第18話 魔女の占い

 今日のアタシは機嫌が悪い。えぇ、えぇ、そりゃもう、とてもとても機嫌が悪いですとも。どのくらい悪いかというと、氷をゴリバリと噛み砕くくらいには機嫌が悪い。おかげで、頭がキーンっとなって、二割増ですよ。


「ねぇ姫乃ひめのお姉ちゃん」

「何?」

「姫乃お姉ちゃんって、バカなの?」

「いきなり酷い言いようなだね。何、反抗期?」


 五歳にしては少しばっかり早すぎるんじゃないかな? アタシちょっと心配だよ。このままいったら、高校生になる頃にはギャル系ヤンキーになっちゃうよ。


「いや、だってさ。コンビニで買ったブロックアイスを齧りながら、店番してるって中々の絵面だよ……」

「だって仕方ないでしょ。氷でも齧ってないとやる気でないんだもん」

「意味わからないよ……。てか、何で私も呼ばれてるのさ」

「そんなの話し相手に決まってるじゃん。アタシの使い魔なんだからそのくらいはやってよ」

「えぇ……めんどくさぁ」


 めんどくさぁとはなんだ。使い魔は主のために身を粉にして働くべきだろうに。まったくやれやれ、これだからお子ちゃまは甘いんだから。今のうちにアタシがしっかり教育しとかないとね。


「そもそも何で、姫乃お姉ちゃんは店番してるの?」

「お母さんにやれって言われたの。罰だって」

「罰? 何やらかしたの?」

「失礼だなぁ、やらかしてないよ。ただ、少しばっかり、学校の成績が悪くて、今日の三者面談で怒られただけだよ」

「よく分からないけど、多分それって、姫乃お姉ちゃんが悪いよね……」


 うるさいうるさい。アタシは何も悪くない。アタシは天才魔女なの。だから、成績なんて小さいことは気にしないの。そもそもの話、たかが学校の成績程度で、大騒ぎする方が間違っているんだ。そう。つまり、世の中が悪い。

