第17話 ストライクアウト
「
「おう」
至福のゴールデンウィークが終わって、日常が戻ってきた。そして今日は、前々から予定されていた三者面談の日だ。
と言ってもまぁ、俺は滞りなく終わった。
「三者面談どうだった?」
「まぁ、可もなく不可もなくって感じだな。黒川は?」
「私も似たようなものかな」
「だと思った」
三者面談の初日。一番最初は俺で次が黒川だった。お互いに十五分くらいで終わった。この時期の三者面談にしては、大分早い方だろう。
「ま、私も総司も、ほとんど進路は決まってるようなものだしね。特に話すことはないって感じだもんね」
「だなぁ」
俺も黒川も成績はそこそこ。平均点ブラブラって感じだ。だからまぁ、今まで通りやってれば留年することはまずない。卒業後の進路も、俺は料理の専門学校。受験に関しては面接だけ。何だったら形だけの面接だ。言ってしまえば、金を払えば誰でも入学出来るところだ。イージーである。黒川は家の魔法具屋を継ぐから、就職先が既に決まってるようなもんだ。
要するに、二人とも何かやらかして留年しとかしない限り特に問題なしってことだ。
だからまぁ、特に話すこともなく速攻で終わったわけだ。
「おばさんは?」
「もう帰ったよ。この後、父さんと豪華なディナーに行くんだと」
「相変わらず、ラブラブしてるねぇ」
「少しは歳を考えてほしいけどな。黒川のところは?」
「お父さんも帰ったよ。仕事が溜まってるんだって」
「そうか」
黒川ほどじゃないけど、おじさんも魔法具職人としては一流だからな。いつも依頼で忙しそうにしている。そしてよく、黒川の実験に付き合わされて怪我してる。可哀想に……。
「んじゃまぁ、約束通りちょっと付き合ってよ」
「あいよ〜」
――――
――
「またここかよ……」
黒川に連れられて来たのは、ついこの間来たばっかりのバッティングセンターだった。
ったく、このさっさと付き合っちまえよカップルときたら、思考回路同じなのかよ。ラブラブでいいことですね。鬱陶しいからさっさと付き合えよ。まじでさ。
「またって何?」
「ゴールデンウィークに来たんだよ。
「あー、なるほどね。でも安心して。今日やるのはピッチングだから」
「は? ピッチング?」
「そ。ストライクアウト」
そういや、奥の方にそんなのもあったな。つか、何でまたストライクアウトなんだよ。前みたいに何か景品でもあるのか?
「あ、因みに景品はないからね」
「ねぇのかよ……。てか、人の心読むな」
「総司が分かりやすいのよ」
「さいですか……」
「ほら、早く行くよ。今日はとことん投げたい気分なの」
「へいへい」
まぁいいや。付き合ってやるか。野球は嫌いじゃないし、打つよりかは投げる方が楽だしな。
――――
――
「六枚か……」
「まぁ上出来じゃねぇか?」
持ち玉が十二球で、九枚の的に六球当てたんだから十分過ぎる成果だ。これって、見た目より結構難しいんだよな。多少経験がある奴がやっても、いいところ三〜五枚だ。それに横に付いている、スピードガンに表示された球速は百キロ近く出てたし。そこ辺の中学生ピッチャーより優秀だぞ。
「現役の頃はもう少しいけたもん」
「そりゃ現役の頃に比べたら落ちるだろうよ。まともに投げるのは久々なんだろ?」
「まぁ三年ぶりかな。だとしてもやっぱりショック……」
「相変わらず負けず嫌いだなぁ」
こう見えて黒川は、中学二年まで野球少女だった。ポディションはピッチャーで、かなりブイブイ言わせてたほどだ。
でも三年になってからは、男との体格差とか力の差が誤魔化せなくなってピッチャーからショートに転向したんだよな。残念だけど、こればっかりはどうにもならない。
まぁ……それでも普通にレギュラー張ってて、三番打ってたんだから、黒川の野球センスはずば抜けいるよ。
「とにかく交代。次は総司の番」
「はいよ」
「パーフェクト見せてよね。エース」
「恥ずかしからやめろっての……」
俺はエースとか言われるほど、すごいピッチャーじゃない。単純に俺らがいた野球部には、ストライクが入るのが俺と黒川しかいなかっただけだ。だからまぁ名ばかりのようなもんだ。
「文句言わない。ほらほら、気張っていこう!」
「へいへい……」
はぁ……まぁやるからには全力でやるけどさ。どうせだったら、いい得点は取りたいしな。
「よっ」
とりあえず一球軽く投げたボールは、ど真ん中の五番に当たる。ほぉ、どストライクだな。久々にしては中々いいんじゃないか?
