第10話 必要厨二詠唱
「や〜や〜皆!いつも元気な葵だよ〜!」
「奏斗です。」
「今日はなんと!あの登録者200万人の大物Dtuberの佳奈チャンネルさんとコラボするよぉ〜!!」
「どうも〜この2人に大物とか言われて恥ずかしい佳奈だよ〜」
【葵と愉快な仲間達】
・うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
・きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
・コラボ!コラボ!
・やっぱ最初は佳奈ちゃんだよなぁ!
・今日何するの〜?
【佳奈チャンネル】
・おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
・この間の人達だ!
・佳奈ちゃん助けてくれてありがとう〜!
・誰?
・↑配信みてこい
・楽しみ!!
多くの人が休みを満喫する土曜日。3人は渋谷ダンジョンに潜って配信をしていた。
コメントでは多くの楽しみ!という意見が流れ、アンチのコメントは押し流されていた。
「はい!というわけで今回は!コラボなんですけど〜。下層で魔物と戦って行きたいと思います!」
・まじか!
・佳奈ちゃん大丈夫?
・トラウマとかになってないか心配だったけど、下層行くなら大丈夫そう?
・うぉぉぉぉぉぉ!!
・ずっと狩るだけなの?
「え〜『ずっと狩るだけなの?』大体はそうだけどちょっと違うこともします!」
「やることは後から教えるね〜」
「とりあえずここ中層だし、下着に行こうか」
「ちなみにリスナーの皆、この2人魔物倒すの速すぎてここまで1時間ちょっとで着いたんだよね」
・!?!?!?
・い、1時間!?
・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?
・ありえる?
・それって凄いの?
・一般的な中層探索者でも最低2時間はかかる
・えっっぐ
・笑うしかねぇよそんなもん
衝撃の事実にコメントの流れが速くなった。
3人はそんなコメントを横目にどんどんと下に潜って行った。
「さて、ここはもう下層だよ〜。奏斗、近くに魔物いる?」
「あっちの方向に何かが4体居るな。それ以外は近くには居ない」
「分かった!では佳奈ちゃん…一度私達の戦いを見せるから、ちょっと見ててね」
そう言って葵は、奏斗が指差した方向に走って行った。数秒後、葵が4体の魔物を引き連れて戻ってきた。魔物はオーク。葵を見て発情しているようだ。
「おーい!奏斗、これ私が殺っても良い?」
「あぁ、好きにしろ〜」
「わ〜い!ありがとっ!」
葵は奏斗の了承を取った後、弓を構えて振り返った。その瞬間、矢に魔力が纏った。辺りの温度が下がっていく。
オークがまとまった瞬間、葵は挽いていた弦を離した。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
という着弾音と、何かが凍りつくような音が聞こえたときには、先頭のオークの頭が弾け飛び、周りのオークは凍りついて絶命していた。
「……うっそお…」
そんな佳奈の漏らした呟きだけが、辺りに響いていた。
「どうっ!奏斗!結構いい感じじゃない?」
「流石だな〜昔より出力も上がってるし、こりゃそろそろ俺も一本くらいは取られるかもな。」
「ほんと!よーし!もうちょっとで奏斗に勝てる!」
「いやそんな簡単に勝たせないけどな?」
「意気込みだから良いの!…って佳奈ちゃん?どうしたの?そんなにぼーっとして」
「…っは!いやいや今の何!?弓使いで魔法も使えるの!?」
「え、うん。私魔力の調節は得意だから。」
「はぁぁぁぁぁ!?え、葵ちゃん自分がとんでもないこと言ってるの分かってる?」
「あはは、分かってるに決まってるじゃないですか〜そこまで鈍感じゃないよ。奏斗と違って」
「おいこら。俺も鈍感だった記憶は無いぞ」
「えっ」
「えっ?」
当たり前かのように言う葵に、佳奈は全力で突っ込む。この世界魔力を纏わせるなんて芸当はかなりの高等技術だ。現在一番有名な弓使いが魔法弓を使えているが、そもそもそこまで弓を使う人間も少ないのだ。
「…あの、葵ちゃん。それってどうやってやってるの?」
「ん?結構簡単だよ?剣とかは魔力を"込め"るけど、私は"纏わせ"てるの。」
「えーっと、込めると纏わせる…どう違うの?」
「込める方はそのまま魔力を剣に入れるイメージだけど、纏わせるのは魔力を周りに張って、それを維持し続けるってだけ。簡単でしょ?」
「全然簡単じゃないよぉ…有名な弓使いの人も同じこと出来るけど、あの人もそう言う感じでやってたのか…」
「ん?もしかしてそれ結月さん?」
「うん、そうだよ。」
「だったらやり方は違うよ。結月さんの場合矢と自分に管が繋がってるイメージをして、矢に魔力を"込めて"るの。私は管が伸びるイメージが出来なくてその方法は無理だったから、このやり方で再現したの。」
「えっと…なんでそんなこと知ってるの?」
「結月さんは私の遠い親戚って言うのかな?そんな感じだから、昔ちょっと教えて貰ったんだよね。」
・えぇぇぇぇぇ!!結月と知り合い!?
