第4話

「じゃあ、拓人先輩の家は英二が見張ってて。柚子ちゃんはクソ女の家を見張って来るから」

 結局、おれは、柚子に協力させられる羽目に。

 学校には行かず、電車で池袋から数駅。柚子はおれをとあるドデカいタワマンの前まで連れてきた。この金持ち感満載の川島は一人暮らしをしているという。医者の息子ってすげーな。

「目撃現場はこことは違うのか?」

「うん、紫苑ちゃんが目的したのはここからもう二つ向こう駅にあるクソ女の家」

 とにかくそのクソ女さんの家から夜中に二人で出てきちゃったわけか。まあ、気になるわな。てか、クソ女って。学校でもその口調で話してみてほしいな。今までの『北野柚子』の像から書き離れて、全員ドン引きするだろう。 

「クソ女の家の住所は目撃した紫苑ちゃんから聞いたから」

 こえー。

 柚子はまだその相手の顔を見ていないというが、佐藤いわく相手の女子は川島と同じ三年で黒髪の長髪らしい。佐藤はそれらしき人物を学校でも見たことがあるみたいだ。

「おまえ、ここ泊まったことあるのか? 川島ん家」

 そう聞くと、柚子は顔を真っ赤にして、めちゃめちゃ動揺した。

「は、はああ? そんなこと聞いちゃう? ないです。まだ付き合って半年だし」

 ほお。左様ですか。あれ、おれ、今、爆弾発言しちゃった?

「なんつーか、生々しいな。朝っぱらからマンションから出てくる女を見張るなんて」

「つべこべ言わないでちゃんと見張ってて」

「へいへい」

 

 柚子と別れて二十分が立った。柚子は駅に戻って電車に乗り、クソ女さんの家に行ったらしい。おれは茂みに隠れて、ご命令通り川島のタワマンを監視していた。

「なにやってんだ、おれ」

 冷静に考えれば、マジでなにやってんの、おれ。なんで野郎の家なんか。もう学校行って良いすか。さみーし。十月末。当然、風は冷たくなってきているし、気温も低い。

「出てこねーな」

 学校の始業時間を考えると、そろそろ川島が出てきてもおかしくないのに。やつ、成績はいいけど、チャラ男だしおれと同じ遅刻魔なのかな。学校なめくさってそうだし。

 柚子に電話をしてみる。

「サラリーマンにおばちゃんしか出てこねーぞ」

「こっちは今着いたよー。ここがあの女のハウスね」

 柚子はようやく女の家にたどりついたみたいだ。

「うわー、むかつく。めっちゃ新築じゃん」

 新築でむかついているやつ、おまえくらいだよ。

「あっ──」

 柚子がなにか見つけたみたいだ。

「ちょうど出てきた。うわー、あの女か不倫相手」

「川島と?」

「ううん、一人」

 そりゃ、残念。あれ、残念? じゃあ、浮気しているとこ見つけたらいえーい?

「知ってるやつ?」

「ん。ミスコンとか出てる有名な人」

 ミスコンか。さぞかし、美人さんなんだろう。

「んじゃあ、おれもう学校行くからな」

「うん。いいよー」

 電話を切っておれも学校に行こうと、立ち上がった。

「おっ」

 ちょうど川島がタワマンから出てきた。あわててまた茂みに隠れる。わー、今日もすかしてんなぁ。あいつ、鞄をもってねぇもん。学校をなめ腐っている軽装備。ちょっとかっこいいぜ。

 川島を見送ったおれは時間をずらして、茂みを発った。


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