「っん」
次は外角高め、一番の的に当たる。んー、ちょっと力み過ぎたかな。当たる場所もギリギリだったし。次はもう少し力を抜いて――。
「っん」
内角低めの九番の的に当たる。うっし、狙い通り。ストライクゾーンギリギリだ。あそこにいったら、バッターは際どくて振るか振らないか悩むところだ。いいね、感覚が戻ってきた。だったら次は――。
「っ!」
俺が唯一投げられる変化球のカーブ。グイッといい感じに曲がって、外角低めの七番の的に当たる。
「よっしゃ!」
「やるじゃん!」
「まぁな」
今のところパーフェクト。こりゃ案外全部当てられるかもな。
「その調子で頑張れ〜」
「おうよ」
――――
――
「お疲れ」
「疲れた……」
あの後の成果は、八番、二番、外れ、四番、外れ、三番、外れ、六番の順に当てることが出来た。持ち玉全部使ったけど、何とかパーフェクト達成だ。最後の一球はちょっとドキドキしたわ。いや、まじで当たってくれてよかったわ。
とりあえず一旦休憩だ。そう思って、ベンチにドカっと座ると、黒川がスポーツドリンクを渡してくる。
「パーフェクトのご褒美」
「ん。サンキュ」
いつの間に買ってたんだか。まぁ、丁度喉も乾いてたし、ありがたく頂くとしよう。なにより、人の金で飲み食いするものは何でも美味しい。
「んで?」
「ん?」
「いや、何か俺に用があるんだろ?」
黒川のことだ。まさかただ、ストライクアウトをするためだけに、俺を呼び出したとは思えない。
「まぁ……用はあるっちゃあるよ。ただまぁ……そのね。そこまで重要でもないって言うかさ」
「珍しくはっきりしないな」
「はぁ……ぐちぐちしてる方が、面倒か。総司」
「ん?」
「この間は、ごめん」
「は?」
はて?
何で黒川は謝ってんだ? 黒川に謝られるようなことをされた覚えはないんだけどな。
「悪ぃ黒川。何で謝ってんだ?」
「だからこの間のことだってば。ほら、総司が倒れた時の」
倒れた時って、アヤメに血を吸われて魔力が体に溜まった時か? いやでも、あれに関しちゃ黒川が謝ることは何もなかったと思うが。
「色々と総司に言っちゃったでしょ。あと記憶読んちじゃったり」
「あー、そういうことか」
「そのことをずっと謝りたかったの。その……カッとなって色々とやらかしちゃったから」
「別に気にしてねぇよ。まぁ、記憶に関しちゃ忘れて欲しいけどな……」
見てたAVとか検索履歴とか、出来れば誰にも他言せずに墓場まで持って行ってくれ。ほんとまじで頼みます。
「てか、そんなの気にしてたのか?」
「普通気にするでしょ。あの後家に帰って冷静になったら、自己嫌悪で死にたくなった」
「そこまでか……」
あーでも、黒川って意外と陰キャなところあるからなぁ。あれだ、勢いでやって後から後悔しまくって布団で悶えるタイプだ。
「ま、あのことは気にすんな。あれはどちらかと言うと、てか、百パーセント俺が悪いからな」
「まぁ確かに総司が悪いんだけどさ。まじでバカ過ぎでしょ。雑魚なの?」
「ねぇ言い過ぎじゃない? ついさっきまで謝ってたやつの言葉とは思えないんだけど」
「うっさいなぁ。とにかく、もう謝ったからね」
「はいはい。分かったよ」
謝ってるやつにしては、随分と上からだなぁ。まぁ黒川らしいっちゃらしいけど。
「んで、何で謝るためにここ来たの?」
「単純に投げたかったってのと、あとは……ちょっと気恥しかったから……」
「ふぅん」
「何?」
「いんや、何でもねぇよ」
「何かそれウザイ。死ね」
「うわ、ひっでぇ……」
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