは能力者という推理の元、こちらの戦力になってくれるかもしれないって思ったから動いただけの事。俺はいいやつなんかじゃない。
「信じてくれて嬉しいよ」
俺は自分が詐欺師に向いているなと思った。
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