第9話 対峙

 作戦決行から二日が経った。土、日と連続失踪事件の犯人に動きは無かった。前回も金土日は失踪者が出なかったので、これは予想通りだった。作戦というのは夜に町のパトロールをするというだけの事。もし俺が失踪したら、柏木さんに俺をタイムリープさせてくれと伝えてある。


 柏木さんにリスクはどうとか言っておきながら、自分は命を懸ける。しかも柏木さんにも死んでもらわないといけない。もはや、作戦とも呼べない特攻じみたものだ。俺の頭ではこれ以上良い案が思いつかなかったのだ。


 土日の夜はずっとパトロールしていたが怪しい人物は見つけることが出来なかった。強いて言うなら周りから見れば俺が一番怪しい。


 二人とはメッセージアプリで定期的に連絡を取っている。〇時、八時、十六時の八時間毎に生存確認の定期連絡を送ることになっている。一時間以上定時連絡が無ければ失踪したものとして扱うことも決まった。


 今日は月曜日で学校がある、準備をして家を出る。そして朝八時を回ったのでスマホを取り出し、「生きてます」とだけグループにメッセージを送り、スマホをポケットにしまった。


 前回もそうだったが、この金土日、犯人は何かしらの予定があり、犯行を中断している。俺がタイムリープするまでの二週間で一週目の金土日だけ犯行が無いのだ。それ以外は必ず一日一人消えている。そして今日から犯行が再開するだろう。俺は寝不足の目をこすり、憂鬱な気持ちのまま学校に登校した。


 今日の授業は全く覚えていない。朝までパトロールしていたので、眠気が限界に達し、授業中はずっと眠っていた。武志に心配されたが、本の読みすぎで寝不足だと言って誤魔化した。


 家に帰り、少し眠る。目が覚めたのは二十時を回った後だった。財布とスマホをズボンのポケットに入れ、家を出る。二十時台はまだ人通りは多い。路地裏を中心に探すことにした。


 この作戦の肝は犯人を見つけて情報を持ち帰ることにある、何とかして犯人を見つけなければならない。しかし、手掛かり一つ見つけることが出来ていない。時間は〇時を回っていた。定期連絡を送り、公園のベンチに座り休憩する。


「わっ!」

「うわぁっ!」


 いきなり後ろから脅かされた。後ろを振り向くと夏美が立っていた。


「夏美!?」


「びっくりした?」


「びっくりしたよ、心臓が止まるかと思った……」


「ドッキリ大成功!」


「ところで、夏美はこんな時間に何してるんだ?」


「何って散歩だけど」


「失踪事件の事もあるし、一人で居たら危ないぞ」


「それは敦も一緒じゃん」


 確かに、言いくるめられてしまった。


「で、敦は何でここに?」


「眠れなくて散歩してた。散歩も疲れたからここで休憩中」


「ふーん。あっ、そういや本読み終わったよ」


 そういえば、今日の夕方に夏美から本読み終わったってメッセージが来てたな。多少のネタバレ付きで前回と同じだ。


「どうだった?」


「始めて字だけの本を読んだね。難しかったけど面白かったよ。こう、謎を最後の最後まで引っ張って、犯人が分かった時にはすっきりした」


「それは良かった。でも読むのに結構かかったね」


「誰もが敦みたいに早く読めるわけじゃないよ」


「それもそうだ」


「金曜日の夜から読み始めたけど、集中して読んでも三日もかかっちゃった」


 ん? 金曜日から三日……? いや、まさかな……


「だから、三日間人を消せなかったよ」


 背中に寒気が走る。恐る恐る夏美の顔を覗く。


 夏美はいつもの笑顔と変わらなかった。


「夏美……お前……」


 俺は夏美が犯人の可能性など一切考えていなかった。そう、そうだ、柏木さんが消える前日、喫茶店に夏美は居たか? クソッ、思い出せねぇ。そんなことはどうでもいい、犯人が分かったんだ、すぐに連絡をしなければ!


 そう思い、ポケットからスマホを取り出す。取り出した瞬間スマホが消える。


「ダメだよ敦」


 これは超能力……紛れもない、消滅させる能力。


「超能力……か」


「正解。敦も能力者なの?」


「さぁな、当ててみろよ」


 強気で答えるが、恐怖で足がすくんでいる。冷や汗も止まらない、強がりもいいところだ。


「うーん、敦じゃなくて、柏木さんか田中さんが能力者じゃないかなぁ」


 !? 


「なぜそう思う」


「なぜって? 女の子の友達が私しかいなかったのに、急に二人も友達ができるなんて怪しいじゃない?」


 しまった、月曜日のあれが夏美の耳に入っていたのか。


「図星?」


 悔しいが図星だ。


「なぁ夏美」


「なぁに?」


「お前の能力で消されるとどこに行くんだ?」


「私にも分からないけど、この世じゃないどこかに行くでしょうね」


 まぁ、死ぬって事だな。


「敦、私と手を組まない?」


「殺人犯と何を組むって?」


「まぁ聞いて。手を組むって言っても一緒に人を消しましょうって話じゃないの。何ならもう誰も消さない。その代わり、敦が私のものになって」


 は? こいつは何を言っているんだ……でも、悪い話ではない、要するに捕まえるのを止めて、夏美のいいなりになれば、これ以上の被害者が出なくて済むわけだ。


「言いなりになれば誰も消さないんだな?」


「言いなりとはまた違うけどそんな感じね」


「柏木さんと田中さんもか?」


「あぁ、その二人が居たね、その二人はダメかな」


「何でだよ」


「私と敦の世界にあの二人は要らないと思わない?」


 コイツ……完全に狂ってる。俺の知ってる夏美と違う。


「あの二人の無事を保証しないと言いなりにはならない」


「そう、仕方ないね。敦、私の能力で一つにしてあげる」


 その瞬間俺はダッシュで逃げた。脇目も降らず一心不乱に逃げた。しかし、数秒後、俺の視界は真っ白に染まり、意識はそこで途絶えた。


「敦は私のものになってくれないのね」


「あいつはそういうやつだ」


 また、月曜日がやってくる。

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