第3話 日曜日

 日曜日、俺は退屈だった。読んでいたミステリー小説は読み終わり、新聞を読みなおし、見落としていることが無いか確認作業もした。小説の出来には満足し、失踪事件の謎に頭を抱える。そんな複雑な感情に支配され、気分転換に何かしたいが、やることが無い。


 たまには誰かと遊んでみようかと思い、武志に連絡する。だが、今日は部活らしい。お昼ご飯を済ませたが、あまりにもやることが無い。


 行きつけの純喫茶で事件についてもう一度考えてみよう。事件の記事をカバンに詰めて家を出る。


 喫茶店は日曜日ということもあってか、いつもよりお客さんが多かった。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


「一人です」


「ごめんなさいね、今満席でして……」


 満席なら仕方ない。日曜日の午後に来る方が悪いか……そう思い帰ろうとしたとき、声をかけられた。


「新田くんじゃない。読書しに来たの?」


「あれ、柏木さんか、いや、今日は読書じゃなくて考え事。満席みたいだし、今日は帰ろうかな」


「そうなんだ。良かったら相席する?」


「いいの?」


「いいよ」


 俺は柏木さんの申し出を受け、同じ席に座った。そしてホットコーヒーを注文する。


「柏木さんありがとう、これで落ち着いて考え事ができるよ」


「どういたしまして、それで、考え事って悩み事?」


「ああ、悩み事というより、好奇心かな」


「差し支えなければ教えてほしい」


 あんまり人に話す内容ではないが、隠すほどでもない。柏木さんも無関係というわけでもないから話してしまっても良いだろう。


「連続失踪事件について調べてるんだ」


「へー、私も調べてるよ」


「本当っ!?」


「本当だよ。新田君はどこまで知っているの?」


「どこまでって言うか、新聞に書かれてる記事以上には知らないよ。ただ、この失踪事件はいろいろおかしい点が多い、普通の失踪事件じゃない」


「そうね、この事件は普通の事件じゃないよ」


 この女、何か知っているのか……? 


「詳しいんだな」


「まぁ、いろいろ知ってる」


「?」


「ねぇ、新田君。超能力って信じる?」


 何を言っているんだ? 超能力だと……?


「バカにしているのか?」


「まぁ、そんな反応になるよね。でも、この事件には超能力が関わっているよ」


 うん、多分柏木さんは危ない人だ。あれだ、電波系ってやつだ。


「なぜそう思う?」


「私が超能力者だから」


「どんな能力だ?」


「それは言えない。失踪者みたいに私も消されるかもしれないからね」


「もし、失踪事件の犯人が、超能力で人を消しているとして、俺に超能力者だと打ち明ける理由はなんだ?」


 俺が犯人だったとしたら、超能力の存在を知っている人を真っ先に消すだろう。証拠も無しに人を消せるんだから……いや待て、証拠を残さずに人を消せる。この事件は証拠がない、犯人どころか、死体すら見つかっていないのだ。いや、まさかね。


「新田君賢いでしょ?事件解決に協力してもらおうと思って」


「なんで俺なんだ」


「なんとなくかな」


「超能力で何とか出来ないのか?」


「できない。私の超能力は使い勝手が悪い上に、私が死なないと発動しない」


 死ななきゃ発動しない能力なんて、無能力と変わらないじゃないか。


「なぜ、死ななきゃ発動しない能力だと分かったんだ?」


「それは簡単。死んだから」


 わけがわからない。頭がパンクしそうだった。


「まぁ、私のことは置いておいて、新田君の意見を聞かせてほしい」


「事件についてか?」


「そう、超能力があると仮定して、推理してみて」


 超能力があると仮定してか……犯人の能力も、目的も何も分からない状態で推理なんてできない。だが、考える。


「犯人が超能力持ちなら、今回の事件は単独犯だ」


「なぜ?」


「まず、目撃者がいない。複数人で行動すれば、何かしらの噂は出回るはず」


「それで?」


「あとは、愉快犯くらいしか分からん」


「あら残念」


 柏木さんは、俺に失望したような顔を向けてくる。


「まぁ、能力を手にしたのは最近じゃないか?」


「おっ、詳しく」


「事件の最初の方の被害者が、女子中学生やおばあさん。女性に集中している。能力を試すために弱いものを狙ったと思う」


「すごいね、そこまで調べてるんだ」


「俺が分かるのはここまでだ。今度は柏木さんが話してくれ」


「私?私は、犯人が超能力者ってことしか分からないよ。能力を手にしたのは最近ってのも分からなかった」


「事件が最近に起きてるから、最近手に入れたって予想もできる、そして、柏木さんの能力だ、いつ手に入れたんだ?」


「わからない。ちょっと前に死んだんだけど、気が付いたら時が戻ってた」


「タイムリープ系の能力か。死んで発動するタイプなら、あまり使いたくは無いな。なんで死んだんだ?」


「本読みながら歩いてたら、トラックに轢かれた」


「うわぁ……」


「新田君も気を付けなよ?」


「さすがに歩きながらは読まないよ……」


 柏木さんは少し、恥ずかしそうな顔をしながら、それをごまかすようにコーヒーを飲む。


「そういや、新田君はどうして事件を追ってるの?」


「ただの好奇心だよ。柏木さんは?」


「同じ能力者として止めないといけないと思っただけだよ」


「これが能力絡みだと思う理由は?」


「知り合いにも能力者がいてね、完璧すぎるから能力者の仕業だって結論が出た」


「他にも能力者がいるのか」


「いるよ、案外身近にいっぱいいるかもね」


「その人にも会ってみたい。ダメかな?」


「来週の日曜日なら空いてると思うからまた連絡する」


「分かった。能力のことはまだ完全に信用してないけど、その人が能力を使えるなら、信用して協力する」


「じゃあ、また明日」


 そう言って、机にお金を置いて、柏木さんは店を出て行った。


 超能力、突拍子もない話だ。だが、信じるか信じないかは置いておいて、捜査する仲間が増えるのはいいことだ。一人で調べるにも、思考が煮詰まっていけない。


 最近、人が死ぬ夢ばかり見るのも、能力の仕業なのかもな。そんなバカな考えばかり浮かんで日曜日は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る