4話
大学生活が始まって3週間ほど、すでに講義は本格的に始まっている。大学が始まってすぐの1回目の講義は、講義の概要説明やオリエンテーションと題した軽い感じで終わるが、それが過ぎてしまえばどの講義も普通の講義形態になる。
金曜日の最後の講義、みんなが少し気の抜けている時間の出来事だった。
「うわっ」
「えっ」
近くにいる佐久間まで何故か声をあげたが、1番びっくりしたの俺だ。なにせ急に後ろから肩を組まれたのだから。
「おう怜、これから少し運動しにいかねーか。」
犯人は高校の時からの同級生、
実際に彼女はずっと陸上競技をしてきており、その強さは全国大会に進出するほどの能力がある。
「おい、なんでいつも抱きついてくる。」
「いいじゃねーか。あたしと怜の仲だろ?」
高校に入学した時に、1番最初に俺に話しかけてくれたのは大嶺だった。入学式後のクラスの中で、気まずく感じながら一人悲しく配布物のプリントを見ていたら挨拶をしてくれた日が懐かしい。
「それでもこれはどうなんだよ。」
「そうだよ泊ちゃん。」
俺に同意してくれる佐久間だが、高校のときに佐久間と大嶺も同じクラスだったこともありこの二人も友人だ。タイプの違う二人だが、昔から二人の仲はかなり良い。
しかし、美少女と言える大嶺に何度も抱きつかれるようなことをされるのは心臓に悪い。いや、この場合は逆に心臓に良いんじゃないか?
そもそも男子として意識されていないから距離が近いのかもしれない。俺の何が悪いっていうだ…顔か。
「で、運動ってなんだ?部活に入ったのか?」
「ちげーよ。今からバッティングセンターに行こうぜ。ほら行くぞ。」
なるほど、体を動かしたい時の手軽な手段の一つだ、なんて思う間もなく手をかれながら講義室の入り口に連れて行かれる。
「あ、佐久間またな、バイト頑張れよ!」
「え、あ、うん!またね!泊ちゃんも!」
「おう、じゃあな。」
そういえば佐久間はバイトを始めたと言っていた。大学の生活が始まってすぐにとは随分と偉い。今日もバイトがあると言っていたので、佐久間に別れの挨拶をしながら、俺はそのまま大嶺に引きづられるように講義室を出た。
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「おらぁ!」
声を出しながらスイングをして150キロの球を的確に打つ大嶺は、確かにスポーツに対する才を感じさせる。その細身の体のどこからそんな力が出てるのか。
俺はせいぜい100キロが気持ちよく打てる限界だ。野球を経験してきたわけではないのだから。
「へぇ、意外と打ててるじゃん。」
打ち終わって大嶺と同時に打席から戻ると、そう言いながらまた肩を組んでくる。
確かに今日は少し暖かいが、まだ春先にも関わらずTシャツとハーフパンツ姿という夏休みの少年のようなラフな服装に、運動後の少し汗ばんだ状態で近づくのは勘弁してほしい。しかし、何を言ってもきっとやめないだろう。拒絶しない俺も悪いが。
「なぁ大嶺、何で今日は急に誘ってきたんだ?」
「ただ怜と遊びたかっただけだよ。なにか理由が無きゃ誘っちゃだめか?」
だめなわけがない。佐久間も大嶺も他の友人達も、タイプは違えど美人しかいない。誘われて嫌だとおもうはずがない。それに、
「まぁまたいつでも誘ってくれよ。大嶺と遊ぶは俺も楽しいからな。」
どちらかといえばこちらが本心だ。いつも一緒にいると振り回されているだけなような気がするが、彼女なりに俺を気遣ってくれていることがあるのもわかっている。
「当たり前だ。あたしも怜と遊ぶのは楽しいぜ。」
そう言いながらもう一度打席に向かう大嶺の横顔は、暑さのせいか照れているせいか少し赤く見えた。
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