第7話 救える命
今日の授業も終わり、放課後になる。教室を出て廊下で二人に話しかける。
「柏木さん田中さん、連絡先だけ交換してくれない?」
「良いよ~」
二人から了承を貰い、連絡先を交換する。すぐに三人のグループを作り、俺はメッセージを送った。
「外では誰が聞いているか分からない。重要なことはメッセージアプリでやり取りしよう」
「了解」
「はーい」
「それじゃあまた連絡する」
二人にメッセージを送り終わると、夏美に話しかけられた。
「敦~」
「夏美か、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、最近あんまり話してくれないからこっちから話しかけに来たんだよ!」
ああ、そうだ思い出した。この日は夏美と二人で書店に行ったんだっけか。はたして、今回も同じように過ごしてよいものか……
「ごめんごめん、そういや、今から書店に行くけど来る?」
「行く!」
本当はいろいろ考え事をしたかったが、夏美は俺が学校を休んだ時お見舞いに来てくれたし、お礼をしておかないとな。俺がタイムリープしちゃったから向こうは全く知らないだろうけど。
校門を出て、書店に向かう。
「敦、今日はどんな本を買うの?」
あー、そういや前回はミステリー小説を買ったんだっけか。でも内容知ってるしな……
「まだ何も決めてないよ」
「あれだね、書店を歩いてビビっと来た本を買うやつだね」
「それそれ、夏美は本買うの?」
「うーん、ファッション雑誌は見たいかな。あと敦のおすすめがあったら買うよ」
「おすすめかぁ、夏美が読んでも面白い小説……」
「まぁ難しすぎないやつがいいかな」
「児童書……?」
頭に強い衝撃が走る。夏美に思いっきり頭をシバかれていた。
「ごめん、冗談。」
頭を押さえながら涙目で謝る。
「おう、次言ったら殺す」
夏美は普段はほんわかしているが、キレると本当に怖い。すぐ手が出るタイプのギャルである。
「いてて、なんか好きなジャンルとかはあるの?」
「わからないからお任せするよ」
「了解、探してみる」
書店に到着し、本を探す。夏美の本はすぐに決まった。そういえば同じミステリー小説にしよう。確か面白かったって言ってしな。俺はレジで会計を済ませてファッション雑誌を読んでいるであろう夏美の元へ向かう。
「夏美」
「あっ、本決めてくれた?」
「おう、決まったぞ」
俺は本の入った紙袋を夏美に渡した。
「いくらだった?」
夏美はカバンの中の財布に手を伸ばす。
「いいよ、俺からのプレゼントだ」
「えっ、いいの?」
「いいよ」
「わぁありがとう!」
夏美は嬉しそうにしながら紙袋をカバンにしまう。
「感想教えてくれよ」
「うん! 集中して読みたいから、金曜日の夜から読むよ!」
「今日この後どうする?」
「駅前のマグドいこ」
「いいよ、行こうか」
俺たちは駅前のハンバーガショップに向かう。たしか前回はそのまま帰ってミステリー小説を読んだんだっけか。前と違うことをすれば被害者は減るのだろうか、それとも増えるかもしれない。もう、柏木さんが消えた時のような、あんな思いをするのはもう嫌だ。絶対に犯人を止めてやる。
「敦?」
心の中で決意表明をしていたら夏美が心配そうに話しかけてくる。
「ごめん、考え事してた」
「そう?まぁいいけど、何セットにするの?」
「うーん、トリプルチーズバーガーにしようかな」
「わかった、敦は先に席に座ってて、本買ってもらったしここは私のおごりで!」
「じゃあお言葉に甘えて」
俺は店の二階の空いている席に座る。スマホを確認すると通知が来ていた。
「瑠美、新田君、近いうちにどこかで直接話がしたい。空いてる日があれば教えて」
「了解、私は土日ならいつでも!」
柏木さんがどこかで集まろうと提案している。それには賛成だがなるべく人の目が無いところがいい、前回は喫茶店に集まった直後に田中さんが失踪して、すぐに柏木さんも失踪した。同じ轍を踏んではならない。
「土日なら俺も大丈夫、ただ場所はどうする? 誰が聞いているか分からないから喫茶店とか人がいる場所は避けたい」
メッセージを送るとスマホをポケットにしまった。スマホですら誰に見られるのか分からないのだ。用心はするに越したことはない。
それにしても犯人はなぜ人を消すのだろうか、動機が分からない。何人も消して殺している犯人はどんな人なのだろう。考えながら辺りを見回す。家族連れ、サラリーマン、学生、おじいさん。いろんな人がこの店に居た。あの人が犯人なんだろうか? いや、この人が犯人の可能性もある。どうしても疑心暗鬼になってしまう。
人を疑うというのはなんてしんどい行為なんだ。
「敦お待たせ~」
夏美がトレイを持って上がってきた。
「ありがとう」
「いやー結構レジ混んでて、時間かかっちゃった」
「急いでないから大丈夫だよ」
「いただきまーす」
夏美はニコニコしながらハンバーガーをかじっている。
「はふひははへはいほ?」
「飲み込んでから喋ってくれ、行儀が悪いぞ」
夏美は慌てて飲み込んだのか喉にハンバーガーを詰まらせ苦しんでいる。
「ほら、飲み物」
夏美は飲み物を受け取りすごい勢いで飲んだ。
「死ぬかと思った……」
俺たちは食事を済ませ店を出る。日が沈みかけていて辺りは暗い。
「家まで送って行こうか?」
「なんか今日敦やさしいね」
「もう暗いし、最近失踪する人が増えてるらしいから」
「ふーん、でも今日はいいかな」
「そうか、気をつけてな」
「敦も一人の時は気を付けるんだよ」
「うーい」
俺たちは別れ、家に帰る。スマホを見ると通知が来ている。
「今週土曜日十三時私の家に集合で、新田君には後で住所送ります」
「了解であります!」
俺はグループチャットに了解とだけ返信した。シャワーを浴びてさっぱりしたら考察タイムだ。今日は色々あった。
ベッドに寝転びながら考える。犯人は誰なのか、動機は何か、柏木さんはなぜ俺をタイムリープさせたのか。もし俺が失踪したらどうなるんだろうか、分からないことが多い。考えても分からない。
そういえば、連続失踪事件がネットニュースになっていたのも今日だったな。ネットニュースのアプリを開くと、やはりニュースになっていた。今日までで最低六人の被害者が出ている。そして、今日から木曜日まで一人ずつ消える。木曜日の被害者は三田さんだ。何とか三田さんを救えないだろうか? 俺が動くことで歴史が変わるかもしれない、それなら俺はいい方に変えたい。
考えても答えは出なかった。もし三田さんに正直に打ち明けても信じてもらえる保証が無い。田中さんの氷の能力を見せて信じてもらったとして、三田さんが犯人の可能性もゼロじゃない。それでも、一人にさせなければいい。武志に全てを話して護衛を頼むか? ダメだ、今は一人ずつ消しているが、まとめて数人消せる可能性もある。
このまま同じように時が過ぎるのを待つのか? 救えるかもしれない命があるのに? もし三田さんを救っても別の人が消されるかもしれない。それで武志や夏美が消えたら? 次またタイムリープできる保証はない。身近な人が消えなければいい。そんな自己中心的な考えが頭の中に浮かぶ。元々失踪した人たちなんだ、仕方ない、仕方ない、そんな考えが支配する。田中さんや柏木さんは救おうとしているのに、俺は矛盾だらけだった。
「くそっ」
近くにあったクッションを殴りつける。
矛盾を抱えているが、自分が守れる人間は確実に守ろう。そう決意し、その日は眠りについた。
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