第7話

 ピピピピピピピっ。

 あーうるせー。目覚ましが鳴っている。

「ふわぁあああ」

 目を覚まして目覚ましと止めようとすると、

「ふぇっ?」

 八時、だと? あれ、いっつもおれ、七時半くらいに家出てるよね。

「ああああああっ!」

 遅刻だ。遅刻。 目覚ましが壊れていたのか、目覚ましは悪くなくておれが寝続けていただけなのか。やべー。今日の一限の古文といえば、小うるさいことで有名な有吉。最悪だ。

 朝食も食べずに学校に急ぐ。

 道中はもちろん猛ダッシュ。

 教室の前で、キキーっと急ブレーキ。

「あっぶねー」

 もう時間だけど、まだ有吉は来ていない。

「うわー、ギリギリセーフ。どうせなら遅刻しろよ」

 山崎が通り際に、足を引っかけてきたので、むしろ蹴りあげて、

「しねーよ」

 そのまま自分の席に向かった。

 まもなく有吉がやってきた。

 有吉って中学の教頭に似ているんだよな。顔とか小うるさいとことか。有吉は、眼鏡をななめにかけながら、出席を取っていった。

「北野」

 柚子の名前が呼ばれた。

「はい」

 そういや、あいつの昨日は川島とデートか。さぞかし、ウキウキなご様子なんだろうなと思って見てみれば

「ん?」

 柚子はなぜか浮かない顔をしていた。

 うわー、あちゃ、デート失敗パターン?

 ま、でも、誘われただけ、良かったんだろう。前まで浮気すら疑っていたくらいだからな。


 そして、その日の学校帰り。

 今日はサスカでサッカーの練習があった。珍しく今週は二回目の練習だ。おれとしては、ゲーセンカラオケよりサッカーのほうがいいので、というかサッカーがしたくて入ったので、素直にうれしい。

「ふわああ、ねむ」

 練習後っていっつもねむいんだよな。帰ったらすぐ寝よ。

 サスカの練習は、十九時まである。結構長丁場だ。

 池袋についたころには十九時半を回っていた。

 山手線の改札を出て、東上線への改札を目指す。

「うげ……」

 この時間はちょうどラッシュアワー。池袋の地下構内には、大量のサラリーマンが行き交っていた。冬だというのに、人の熱気で結構あったかい。そういや、あいつ風邪引いたならおれもやばいかもな。一緒のカラオケにいたし。そんなことを考えて歩いてた。


「えっ────」

 あれ。

 おれは、ふと、足を止めた。ちょうど後ろを歩いていた姉ちゃんがおれにぶつかって舌打ちをかましてくる。それでも、おれは、その場に立ちすくんだ。

「……あれって」

 池袋東口から流れてくる人込みの中におれは、見知った顔を発見した。

 そいつは、人の波に乗って、おれのほうへと近づいてくる。

 背の高い男。金髪にピアス。一瞬、目を疑った。

 でも、やっぱり、あそこにいるのは……。

「……うそ、だろ」

 あれ。まじ?

 あれだけ、張り込んで何にもならなかったのに。

 あっけなく、おれは、見てしまった。

 服は私服だったが、間違いない。池袋の夜に、露出の多い着た女を連れまわして現れてたのは、柚子の彼氏、川島拓斗だった。

「……まじかよ」

 え、柚子とちょうど昨日デートに行ったはず、だよな?

「もうたっくん、ちかづきすぎー」

 ちょうど声が聞こえるくらいまで、近づいてきた。

「うっせー」

 川島が女の唇をうばった。

 相手の女は柚子の言っていたとおり、黒髪の長髪。

 わ、わ、わ。リアルに遭遇しちまうとは。

 本当だったのだ。川島の浮気は。

 お互いに夢中な二人は、制服を着ているおれに気づきくことなく、通りすぎていく。目が合えば、鉢合わせる至近距離だった。

「もうこんなとこでしないでよぉ」

 女のねっとりとした声。

「行こーぜ」

「うん」

 うわぁ、どうしよ。逡巡。え、おれ、声かけるべきっすよね。カップルクラッシャーとして頼まれてるわけだし。いやぁ、でもなぁ。

「あ……」

 迷っている間に、二人は手をつないで、山の手線へと消えていった。内回り。川島のタワマンがある方面だった。




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