第4話 超能力

 柏木さんと喫茶店で話し合った次の日の月曜日、悪夢を見ながら目を覚ます。起きて顔を洗い、歯を磨いてから朝ごはんを食べる。いつものルーティンだ。最近はそれにネットニュースを確認するのも追加された。


 今日も行方不明者は無し。木曜日に消えた、クラスメイトの三田さんが消えてから、三日間新たな行方不明者が発生していなかった。行方不明者が発生しなくなったのは良い事だが、今まで毎日のように消えていたのに、急に止まるのは不気味であった。まだ発覚していない可能性もあるが……


 いつも通りに学校に向かうが、今日は変わったことはない。授業を受け、武志とお昼を食べ、家に帰る。日曜日喫茶店で超能力の話をした、クラスメイトの柏木さんとは一言も話さなかった。超能力については、半信半疑だが、来週の日曜日に、超能力者の柏木さんの知り合いに話を聞くのは、少し楽しみだった。超能力が本当であれば、捜査が大きく進むだろう。


 一度家に帰り着替えて、書店に向かう。事件が起こらないのであれば、捜査のしようもないので、起こるまで、いつも通り本を読んで待つだけだ。好きな作家の新作の発売日でもあったので、新作が買えて気分がいい。せめて読み終わるまでは事件は起こらないでほしい。


 家に帰り、ご飯と風呂を済ませる。済んだら読書タイムである。新作の本を開き、読み始めるが、ケータイが鳴る。チャットアプリを入れてはいるが、親と武志と夏美しか登録されてる人はいないので、珍しいななんて思いながら、アプリを開く。メッセージは夏美からだった。


「ミステリー読んだよん♪ まさか犯人が妹だとは……」


 読んだのはいいが、もし俺が読み終わってなければ、盛大なネタバレである。俺が読み終わってない可能性も考えろ、とだけ返信して、小説の世界に入る。その日はキリのいいところまで読んで眠った。


 朝起きて、いつものルーティンをこなす。ネットニュースを確認する。見出しに、「四方木町で行方不明者、連続失踪事件か」と書いてある記事をクリックする。昨日の夜から連絡がつかない失踪者が出たらしい。平和な時間は終わったらしい。


 それから五日毎日のように失踪者が出ている。毎日全国ニュースで報道され、話題になっている。


 今日は日曜日、柏木さんとの約束の日であり、準備をして家を出る。こころなしか外に人が少ないように思う。喫茶店に着くと柏木さんはもう席で待っていた。


「柏木さんお待たせ」


 柏木さんの横には、もう一人居た。その子は俺も知っている人だった。


「新田君遅いよ? こっちは前言ってた超能力が使える知り合い。新田君も知ってるよね?」


「田中でーす。超能力者やってまーす」


 長い髪を後ろで束ね、明るい笑顔を向けてくるのはクラスメイトの田中さんだった。


「知り合いって田中さんだったんだ」


「隠しててごめんね、超能力者って打ち明けてから、少し新田君の様子を見たかったの」


 なるほど、用心深い。


 コーヒーを注文して、話を切り出す。


「さっそくで悪いけど能力を見せてほしい」


「いいよ。私の能力は、物を凍らせることができるよ」


 そういって田中さんは、湯気が立っているコーヒーカップに手を触れた。次の瞬間、コーヒーカップごとコーヒーが凍った。


「ほい、こんな感じ」


 コーヒーカップを確認するが、カチコチに凍っている。


「なるほど、すごいな」


「信じてくれた?」


「ああ、これは本物だ。そして、逆に温めたりは出来ないのか?」


「凍らせるしかできないねぇ。新田君のコーヒーも凍らせてあげようか?」


「いや、それはいい、それで田中さん能力っていつ頃から使えるようになったの?」


「一年くらい前かな。飲み物がぬるくなってて、冷えたらいいなーって思ったらグラスが凍ったね」


「ありがとう」


「ねぇ、新田君。あれから事件のことについて、何かわかった?」


「いや、ほとんど何もわかってない。先週の金曜日から日曜日まで失踪者が出なかった理由を探してるとこ」


「旅行にでも行ってたんじゃない?」


「その可能性もあるね。そういや、失踪者はみんな夜から連絡がつかなくなっていることも分かった。ニュースの記事どれを見ても、夜から連絡がつかないって書かれてる」


「てことは、昼間は仕事をしてるとか?」


「案外、俺らと同じ学生かもな」


 その日は夜まで話し合ったが、超能力が確定したこと以外、あまり捜査が進展しそうな話は無かった。


「柏木さんも田中さんも気を付けて帰ってね」


「新田君もね」


 その日は解散となった。


 家に帰り、情報をまとめる。超能力は実在する。クラスメイトに最低二人も居るわけだ、もしかすると、結構な人数が能力者になっているのかもしれない。そして、おそらくだが、超能力は急に発現するというよりかは、ある日使えることに気づく。柏木さんの死に戻りも、死んで能力が発動したから気づいた。田中さんは、冷えたらいいなと思ったら飲み物が凍った。つまり、超能力は気づいたら使える。ならば、俺も超能力を持っているかもしれない。


 失踪事件の犯人も人を消す能力を持っているんだろう。そして一ヶ月ほど前にそれに気づいた。最初は、弱い人を消して実験していたんだろう。


 もし、俺が人を消せる能力を持っていたとして、人を消すだろうか? 最初の一回は能力に気が付かず、消してしまうかもしれない。だが、消せると分かってて人を消す、というかこの場合は殺すの方が正しいか。犯人の人間性はいろいろ破綻しているのかもしれない。もし、止められるのであれば、止めてあげるのが良いだろう。犯人を殺すことになっても。


 氷の能力者が仲間になったことで、失踪事件の犯人に対する攻撃手段を得たといってもいいだろう。触れることができれば凍らせることができるのだから。能力の限界を聞き忘れてしまったが、コーヒーカップサイズを凍らせることができるのなら、胸に触れれば心臓くらいなら凍らせることができるだろう。これで犯人を追い詰めたとき、一方的にやられることはなくなったと思いたい。遠距離で人間を消せるなら手も足も出せないだろう。だが、一日一人ずつ消している、目撃者がいない点から、一人を狙って、ある程度近づかないといけないと俺は予想している。


 まだ犯人の影も形も分からないが、少しづつ犯人に近づいている。そう確信しながら俺は眠りについた。そして希望は打ち砕かれることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る