第11話 疑い

 朝、家のインターホンの音で目が覚める。武志か夏美だろうか? 昨日の夜、家まで見舞いに来てくれたし、今日も来てくれたのだろう。田中さんと柏木さんからの連絡が一日以上経過している。


 重い足取りで玄関に向かい、ドアを開けるとそこには柏木さんが立っていた。


「柏木さん!? 無事だったんだね!!!!」


 興奮した口調で話す俺に静かにするよう促して、柏木さんは家に入ってくる。


「えっ?」


 柏木さんは勝手に俺のベッドに座り話し始めた。


「新田君落ち着いて聞いてほしい」


 柏木さんの話は衝撃的だった。柏木さんの能力で二週間戻された後、一週間過ごしたがまた戻されたのだと。要するに今日を過ごすのは三回目らしい。スマホを確認すると、確かに二週間戻されている。


 そして、連続失踪事件の捜査を田中さん、柏木さん、俺の三人でやっていたのだという。そして、俺が犯人を見つける計画を立てたが、失敗に終わり、俺は失踪したらしい。


「俺が立てた作戦が失敗して俺は失踪か、でも柏木さんがここに来たってことは柏木さんも死んだんだよね」


「残念ながらそうなんだけど、犯人の一味を見つけることが出来た」


「すごいな、誰なんだ?」


「落ち着いて聞いてほしい。犯人の仲間の名は、中田武志」


「は……? 嘘だろ?」


「本当よ」


「武志が悪事に手を貸すわけないだろうが! 冗談でも行っていい事と悪いことがあるだろうがっ!」


「嘘じゃない。私と瑠美は中田君の能力で殺された。冗談でこんなことを言うわけない」


 全身から力が抜けていく。柏木さんの目は嘘をついている目じゃなかった。でも正義感の塊のような武志がそんな悪事に加担するとは思えない。金曜日も三田さんが消えたとき三田さんの家まで心配で見に行ってくれたじゃないか。


 ……見に行った……? 仲間の仕事を確認しに行った可能性もある。でも昨日、見舞いに来てくれたし……


 違う、昨日夏美の発言を思い出せ、夏美は「敦なら大丈夫って言ったじゃん」と言っていた。夏美は俺が無事なのを知っていた、メッセージに既読すらつけなかったのに、そして昨日はスルーしたが、夏美と武志が一緒に来ているのも不自然だ、あの二人が仲良くしているところなんて見たことが無い。


 つまり、夏美は連続失踪事件の犯人か、最低でもその仲間。武志も仲間。


「嘘だ……そんなはずは……」


「ごめん新田君、でも中田君が犯人の仲間なのは間違いないの」


「違う、連続失踪事件の犯人は岩井夏美の可能性が高い」


「隣のクラスの岩井さん?」


「ああ、状況証拠だけど、その可能性が高いんだ……そして、夏美は俺の幼馴染なんだ」


「そう……」


 俺が首を突っ込んだ犯罪には幼馴染と親友が関わっている可能性が高い。もしこれが可能性から確定に変わったら俺はどうすればいい、今まで通り接すればいいのだろうか? それとも止めればいいのか? 俺は能力なんて持っていない、能力持ちの二人がやられたんだ、逆立ちしても勝てないだろう。


「で、武志の能力はどんな能力なんだ?」


「手をかざしたら斬撃? みたいなのが飛んできて瑠美の首が飛んだよ」


「恐ろしい能力だな、その能力で柏木さんもやられたのか?」


「私は違う、多分消滅の能力で死んだと思う、後ろから足音が聞こえてきて、振り向く間もなく死んじゃった」


「そっか」


「これから、どうする? 容疑者は分かったんでしょう?」


 そう、容疑者は分かった、だが、能力差が大きすぎる。こちらの陣営で戦えるのは田中さんの能力くらいで、相手に能力が無くても武志相手だと厳しい。死んでもタイムリープできるっていう規格外の能力もあるけど、死ぬ前提じゃ意味がない。残る手は説得しかないだろう。


