閑話
あたし大嶺泊は、これから人生で男子に恋心を抱くことはないと思っていた。
あたしには昔から女の子らしいや女性らしさというのが似合わなかった。可愛い服もアクセサリーも、いっそ清々しいほどまでに合っていなかった。
自分の性格もそうだ。どこかがさつで可愛げながない。男子からすればなおのこと可愛げのない奴に見えただろう。この性格をなおそうと思ったこともあるが人間の本質というのはそう簡単には変えられない。
だからあたしは、誰かと恋人になりたいとか、将来結婚したいとか、そんなことは思わないようにした。実際に付き合ったり結婚したりできる女性がこの世界にいくらいるのだろうか。
そうだ、この考えが方が普通なのだ。ずっとそう思い込むことにした。
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一つの転機となったのは高校の入学の式の日。同じクラスに男子が一人来るというではないか。その時に同じクラスメイトとして城間怜と出会ったのだ。正直、最初は他の男子と比べてパッとしない奴だなと思った。それくらい、印象に残るようなものが無く見えた。
入学式という晴れ舞台の日にも関わらず、あたしは少し機嫌が悪かった。今では理由なんて覚えてない、そんな些細なことで気を悪くしていたんだと思う。
入学式後のクラスで、一人で机に座る怜に話しかけたのは半ば八つ当たりのようなものだ。
他の女子のように、下卑た笑みを浮かべて近づけばこの男子は一体どうするのだろうか。暴言がとんでくるのか、近づくなと手が出るのか。反応を楽しでやろう。
今思えば最低なことだが、ほんとうにただの八つ当たりでしかなかった。
「城間くん…でいいんだっけ?これからよろしく。」
そう言って近づいたあたしに、
「おう、これからよろしく頼むよ」
笑顔で握手のために手を差し伸ばしてきたのだ。その時はしどろもどろになりながら握手をし返すのが精一杯だった。
何だこいつは。そういえば初めて男子に触れたな…。
そう思いながら、クラスメイト達が怜にあいさつをしている様子を横目に見ていた。
これで怜に好意を抱くほど、あたしはちょろくはない。もう一つの転機となったのはそれから3ヶ月ほど後、夏が近づいた気持ちが良いくらい晴れた日だったと覚えている。
「大嶺、一年でインターハイ出るのか?凄いな。いや、凄いなんてもんじゃないよ。」
昼休み、クラスの机で弁当を食べながら200mでインターハイに出ることが決まったことを怜に伝えると自分のことのように喜んでくれた。
入学式の日にあたしが1番初めに話しかけたからか、それとも席が近かったおかげか、この時点で怜とは結構仲が良くなっていたと思う。
「まぁあたしはこんなんだし、運動くらいしか取り柄がないから。」
怜の反応が嬉しくてつい昔から染み付いてしまった感性、自分を卑下することを言ってしまった。
でも、つい口に出してしまうようにこれが本音だった。
「は?こんなんて、かわいくてスポーツもできるとか悪いところ無いだろ。」
まて、怜は今なんて言っていた。
「か、かわいい?あたしがか?」
「やべ、つい調子に乗ってた時の癖が…まぁ大嶺に言ったんだから、お前以外にいないだろ。」
前半はよく聞こえなかったが、照れた風に確かにそう言ってくれた。初めて言われた言葉。他の女子があたし達の方をすごい見ているような気がしたが、そんなことは気にならないほどに頭の中がぐるぐるした。
あたしはちょろくない。別にこれがきっかけで好きになったわけじゃない。好きになったきっかけの沢山あるうちの一つ、ただそれだけの出来事だ。
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