・なんだその交友関係。。
・そりゃ弓上手くなるわ
・wwwwww
・まじか〜そういう繋がりね
・親戚か…羨ましい…
衝撃事実の連発で佳奈もリスナーも困り果てていた。そんな中奏斗が声を上げる。
「なぁ、近くに魔物いるけど、次佳奈がやるか?俺はこの間見せたから良いだろ。」
「あ、奏斗。忘れてた〜。」
「忘れんな。確かに全然喋ってなかったけど。」
・奏斗いたんか
・完全に忘れてたw
・衝撃で記憶飛んでたわwww
・お前らwwwwww
相変わらず扱いが酷いコメントを見つつ、佳奈に視線を向けた
「で、どうする?一応俺がやってもいいけど…」
「あはは、じゃあ私がやろうかな。そろそろ魔物狩り以外何するか言わないとだし。」
「そうだな、てことでリスナーの皆。今日は魔物狩り以外に佳奈の特訓もして行くぞ」
・特訓?
・というと?
・へぇー、特訓か。
・詳しく
「ま、簡単に言えば佳奈が魔物と戦って、俺達がアドバイスするってだけだな」
「これで下層なんてよゆーだよ!やったね!」
「あはは、2人とももしかして深層まで行ってたり?…」
「あぁ…まあたまに」
「奏斗は昔たまになんてレベルじゃ無いくらい潜ってたけどね〜」
「えっ?」
・え。
・まじ?
・深層探索者とかほとんどいないぞ?
・【コメントが削除されました】
・なんでこの流れで削除されるコメントが出来るんだよ…
・何階くらいまで潜ってたの?
・深層ってやっぱやばいのか?
「『何階まで潜ったの?』だって」
「え〜、もう覚えてねぇよ…確か深層120までは数えてたはず。そっから…多分25階くらい移動したから…俺の記憶が正しければ145階くらいまであったな。」
「ひゃくよんっ!?……えっと、奏斗ってそんな強いの?」
「これでも10年探索者やってるからな」
奏斗の発言でまたコメントの流れが速くなった。中には嘘だ、見栄張るなというコメントもあったが、本当のことしか話していない奏斗は気にすることなく流した。
・145って…
・流石にエグいな
・嘘乙
・まじでなんで名前が知られてないんだよ
・なんで今配信始めたの?
・てか渋谷ダンジョンそんなに深いのか…
「渋谷ダンジョンってそんなに深いの?」
「いや、俺が潜ったのは渋谷ダンジョンじゃないぞ?」
「えっ、この近くって渋谷しかダンジョンないよね?どこ潜ったの?新宿ダンジョンとか?」
「俺が深層潜ったのは九州のダンジョンだな詳しい場所は言わんが」
「九州懐かしいねぇ〜」
・九州!?
・結構遠くに行ったなろ…
・わざわざ東京から行ったの?
・九州ってどこが有名だ?博多とか?
