10話

 夏も少しずつではあるが鳴りを顰めていく9月の中頃、買い物ついでに外に出ているとコンビニの横に目を引くポスターがある。


『シーズン最後の花火大会!』


 そのように書かれた花火の絵を背景にしたポスター。


 別に初めて見たわけではないが、そういえばあと1週間ほどで開催されるまで日が経ってしまったな。


 誰かに誘われていたと思うが、その後にそんな話が出ていないから流れてしまったか。うーん…あの3人の誰かから誘われていた気がする。


 ならあの3人を誘ってみるか。俺よりも遥かに友人が多い彼女達のことだから、すでに予定が入っていてもおかしくはないが、まぁその時はしょうがない。


「行けるなら、この世界で祭りみたいなものは初めてか…。」


 人が多い場所に行くと周りからの視線も多くなるのと、身体的にまだ成長していない頃は自分よりも高い身長も相まって大人は少し怖く見えた。母からも一応は言われていたし、それでなるべく人混みを避けていた。


 あとはこの世界の常識を図りかねていたこともある。この世界の男性はどのように生きているのか、今じゃあまり気にしてはいないが最初は分からず苦労したことが思い出される。


「…ま、とりあえずあの3人を誘ってみるか。」


 出来るのなら、断られないと良いなぁ。そう思いながら3人にメッセージを送った。


———————————————————


 そうして迎えた夏祭り当日。誘った後すぐに全員が了承の返事をくれた。本当に断られなくて良かった。また一つ楽しい思い出が出来そうだ。


 河川敷近くの通りが会場であり、その近くの待ち合わせ場所にいると、どうやら3人とも来たらしい。向こうから歩いてくるのが見える。



「みんなも城間くんに誘われてたの…?」


「そういうお前らもか…。」


「私もてっきり怜くんと2人だけかと…。」



 あ、あれ?言ってなかったけ?


「すまん、言ってなかったかも…この際3人のメッセージグループつくろう。」


 3人がため息をつく。まじでごめん…。メッセージグループが今までなかった方がおかしい。ちゃんと作っておこう。

 そんなの関係なく今回は俺が悪いか…。


「で、でも3人ともすごい浴衣似合ってるよ。」


 佐久間、大嶺、彼方。それぞれがタイプの違う浴衣を着ているがかなり似合っている。

 俺は祭りっぽい服装ではなく、普通の格好で来てしまったので一緒いると浮きそうである。


「そ、そうかな。」


「おう、佐久間も他の2人もな。」


 自分で着付けたのだろうか。


「まぁそう言ってくれるなら今回のことは許してやるよ。」


「次からはちゃんと言ってくれたまえ。」


 はい、すみません…。




 会場の通りには屋台も多く出ており、花火の時間までそれらを見てまわる。前の世界ぶりのちゃんとした祭りへの参加。年甲斐もなくワクワクするな。


「随分と楽しそうだな。」


「え?そう見えるか?」


 大嶺に指摘されたが、そんなにわかりやすく顔や態度に出ているだろうか。


 前にはわたあめをもった佐久間と、りんご飴を持った彼方が歩いている。お祭りと想像して浮かぶ光景。そして友人とその時間を楽しむことができる。なんと素晴らしいことであろう。


「そういえば今更だけど、なんで城間くんはなんで大学まできたの?」


「ないわけではないが、私もあまり見たことはないな。大抵は在籍だけして講義に来ないのが普通だろう。」 


「べつにそんな高尚な理由はないぞ。」


 そんなことを佐久間と彼方に聞かれるが、特別な理由はない。今の学部にいる理由も後付けみたいなものだ。


 いや、理由ならあるか。


 心のどこかで前の世界の価値観での普通の生活を求めている。色々な経験をしていけば、いつか自分が求める環境に出会えるかもしれない。それが例え一時的なものであったとしても。


 どこまでいっても、この世界の男は色々な目を向けられる。この世界の基準で言えば格好が良いとは言えない俺でも男というだけで目を引くのだ。


「ふーん。まぁでも怜らしくていいと思うけどな。」


 そんなことを言ってくれる大嶺だが、こんな風に彼女達と過ごす時間が1番落ち着くと感じる。


 気づかないうちに世界の価値観に疲れていく。そんな自分にもう元の世界とは違うのだ、適応しろと言い聞かせていた。


 だからこそ、今のこの当たり前に過ごす時間にこそ幸せを感じる。


「あ、花火始まったみたいだよ!」


「偶然だがとても見やすい場所まで来ていたようだね。」


「おー!すげー綺麗だな。」


 どうやら花火の打ち上げの時間になったようだ。大きな音を立てて打ち上がる花火を見て彼女達が話している。


「今日ここに来れて本当に良かった。」


「どうしたの急に?」


「あぁすまん佐久間、なんでもないよ。」


 シーズン最後の花火大会。それはどこか夏の終わりを感じて寂しく思ってしまう。


 でも、きっと彼女達とは長い付き合いになるだろう。今年の夏は終わってしまうが、来年も同じように過ごすことが出来たらいい。


 そんなことを考えて横を見る。浴衣姿で上を見上げて花火を見る彼女たちがとても綺麗に見えた。

 

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