「力じゃこっちに勝ち目は無い。説得するしかないと思う」


「説得できるの?」


「やってみないことには分からない。説得するにしても二人同時は無理だ、一人に絞らないと」


「最初は岩井さんに絞った方が良いと思う。中田君は強すぎる」


「田中さんにも連絡して近いうちに決行しよう」


「そうだね」


「そういや学校……」


「あっ」


 話し込んでしまったせいで時刻は八時半を過ぎていた。

「遅刻だね……」


「そうだね」


「あとごめん、着替えるから先行ってて」


「私も、学校の用意家に置いてきちゃった……タイムリープしてそのまま来ちゃったから」


「まぁ、とりあえず準備しようか」


「うん、じゃあまた後で」


 どれだけ急いでも遅刻が確定したので、ゆっくり準備する。準備しながら考えをまとめる。柏木さんと田中さんが生きてたのは素直にうれしいが、柏木さんが家にいきなり来たのはびっくりした。俺の中で柏木さんとの付き合いは一週間とちょっとくらいだが、家に押しかけてくるようなキャラには見えなかった。もっとこう、クールというか、でもタイムリープ前にいろいろあったんだろう、俺にはその記憶は無いが、タイムリープするたび、過ごした時間が無かったことになるのはつらいだろう。


 柏木さんの様子を見るに、過去の俺は柏木さんに信用されていたのが分かる。タイムリープして真っ先に俺のところに来てくれた、そして、重要な情報を教えてくれた。ならばその信用に応えなければならない。しっかりと策を練ろう、二人と違って俺には超能力が無いのだから、使えるものは全部使い、この命も懸けよう。俺は覚悟を決めたのだった。


 一時間以上の大遅刻をかまして、教室に入る。授業中だったため、クラス全員が一斉にこっちを見て少し恥ずかしかったが、気にしない。席に座り、教科書を出して先生の話を聞く。どうやら柏木さんはまだ登校してきてはいないようだ。


隣を見ると、武志が真面目に授業を受けている。こいつが田中さんの首を吹っ飛ばした。いまだに信じ切ることが出来ない、柏木さんを疑うわけではないが、武志が人を殺すなど考えられない。親友と戦友どちらを信じたらいいのか分からなくなってしまった。


 昼休みになり、お昼ご飯をいつものように武志と食べる。


「敦、今日は寝坊か?」


「体がだるくて起きれなかった」


「また本の読みすぎじゃないだろうな?」


「バレた?」


 一応誤魔化しておく。嘘をつくのに少し罪悪感があるけど、本当の事は言えない。


「ほどほどにしておけよ」


「そうします」


「話は変わるけど、最近失踪者が増えてるって話知ってるか?」


 おっと、この話が来たか、そういえばタイムリープ前の月曜日はこんな話したっけか。


「物騒な話だな、誰が失踪したんだ?」


「俺が知ってるのは女子中学生二人とおばあさんが一人消えたって話だ」


「ふーん、ニュースとかになってんの?」


「いや、なってない、別のクラスの女子に聞いた。ただのうわさ話だ」


「噂ならいいけど本当に失踪してたら怖いな」


 三田さんと柏木さんが死ぬのは来週の火曜日か、この時点で夏美と武志はつながっているのだろうか、別のクラスの女子が夏美の可能性はあるが、武志は俺と違ってめちゃくちゃモテる。夏美以外の可能性もあるだろう。夏美の名前を出して揺さぶってみるか。


「別のクラスの女子と言えば、幼馴染の夏美ってやつがいるんだけど、夏美に聞いたのか?」


 武志は眉がピクっと動いた。反応はあったが、聞き方がストレート過ぎた。怪しむような視線を武志に向けられている。


「あの女は苦手だ」


「武志にも苦手なものなんてあるんだな」


「お前は俺をなんだと思っているんだ」


「しかし、夏美と接点あったなんて知らなかったよ」


 これで、武志と夏美がこの時点でつながっている可能性が高くなった。


「いろいろあったんだよ」


「付き合ってたとかそんな感じ?」


「そんなわけないだろう、というか、お前今日はいつもよりおしゃべりだな」


「たまにはそんな日もあるさ」


「ふん」


これ以上詮索するのはやめておこう、結構怪しまれてるしな。いろいろ情報は手に入った。今日はこの辺で良いだろう。


放課後になり武志は陸上部の練習に行ってしまった。確か先週はここから、夏美と書店に行くイベントがあったな。もうひと頑張りしようと気合を入れて夏美が来るの待った。

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