閑話
私、彼方未来は男が嫌いと言っていい。それは私の育ってきた環境にある。
母は男と結婚をして私を産んだ。この世界で男と結婚をして子を為す女性は少ない。
男の人数が圧倒的に少ないのだ。恋人を作ることや結婚なんて、女性は出来る人のほうが少ない。
そんな中、母は幸か不幸か私の父となる人物と結婚をした。この男がすべの元凶だ。
父と顔を合わせたことは少ない。一夫多妻の家庭環境が認められているので父も何人かの妻がいる状態だったと思うが、私も母も他の女性を見たことがない。
結論から言ってしまえば、父にとっての母はただの金づるに過ぎなかった。男と言えど生活をするためにはお金が必要だ。補助金などもあるはすだが、それ以上に荒い金使いだったのだろう。
幼い子供ながらに、私は父が顔を見せる時は母にお金をねだるためだと気がついていた。存外、子供とは親のことをよく観察しているものだ。母もわかっていたとは思うが父には強く出れない様子だった。
なぜ母に頼るのかは単純に母の収入が多かったからだと思う。これも子供ながらになんとなく、ある程度裕福な生活ができていたのは母のおかげだと感じていたからだ。
だが、父はそんな母に感謝などしない。お金を受け取れることが当たり前だと思っていた。しかし、最初は父に甘かった母もついに父に切り出した。
どうしたら私のことを見てくれるの?
そんなことをいう母に父は、
はぁ?お前の価値を利用してやってんのに文句があるのか!
何がそんなに怒りの理由になったのか、急に声を荒げて母に手をあげた父を、私は呆然として見ることしかできなかった。
結局、母と父は離婚をした。言い出したのは父だった。
それから後のこと、母は落ち込みしばらくは目に見えて大分弱っていた。父のことも理解できないが、あんな父のことがそれでも好きだったらしい母のことも理解できなかった。
この出来事がきっかけで私は男が嫌いになり、母とは仲は悪くないがどこか苦手意識を一方的に持ってしまうようになった。
月日が流れて大学の入学式の時のこと。席に座っていると突然声をかけられて驚いてしまった。声を掛けられたことにではない、男が隣に来たことにだ。
「彼方さんでいいんだよな。同じコースになった城間怜だ、これからよろしく。」
なぜこんなところ男がいる。
そう思わざる得なかった。なにをされるのかわかったものではない。
「名前なんて座席表を見ればわかるだろう。」
努めて、私は話しかけるなという雰囲気を出した。今までの人生で男がどういうものか理解をしているから。
「そ、そうだよな、悪いな…。」
意識を向けないようにしたために、この時の彼の言葉は私には届かなかった。
これが原因という訳ではなく、もともとあまり体が丈夫ではない私は、式の途中で体調が悪くなってしまった。貧血なのか人の多さに酔ったのか、とにかく座っていられないくらいのめまいと吐き気が少しずつ襲ってきた。
様子のおかしい私に気づいたらしい隣にいた怜くんが、
「おい、大丈夫…じゃなさそうだな。ちょっと待ってろ。」
そう言って人を呼んできてくれたんだと思う。この時の記憶は朦朧としていてあまり覚えてない。ただ、私を支えて別部屋に運んでくれたのは怜くんだったのははっきり覚えている。
気がつくとどこかの部屋のソファに寝かされていた。部屋には会場のスタッフらしき人と母、そして怜くんがいた。
「お、気がついたか。じゃあお大事にな。彼方さんのお母さんも気をつけて。」
そう言って部屋を出ていってしまうとする。助けてくれたのだ。礼を言わないのは人としてどうかという問題だし、そもそも入学式という特別な日の時間を奪ってしまったのだ。
「待ってくれ、助けてくれてありがとう。」
「いいっていいって。無理しないようにな。」
怜くんはそれだけ言って出て行ってしまった。これだけのやりとりだが、なんとなく他の男と彼は違うような気がした。
「母さん、申し訳ない。せっかくの入学式で…」
「いいのよ未来が大丈夫なら。」
確かに少し苦手意識を抱いた母だが、大学まで行かせてもらったことにはちゃんと感謝している。だからこそ、入学式くらいちゃんと見させてあげたかった。
「さっきの男の子、いい子で良かったわ。惚れたりしてない?」
「するわけないだろう!そもそもほとんど意識がなかったんだ。」
つい声を大きくしてしまった。人の本性なんて他人にはわからない。そんな状態で惚れるものか。
「ふふ、そう。何かあったら私がアドバイスしてあげるわ。」
「母さんのアドバイスは信用して良いのか?」
そんな軽口を言って笑う母を見て、父の事はもう割り切っていると初めて気がついた。
そうか、昔のことを意識し過ぎていたのは私だけか。
なにか心のもやが晴れるような気がした。
怜くんには後日改めてお礼を言ったが、明らかに他の男とは違った。やさしくて、軽口も言い合えて、からかいがいのある。私の中でそんな印象が固まってしまった。
彼に恋をしているのかはわからない。私の中にある男の印象というのはそう簡単には変えられないからだ。しかし、怜くんといる時間は不思議と居心地が良く、長く一緒に居たいと感じる。
真面目にレポートに取り組む彼の姿を見てそんなことを思った。
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