お菊キクキク…

天川裕司

お菊キクキク…

タイトル:お菊キクキク…


ある日、俺は事故に遭って亡くなった。

でも俺の唯一の親友がそれではあまりにも不憫だと、

俺を蘇生させようと独自の手法によって試みた。


そいつはスピリチュアル関連にかなり精通していて、

あらゆる儀式をもって俺を生き返らせた。

でも俺の生き先は人の現実ではなく、霊界だった。


「…生き返ったっつっても、霊界か。でもお礼を言うよ、ありがとう」


親友「グス…だめだ…。ごめん…」


「いやだから生き返ったんだよ。ただ現世(そっち)じゃなくて霊界(こっち)でさ」

親友は本当に良いやつだった。


とりあえず俺は霊界をさまよった。

すると古井戸が見えてきて、その井戸の中から…

「1枚、2枚…」と聞こえてきた。


「あ、これって確か皿屋敷か?」

思ったとおりで、中からお菊さんが出てきた。

でも俺も霊になったからか、全然怖くない。

それよりよそで、自分の力が何か特別なものに変わってないか?

それを確認した。すると…


「バボン!!」

「うおっ!?」

波(は)が出た。

青白い光の玉が俺の右手から出、前にあった木を打ち倒してしまった。

そしてまたお菊さんの方を見る。

9枚まで数えあげたところ。


菊「9枚…… 1枚足りなぁい…」

と恨めしく言って、俺の前にボンッと

傷ついた恐ろしい顔を持ってきた。

でも「それで?」といった感じで俺は微動だにせず、

彼女の顔をじっと見つめた。


菊「………」

ただ黙ってるだけ。

別にそれ以上、何かしてくるわけでもなかったみたい。

そこで俺は言った。


「ここで10と言えば『あらうれしや』とか言って喜ぶんだろうが、俺はそう言わない」


「それより、こんなふうにして見ず知らずの無関係のヤツを脅すより、あんたをそんな目に遭わせたむかつく奴らのほうに恨みを向けるのが筋じゃないのか?」と。


「え?」と言った感じに彼女は固まる。

それから事情を聞いた。


時は1653年のこと。

正月の2日目に、彼女は青山播磨守主膳とかゆう

有権者の屋敷に奉公していた時、

10枚あった皿のうち1枚を割ってしまった。

それで罰として彼女は中指を切り落とされ、

手打ちにするとかで1室に監禁されてしまい、

その後しばらく幽閉生活を送ったと言う。


でも彼女はその生活に我慢できず、

縄付きのままで部屋から抜け出して

屋敷裏にあった古井戸に身を投げたと言う。


「なんでそのまま逃げなかったの?部屋から抜け出せたんでしょ?」


菊「…抜け出せても所詮はお屋敷の中。見張りがたくさん居て…」


「でもそんなの、たかが皿で…罰、厳しすぎない?」


菊「昔はそうだったのです」


「じゃあその青山播磨守主膳とかゆう奴が、あんたをそんな目に遭わせた張本人なんだな?」


菊「…ええ。歴史ではそうなっておりますが、でも実際はその当時、主人が住んでいた吉田屋敷の財源元を賄っていた、ごん蔵と言う男の指示だったそうです」


「ごん蔵?」


菊「ええ。ごん蔵はそこら一帯を纏め上げていた大地主で、時の権力者としても知られてましたが、歴史に名を残すことを嫌い、終生、表舞台に出る事はありませんでした」


菊「陰の権力者として自分の生活の安泰だけを計り、他人との交流も必要以上には持たなかったのです。きっと、敵を多く作りたくなかったのでしょう」


「ふぅんなるほど…」


菊「そしてごん蔵には一人娘がいて、その一人娘を将来、安定が約束されている主膳の元へ腰入れさせるため、その主人に少し気に入られていた私が邪魔になったのです」


「…それで?」


菊「ええ、それで私の落ち度を見つけ、それを良い機会に幽閉しました」


「でもそんな事なら尚更、井戸になんか身を投げなくても」


菊「私はこう見えてプライドがあります。そんな身の上になった自分が情けなく、その事で将来ずっとついて回るだろう周りの目にも嫌気がさして、そんな人生を送るのなら…と」


「(作り話じゃなかったんだ)…プライドがあるんなら尚更だろう?じゃあどうだ?俺と一緒に今からそいつら2人に罰を下しに行かないか?」


菊「…え?」


「そいつらに恨みがあるんだろう本来は?俺も霊界(ここ)へきて妙な力を身に付けた。その自分の力がどこまで出来るか試してみたい。どうだ?一緒に行かないか?」


霊界(そこ)の力が俺に作用していたのだろうか。

時を越えられる能力、まかり間違っても

そいつら2人にやられる事は無いと確信できる自分の能力を、

何かから教えられ、知っていたのだ。

だからそれだけ強気に出ることができていた。

やつら2人が歴史上の人物なら、

今必ず霊界(こちら)にいるはず。

その確信もとりあえずあった。


それに新たな生命を持った以上、

俺は自分の将来の事を案じつつ、

自分にどれだけの力があるのかを確認する事が

今後、必須の事のようにも思えていたから。


菊はすんなり承諾した。目から鱗といった感じ。

それから新たに霊界をさまよう2人の旅が始まったんだ。


親友「グス…ごめんよ、お前を現世(こっち)に生き返らせてやれなくて…」


そのうち親友にも、本当の事を話してやろうと思う。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=WIsK1lIiIDc

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