8話


 8月の下旬、お盆が終わって俺は一人暮らしのマンションに戻った。長く帰省していると気持ち的に帰りにくくなってしまうため、実家である程度の期間を過ごしてすぐに戻ってきたのだ。


 戻ってきてから数日後、受け身がちな俺は今日も今日とて大嶺から一緒行ってほしいところがあるから来て欲しいと誘われて外に出ている。そういえばどこに行くかは聞いてないな。

 

 どこに行こうと構わないが、普通の服で来てしまったので運動をするとなれば少し辛いか。


 そう思い、ふと空を見ると雲一つない晴れ空。まだまだ暑い日が続く8月下旬、今日は湿度は高くなく、カラッとした暑とこの天気で気分は悪くない。



 そんなことを考えながら向かっていたが、少し気が急いだせいか待ち合わせ場所に30分ほど早めに着いてしまった。


 駅の改札近くのコンビニ横が待ち合わせ場所だが、見ると既に大嶺がスマホを見ながら待っていた。それほど今日行く所が楽しみなのだろうか。


 いつものようにTシャツとハーフパンツというラフな格好の大嶺に声を掛ける。


「よう大嶺、随分早いな」 


「あ、怜、おはよ……お前なんて格好してるんだよ!」


 なんて格好とはなんだ。今日は普通にジーンズに薄手のシャツで…あぁなるほど。俺自身は今でもたまに忘れるが、ここは元の世界と違い貞操観念が逆転した世界。薄い服装の男性は目立つか。


 汗をかいて透けたシャツから肌が少し見えてしまっている。今日は暑すぎて肌着すら来ていないのも良くないか。それにこの世界には男性の上半身用の下着があるが、俺は邪魔で着たことがない。何度も着ろと指摘されたことはあるがどうにも慣れずにいる。


 どおりで今日は周りから見られている気がしたのだ。肌着を着ていないのは良くないかもしれないが、それ以外は別に普通の服装だと思う。これでもこの世界では常識から外れているらしい。


「と、とりあえず行くぞ!」


「なんかすまんな…。」


 大嶺には申し訳ない。こんな俺と歩くの恥ずかしいだろう。出来るだけ早めに目的地に着くといいが…。


 そう思い大嶺の後を着いていくのだった。


———————————————————


 結局途中で申し訳なさからチェーンの洋服店に寄らせてもらい羽織れる服を買った。俺が着替えた後の大嶺はなぜか残念そうな顔していたような気もするがどんな感情だったんだ。

 

 その後、適当な会話をしながら歩いていたが、どうやら目的地に着いたらしい。

 

「今日来たかったのはここだ。」


「ここは…猫カフェ?」


 でかでかと看板に書かれた猫カフェという文字。店名がどこにもかかれていないが、もしかして店名自体が猫カフェか?どんなセンスをいるんだよ。


 俺は大嶺の後を着いて恐る恐るといった感じで店に入ったが、店内は特に変なところもなく良い雰囲気がする。


 どうやら猫と戯れることのできる場所と、猫が入ってこれない飲食ができる場所が別れているらしい。


 色々と説明を聞いたが中々良い店のようだ。


 大嶺がコースを選択していたが、どうやら最初は猫との触れ合いをするらしい。

 そうやって連れて行かれた広い部屋には、至る所に猫がいる。


「か、か、かわいい!」


 猫を見た大嶺の顔が蕩けている。こんなテンションの高い大嶺は久しぶりに見た気がする。


「猫が好きだったのか?」


「もちろん!あたしは断然猫派だ!」


 大嶺とは長い付き合いだが初めて知ったな。仲の良い友人だと意外とお互いのパーソナルな部分を聞かずに知らないことが多い時もある。


 他の友人についても俺の知らないことは沢山あるだろうな。


 そんな感慨に浸っていると、大嶺はまるまるとした灰色の毛色の猫を撫でて目を輝かせた。


「見てみろ!このかわいさ!」


 いや、お前の方がかわいいよ。日の光の様に目を輝かせて笑顔でいる大嶺が眩しく見える。もちろん思っても言わないけれど。


———————————————————


 ひとしきり遊び終わった後は飲食スペースに移動した。


「ほんとはこっちがメインだったんだけど…」


 そうなのか?先程まであれほどはしゃいでいたから食事はついでかと思っていてが違ったらしい。


「なにか頼みたい物でもあるのか?」


「いや、まぁ、あるんだけど…」


 なんだ妙に歯切れが悪いな。そう思っていると店員が注文を取りに来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「えっと、あの、これを1つ…。」


 俺の見えない位置でメニューを指を差しながら注文をしている。なにを頼んだんだ?


「かしこまりました!カップル限定特製パンケーキがお一つですね!」


「えぇ!?あ、はい…。」


 恥ずかしそうに大嶺が俯くむが、そうか限定品を食べに来たのか。それもカップル限定という相手が必要なもの。


 相手が必要なら俺はうってつけだろう。なにせホイホイとどこにでも行くフッ軽ぶりを普段から見せている。


 というかこの世界でカップル限定品は需要があるとは思えんぞ。頼める人数がそもそもいなさそうではある。


「ごめん、最初から目的を言ってなくて…。」


「え?俺はなにも気にしてないぞ。」


 こんなことで目くじらを立てるほど狭い男じゃない。安心しろ、自称内面全振りの男だ。顔は目を瞑っておいてくれ。


 大嶺に大丈夫だと何度も伝えていたら早くも頼んだものが届いたがこれは…


「おい大嶺、俺もお前も食は細くない方だがこれ全部食えるか?」


「な、なんかあたしの想像よりも多いぞ。」


 届いたのはホールケーキよりも一回り大きく感じる猫型のパンケーキ。クリームが塗られ、猫の形のチョコやグミ、猫の焼印入りのマシュマロなどが散りばめられている。


 一夫多妻が認められている世界なので、カップル限定と言っても複数人で来て食べることが想定されていたか。


「まぁ食べようぜ、美味しそうだし。」


「そ、そうだな。」


 食べようと促しはするが本当に食べ切れるだろうか。


 

 一時間後、見事に撃沈した俺と大嶺がここにいた。しかし、余った分は2人で分けて持ち帰られせてくれるようだったので助かった。残して無駄にはしたくない。



 まぁ楽しかったし、こんな日があっても良いなと思える日であった。だが大嶺、次出かけるときは行き先を教えてくれると助かる。

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