 お母さんもお母さんだよ。何もあんなに怒らなくてもいいのにさ。しかもゲンコツまでしてくれちゃうし。おまけに魔力込みでさ。すんごい痛かったんだから。

 まったくもう、嫁入り前の娘になんて事するんだ。

 それにアタシは天才魔女なんだよ。その天才魔女の国宝的頭に何かあったら、どう責任取るつもりでなのかね? その辺をよく考えてほしいものだよ。


「はぁ……店番暇ぁ」

「確かに全然お客さん来ないね」

「もう閉めちゃおっか」

「勝手に閉めたら、また怒られちゃうよ」

「だよねぇ……」

「てかさ、ここって何のお店なの?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 占い屋だよ」


 と言っても、ここは本店ではないけどね。本店の方はお母さんが行っている。アタシがいるここは、分店っていうか予備店みたいな感じだ。

 一応お母さんは、占い魔法の使い手だ。的中率もいいし、評判もかなりいい。だから、お母さんのところで占ってもらうには、予約が必須になっている。

 ただまぁ、何となくその日の気分とか、ふらっと寄ってみた感じで占いをしたい人用で作られたのがこっちの店。普段はおばあちゃんの気分次第でやってる。


「ねぇねぇ、占いってどんなの出来るの?」

「まぁ一通りは出来るよ。そうだ、せっかくだからアヤメちゃんのこと占ってあげようか?」

「いいの?」

「暇だしね。ちょっと気になってるんでしょ?」

「うん、まぁ」

「じゃあ決まりだね」

「やった!」

「何を占ってほしい?」

「う〜ん。そうだなぁ」


 まぁ定番所だと、恋愛とか将来のこととかなんだけど、相手は五歳児だもんなぁ。恋愛は早すぎるし、ましてや将来のことなんて考えてないだろうし。


「あ、今週の競馬の結果が知りたい!」

「やめなさい」

「えぇ〜。だってG1だよ」

「知らんがな」


 五歳児が競馬とかG1とか言っちゃダメでしょうが……。流石のアタシもびっくりだよ。


「てか、どこでそんな知識覚えたの?」

「ウマ娘だよ。こう見えて私、結構ガチ勢なんだから!」

「あーなるほどね」


 それで競馬ですか。うんまぁ、納得したわ。

 そういえば、百合ゆりもあのゲームハマってたなぁ。それも結構課金してるらしいし。


「とにかく、別のにしなさい」

「じゃあ何かいいことないかでいいや……」

「露骨にテンション下がったね……」


 いいのか五歳児。もっと夢や希望を持ってもいいのではないかな? アタシがアヤメちゃんの頃はもっと、キラキラと憧れを持ってたはずなんだけどなぁ。はっ、これがジェネレーションギャップというやつなのか! いやだなぁ……歳とか取りたくない。


「どうしたの? 姫乃お姉ちゃん」

「ううん、何でもないよ。えっと、何かいいことだったよね」

「うん。よろしく」


 さてと、んじゃいっちょやりますかね。

 ん〜と、どうやってやろうかな? 占い魔法といっても、やり方は色々あるんだよね。まぁ、一番簡単なやつでいいか。失敗はしないけど、久々だしね。


「んじゃ、アヤメちゃん。髪の毛一本もらっていい?」

「うん」

「ありがとう」


 アヤメちゃんからもらった髪の毛を、水の入った透明な杯に入れる。


「これは?」

色見しきみ式っていうの。この後、水の色が三回変わるから、それで占うのよ」

「へぇ」


 そう言ってる間に色が変わってきたね。えっと、赤、緑、青か。


「ふぅん。なるほどね」

「どうなの?」

「まぁ普通だね。特に悪いことも起きなければ、大喜びするほどのいいことも起きないって感じだね。まぁ精々、お、ラッキーってくらい」

「何かつまんない。思ってたのと違う」

「そう言われてもねぇ……」


 占いってこんなもんよ。そもそも、劇的に何かすごいことが起きるって方が珍しいんだし。アタシ的にはこのくらい平凡な方が、逆にいいと思うんだけどねぇ。


「あーでも、お金の使い方には気をつけた方がいいかも」

「そうなの?」

「うん。最初に赤が出たでしょ。赤はお金とあんまり相性が良くない色だからね。まぁ諸説ありだから絶対ではないけど。一応、自分と身内の人は、しばらくお金に気をつけてね」

「分かった」


 しかしまぁ……確かにちょっと面白くない結果だったのは、否定出来ないんだよねぇ。どうせだったら、めちゃくちゃ不幸な結果とか見てみたい気持ちもある。

 あ、そうだ。


「えいや」

「何してんの?」

「ん? せっかくだから、もう一回占ってみようと思ってね。空間魔法を使って、高木君の髪をちぎってきた」

「酷いことするね……」

「まぁ、ちょっとだし大丈夫だよ」


 不可視のところから不可避で抜いたから、少しばっかり痛かったし、びっくりしただろうけど、そのくらいは男の子なんだから我慢してね。


「どれどれ、では早速」


 さっきと同じように髪の毛を杯に入れる。お、色が変わってきたね。


「げっ……」


 灰色、紫、黒……。うわぁ……まじかぁ。


「姫乃お姉ちゃん、これはどうなの? げって言ってたけど……」

「あー……うん。見なかったことにしようか……」

「いやいや、待って待って。すごく気になるんだけど」

「アヤメちゃん。この世には知らない方がいいこともらあるんだよ。ほら、知らぬが仏って言葉もあるんだし」

「そ、そんなに悪いんだ……。かけるお兄ちゃん可哀想……」


 とりあえず、明日にでも魔除のお守りでも渡しておこうかな。勝手に占っちゃったてのもあるし、何より友達が不幸になるのは、心苦しいしね。


 ――――

 ――


 因み、あの後高木君は、百合の魔法具の実験台になって、一週間ほど入院したらしい。

 うん。まぁどんまい。

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