6話


 ところで、俺には友人と言える人物が少ない。みんな最初は挨拶をしてくれるのだがその後がなかなか続かない。佐久間曰く、


「みんな遠慮してるんだよ、それにどう接したらいいかわからないんじゃない?」


 接し方がわからないとはなんだ。俺は周りにやさしくするようにして接しているが、それでも顔が良くない男とは喋りたくないのか。俺も人間だぞ。普通に接しろ。


 

 そんなくだらなくない話は置いておき、今は夏休み前のテスト勉強中である。平気で1週間毎日のように、そして1日に受講している講義分テストがある。まさに地獄。

 生まれ変わって頭が良くなった、なんてことはない俺はもう必死である。


「城間くん、大丈夫?すごい難しい顔してたけどわからないところある?」


 そう聞いてくるのは佐久間だ。すでに定位置となっている大学のカフェテリアの一席でクォーター制により講義が終了して空いている時間に偶然佐久間と会った。そのまま勉強を一緒にしているというわけだ。


「そんな顔してたか?」


 佐久間はよく俺のことを見ていると思う。俺自身も人の機敏や顔色には聡い方だと自覚しているが、自分がどう思われているのかを気にしてしまうからだ。相手にどう見られているのか、誰も俺のことなど気にしていないかもしれないがこればっかりはしょうがない。


「城間くん、今日泊ちゃんと未来ちゃんと勉強会やるんだけどくる?」


 ふと手を止めてそんなことを言ってくる。なんという興味そそられる誘い。きっと行かなくては後悔する。


「へー行こうかな。どこでやるんだ?」


「それがまだ決まってないんだよね。」


 決まってないか。四人でどこかの店に居座るのは気が引けるし、大学のどこかでやるのが1番だろうか。

 そうだ良いことを思いついた。


「なら俺の家を使って良いぞ。」


 もちろん、俺は純粋に親切心からそう言った。




「お邪魔します。」


 そう言いながら3人が部屋に入ってくる。友人を部屋に招くなどいつぶりだろう。変にどきどきする。


 住んでいる部屋は1LDKで普通の間取りだが部屋は広めに作られている。広い部屋で過ごす一人暮らしのなんと寂しいことか。だから3人も来てくれたのは嬉しい。断られてもおかしくないと思ったが快く来てくれた。そういえば大分食い気味に了承していたような…。


「ここが城間くんの部屋なんだね。」


「なんだ、随分いいとこに住んでんだな。」


 佐久間と大嶺がきょろきょろしながらいうが、とくに変なものは置いていない。多分置いていない。


「怜くん、変なものを隠すなら今のうちだよ?」


 …ないよな?




 3人にお茶を出し、当初の予定通りテーブルを囲んでレポートやテスト勉強を行う。中々に多い科目とテスト範囲に辟易してしまうが、60点のレッドラインを下回ればあるのは再履修。何としてでも避けねば。


 しかし、勉強会という名目でちゃんと勉強だけをひたする人達はどれほどいるだろう。一時間程経過し、休憩と題して時間を取ってから随分と経つが、勉強は再開されない。


「ねぇ未来ちゃん、この服なんかどうかな?」


「うーん。これは中々に人を選びそうだな…。」


 佐久間と彼方喋っているがどうやらスマホで洋服でも見ているようだ。顔をあげて様子を見ると、佐久間のスマホを彼方が横から覗き込んで大嶺も反対側から見ている。

 女3人寄ればなんとやらと言うが、君たちと違って俺はそれほど勉強が出来ないんだぞ。割と真面目に勉強をやるつもりだった俺の純粋な気持ちを返して欲しい。


「城間くんもこの服良いと思わない?」


 佐久間がそう言って見せてきたスマホの画面にあったのはメイド服であった。いやメイド服風の私服か。確かにこれは人を選ぶ。


「まぁいいんじゃないか。」


 どちらにせよここにいる3人は美少女達でなにを着たって似合うだろう。そこら辺のボロ切れを着たって様になるはず。顔がいいとはそういうことだ。


「怜はどういう服を着た人がいいと思う?」


 かなり難しい質問を大嶺がしてくる。服の種類やファッションなんてわからない。それがわかっていれば、もっと青春を味わえたかもしれない。服如きでなにをと言う勿れ、オシャレは成長への第一歩だ。なにかの本に書いていた気がする。


「その人が着たい服を着てるのが1番じゃないか?」


 結局そんな月並みな返答しかできない自分が悔しい。


「その人が着たい服か…。」


 なにか大嶺が呟いているが深い意味はないぞ。回答に困った末の捻り出した言葉を深く考えるな。恥ずかしいだろう。


 結局、その日はその後勉強することなくお開きになった。

 なぜか泊まりたがる3人を帰して時計を見るともう22時になっている。泊まらせることは流石に俺の心臓が持たないと思うので勘弁してもらった。というか泊まりたいとか俺のことを男して認識していないんじゃないか。


 男女の友情が成立するのかは難しい問題だが、きっと彼女達からすればそれほど心置ける人物に俺はなっていたら良いと思う。


…やっぱり泊めてもよかったかな。


 そんな答えの無い問いを繰り返し、明日の講義のために就寝するのであった。

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