7話


 地獄のテスト習慣を終えるとやってくるのは夏休み。人生の夏休みとも言われる大学生活。では、そんな大学生の夏休みはどうなってしまうのか。


 1ヶ月半の夏休みはいくらでもできることがある。研究室やゼミ、バイトがあるなら違うかもしれないが、使っても使いきれない時間が与えられる。


 


 夏休みに入るとほぼ同時にお盆期間に突入したこともあり、俺は数ヶ月ぶりに実家に帰ってきていた。母にはたまに電話で近況報告をしていたが、実際に会うことと実家にいるということの安心感は段違いである。


 毎年この時期になると母の妹にあたる叔母さんが家に来る。それほど遠いところには住んでいないが会うことがあるのはお盆や正月くらいだ。


 名前は西方院セイカと言い、どこかの寺院のような苗字をしているが、これは元々の城間という苗字に納得いっていなかったらしく昔に変えたらしい。そう簡単に苗字は変えららないと思うし変えた先の苗字の癖よ。


「怜ちゃん、また身長伸びた?」


 セイカさんが家に入ってきながらそんなことをいう。セイカさんは母よりも気さくという陽気な性格をしている。もはや自由過ぎていろいろなエピソードに事欠かないらしいが、なんとなく怖くてちゃんと話を聞いたことはない。


「あなた、それは怜に会うたびに言ってるわよ。」


 確かにいつも聞かれる気がする。もう挨拶と一緒のようなものだ。実際に伸びてくれていたら嬉しいのだが。



 少し時間が経ち、リビングのテーブルで3人でお昼ご飯を食べている時にセイカさんから言われてしまった。


「高校の時はいなかったらしいけど大学に入って彼女は出来たの?」


 ナチュラルに心をえぐってくる。なんでそんな酷いことを言えるんだ。


「まだいないんですよ。」


 冷静を装いセイカさんにそう言う。『まだ』いないだけだ。未来のことなんて誰にもわからない。

きっと、多分、そのうちいるはず…。


「男の子なんだからいてもおかしくないのに…どうしてかしらね?」


 なんと母まで追い討ちをかける始末である。確かに男性の人数が少ないこの世界では、どちらかと言えば女性が選ばれる側。しかし俺は男なのに確実に選ぶ権利がない。そして選ばれてもこなかった。ちくしょう。


「あらそう。ならうちの店に一回来なさいよ。バイトでかわい子が最近来たの」


「そういえば私も最近あなたの店に行ってないわね。どう怜、行く?」


 セイカさんは自営業で食堂を営んでいる。自由気ままな性格であるセイカさんは、普通の会社員というのがめっぽう合わなかったらしい。それで得意である料理を活かせることを仕事として始めたというわけだ。


 何度か訪れたことがあるが、ふつうに美味しいではなくかなり美味しい料理を出す。今日の昼ご飯もセイカさんが作ったものだ。しかし、母のいう通りに最後にいったのはいつだろうか。



「店には行きたいけど、そんなお見合いみたいなノリで人を紹介されても困るよ。」


 俺ではなく相手が。


「怜ちゃんと合う子だと思うけどなぁ。名前はねぇ…佐久間桜李っていうんだけど。」


……ん?


———————————————————


 2日後、母とセイカさんの店を訪れた。お昼の時間から少し経った頃、外から店の様子が見えるが今は結構空いているようだ。


 扉を開けて店に入ると、


「あ、いらっしゃいま…せぇぇ!?なんで城間くんがいるの!?」


 お察しの通り、そこには俺のよく知る佐久間桜李がいた。喫茶店の店員のような制服が随分と様になっている。ここは食堂だけど。


「あら、ミナトちゃんと怜ちゃんいっらっしゃい! なに?桜李ちゃんは怜ちゃんと知り合い?」


「は、はい。高校からの友人です。」


 仲の良い親族が働く店でバイトしている仲の良い友人…どんな確率でこの事象が起こってるんだ。


「なら桜李ちゃん一緒にご飯食べちゃいなさい。」


「あら、それ良いわね。私も学校での怜のこと聞きたいし。」


 母がいる状態で友人とご飯を食べる…なんか気まずくないか?


 セイカさんに押されてそのまま4人掛けのテーブルに俺と母、そして対面に佐久間がいる形で座った。

 どうやら気まずいと思っているのは俺だけなようで、母と佐久間は結構話に花を咲かせている。


「それにしても怜にこんな可愛い友達がいたなんてねぇ。」


「か、可愛いなんてそんな…。」


「ねぇ、怜もそう思うでしょ?」


 突然の我が母からのキラーパスである。可愛いと言う以外の選択肢がない。本当に可愛いと思うからそれはまぁいい。


「可愛いと思うよ。」


「そ、そうかな…。えへへ。」


 面と向かって人を褒めるというのは結構恥ずかしい。調子に乗っていた時の俺なら言えたかもしれないが、今の俺では『可愛い』ではなく『可愛いと思う』に逃げたのは仕方のないことだ。

まぁなんか佐久間も嬉しそうだし良いだろう。


「これからも怜のことをよろしく頼むわね」


「はい!もちろんです!あ、お母様の連絡先を教えてもらっても…。」


 結局、かなり仲が良くなった様子である母と佐久間は、ご飯を食べ終えても長居しすぎてセイカさんに注意されるまで話を続けるのであった。

 俺は間に時々飛んでくるキラーパスを受け流したせいか疲れたとだけ言っておこう。

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