・桜島のダンジョンも有名だな
・あ〜あの火山とは似つかない海ダンジョンなw
・てか葵ちゃんも行ったんだな
多くの予想コメントが飛び交っているが、果たしてこの中に当てられる人が居るかとほくそ笑む。
「まぁその辺の話しはまた今度時間取ってするよ」
「ちなみに私は行ってないよ。奏斗一人」
「えっ…一人って…そんなこと出来るの?」
「この世界で深層を一人で攻略出来る奴は俺は聞いたことないな」
・いやお前が言うのかよ
・でもこの前の
・確かに。まだ余裕残してそうだったし
・編集に決まってるだろ。本気で信じてるやついて草
・次の雑談ででも話してくれ!
「次の雑談な、了解」
「ちょっと奏斗〜勝手に決めないでよ〜」
「良いだろ俺が決めても…」
「まぁ良いか。私達のこと知って貰った方が色々出来そうだし」
話しがまとまったところで奏斗がさて、と声を出した。
「そろそろ佳奈も戦うか。ちょっと話したし、緊張も取れただろ」
「そうだね。2人ともありがと!」
「佳奈ちゃん頑張って〜!」
「じゃそろそろ魔物も見えてくるし、戦って見てくれ」
「う、うん。」
そう言って奏斗は後ろに視線を向ける、その数秒後、少し盛り上がっている小山の裏から魔物が出てきた。
出たのはグランドマンティス。ランクB、個体によってはAにすらなりうる巨大なカマキリだ。佳奈はその強大な威圧感を肌で感じながら…
(あれ、この前のオーガほどじゃないな)
と、さっきまで感じていた緊張はなんだったのやら。すっかり緊張は解け、余裕の笑みすら浮かべていた。
「やれる。」
ばっと目を開き、手を前に突き出す。
グランドマンティスはその様子を見て、佳奈を敵だと認識する。自身ですら気づかない僅かな殺気、全身に感じるチリチリとした嫌や予感を一瞬感じ取ったためである。
グランドマンティスは先手必勝とばかりに鎌の着いた手を振り上げ、佳奈に向かって振り下ろした。砂埃が舞い、辺りが砂の霧に包まれる。
─やがて砂埃が晴れたとき、そこには潰し、切り裂いたはずの佳奈が───いなかった
「私、これでも避けるのは結構得意なんだよね。…ていうかそのおかげでレッドオーガの攻撃避けられたんだし。」
ゾワりと、グランドマンティスの背後から声が聞こえた。後ろを振り返るとそこには、ニヤっと笑い魔法陣を展開する佳奈の姿があった。
グランドマンティスが何かをする前にそのまま詠唱し、魔法を放つ。
「『…顕現せよ風の刃よ!』はあっっ!!」
ぐぢゃり、と肉を断つ音とともに、風の刃がグランドマンティスの足を切断する。ぐぉぉぉっと、グランドマンティスの叫び声が聞こえた瞬間、再びグランドマンティスが鎌を構えることなく振り下ろした。
それを佳奈は冷静に避け、一気に決める用意をする。
「グランドマンティス。ちょっと早いけど、私は次で決めるよ。先に言っとくけど恨まないでね。」
『我焔求む、絶望の象徴となりて顕現せよ!獄炎!』
グランドマンティスに向け、詠唱した魔法を放つ。その瞬間──
どかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!
という空気を揺らす音とともに感じた熱と衝撃は、一瞬にしてグランドマンティスの姿を消し去った。
「どうっ!2人とも!」
くるりと身を翻し2人を見た佳奈の問いかけに、2人の正直な感想が合わさった。
「「……………えっ。凄」」
・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
・佳奈ちゃんグランドマンティスソロ狩り!
・すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
・こんなときでも詠唱はするんだな
・凄い、凄いよ佳奈ちゃん
ちらりとコメントを見た佳奈は、その賞賛と2人の反応に少しながら照れていた。
「…やっぱり凄いよ佳奈ちゃん!配信で何度も見たけどやっぱり生で見るのとは迫力が違うねっ!」
「ありがと葵!頑張って良かったよ〜」
「お疲れ。すげぇ魔法だったな」
「奏斗もありがと〜!」
「ねぇねぇ佳奈ちゃん。なんで私達に特訓してもらおうと思ったの?こんなに凄い魔法なら別に特訓なんてしなくても深層にも通じると思うけど…」
「…深層に行きたいのは本当だけど、それとは別に目的があったの…」
「えっと…それって…」
「……私………………実は魔法の詠唱が趣味だと思われてることが嫌で、その認識を変えたかったの!!」
「………ほぇ?」
予想外の言葉に葵と奏斗の思考が数瞬止まる
「え、佳奈ちゃんの詠唱って趣味じゃないの?!」
「……そうなの」
・え?
・ガチ?
・勝手に厨二病なのかと思ってた
・だって…なぁ?
・そうだよなぁ…
コメント欄もかなり困惑していたが、代表して奏斗が聞くことにした。
「えっと佳奈?普通の魔法はほぼ無詠唱で使えるし、必要でも『来いっ!』とか『燃やせ!』とかそんな短い分なんだ。そこは知ってるよな?」
「うん…だから皆に厨二病だと思われてたんだし。」
「普通に配信で言うのでは駄目だったのか?」
「だって詠唱が必要な魔法なんて聞いたことないから、ほとんど誰も信じてくれないし…」
「…本当に詠唱が必要なのか?」
「……うん。使おうと思ったら頭に詠唱の呪文が流れ込んでくるの」
「詠唱しなかったら?」
「そしたら使えないだけ」
奏斗は半信半疑で聞きつつも、若干の既視感を覚えつつ佳奈の言う事ならと納得していた。
「へぇ〜あの詠唱必要だったんだ!私は元々かっこよくて好きだったけど、必要となってくると不思議だねぇ…そんなこと今まで世界で無かったから。」
「……嘘じゃないよ?」
「私は佳奈ちゃん推しだし友達だから!佳奈の言う事なら絶対信じるよっ!」
「あぁ…俺も信じる。……正直なこと言うと心当たりがある。ちょっと面倒なことになったけどな…」
「え?どういうこと?」
「まぁその話は昔と関係があるから次の雑談配信でまとめて語ろうか。」
奏斗はそう言うとドローンに体を向け話始めた。
「あ〜そんなわけで、佳奈の詠唱は必要らしい。何でかは分からないけどな。本人はそれを厨二病だと思われるのが嫌らしいから、そこのところ配慮してあけでくれな。」
・うぃっす了解
・正直驚いたけどな
・半信半疑だけど佳奈ちゃんが嫌だって言うなら信じる
・もっと早く言っても良かったのに
・↑そしたら誰も信じてくれなかったって言ってたろ
・あ、そうか。
・てか魔法に詠唱が必要なことと奏斗の過去に繋がりが?
・どういうことだ…
コメントの流れも大分落ち着き、奏斗は気を取り直して言った。
「じゃあまだ時間あるし、何体か魔物狩って終わるか。教えるってのはどうする?」
「賛成〜!佳奈ちゃん強いし、いっぱい倒そ〜!」
「私も頑張ります!!とりあえずは今度のコラボに持ち越しってことで!」
それから3人は魔物を狩り続け、たまに質問にも答えながらコラボ配信を終わった。
その後地上にて─
「─ふぅ、終わった〜!」
「2人とも、今日はコラボしてくれてありがとう!すっごく楽しかったよ!」
「それは良かった。俺達もまだ配信始めたばっかりだし、色々勉強になった」
「こっちも沢山勉強させて貰ったよ!改めてありがと!それじゃあそろそろ解散かな?」
「佳奈ちゃんこれから暇?良かったら一緒にご飯でも食べに行かない?」
「えっ、良いの!?行こ行こ!!」
「それじゃあ近くの店探すか〜」
その後3人は近くの個室店でお高めの焼き肉を食べた。最終的に19時近くまで話し込み解散となった。
────────────────────
ども!ゆーれいです!
やっぱり戦闘シーンは書くの楽しいですね!
落としどころわからなくなっちゃうのは悪い癖なので直していきたいところ…
それではまた
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