閑話
私、佐久間桜李の初めての恋は小学校の時だった。二つ隣のクラスで、王子様タイプの見た目の、登校頻度が比較的高い男の子。同級生には三人の男の子がいたけれど、同い年の子たちの半数が、その男の子に好意を抱いたと思う。
いつもみんな彼に話しかけにいくけど、話しかけても返ってくるのは強い言葉だし、なにより彼を護るように数人の女の子が周りにいてあまり話すことができなかった。
中学生になった年の秋頃、私は彼に告白をした。そんなにたくさん話したことがあるわけではない。それでも勢いに任せて行った行動で、なんとその時はOKをもらうことができた。
その後は、彼のいうことをたくさん聞いた。あれを買ってこいとか持ってこいとか、そんなことばっかりだったけど、頼りにされていると思うと嬉しかった。あの時の私は浮かれて何もみえてなかった。
告白してから半年後、いつものように彼に飲み物を持っていた時に言われたのだ。
「お前もういいよ。」
突然言われた、たったの一言。最初は何を言われたのかわからなかったが、しばらくして私は見捨てられたと気づいた。いや、そもそも彼は私を見てすらいなかったのだろう。
そのことを自覚し、たくさん泣いてしばらくはひどく気分が落ち込んだ。
こんな世界ではありふれた出来事だったかもしれない。でも、私は男の子という存在が少し怖くなった。
それからは、特に大きな出来事もなく高校生になった。家から少し離れた、あまり男の子が入学してこない学校に入学をした。
私の入学の年、同級生として二人の男子生徒が入学してくると周りで噂になっていた。それはどうやら本当だったようで、入学式に二人の男子生徒がいた。
一人は今すぐにでも男性アイドルになれるような見た目。どうやらこの高校の近くの出身の子達は知っていたようで、体育館に入ってきた時に浮かれたような声を上げていた。
そして、その時のもう一人の男子生徒が城間怜くんだった。
初めての印象はお世辞にもかっこいいとは言えない人だなと思った。どこが悪いとか、そういうのは無いけど、良くも悪くも普通な感じ。それが正直な印象だった。
入学式後にクラスに移った時、城間くんと同じクラスだと知った。
先生が来るまでの空き時間中、クラスの一人が机で配布されたプリントを読んでいた城間くんに話しかけたのだ。城間くんの印象がどうこうより、男子生徒である時点である程度注目されていた。
「城間くん…でいいんだっけ?これからよろしく。」
明らかに下心がありそうな顔をして話しかけたクラスメイトの姿を見て、一体どんな強い言葉が返ってくるのかと不安に思ったが、
「おう、これからよろしく頼むよ」
なんと笑みを浮かべて握手をするために手を伸ばしたではないか。
その時の、今は友人である彼女のどうしたら良いかわからないといった挙動不審な振る舞いは今思い出しても面白い姿だった。
それがきっかけになったのか、みんなが城間くんにあいさつをし始めた。一人ひとりにちゃんと返事を返している姿を見ていたら勝手に体が動いていた。
「私、佐久間桜李っていうんだ。これからよろしくね。」
これが運命的な出会いと漫画やドラマのようなことは思わない。それでも私にとっての城間くんは、それからずっと特別な人だ。
高校で彼に好意を持った人は多い。でも、誰も彼の優しさにつけ込むような真似をする人はいなかった。
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