第14話 魔女のデート?

 き、来てしまった……。ケーキバイキングに。

 やっばぁ……どうしよ。ここまで来といてなんだけど、今すぐ逃げ出したいよ……。

 いやね? 嫌ってわけじゃないのよ。単純に気持ちが追いついてないだけなのよ。

 例えるなら、ソシャゲのガチャで天井寸前のところで、金欠なんだけど課金するかしないかで迷ってる感じ。

 あーぁ……まじでどうしましょうね? でもなぁケーキ食べたいしなぁ。フルーツタルトケーキ、チョコケーキ、モンブラン。それを口いっぱいに頬張ってから、ガムシロップを大量に入れた紅茶で流し込む。これが最高なのよ。

 うへへっ、想像しただけで、よだれが出てきた。


「何してんの、お前?」

「うえっ!?」


 び、びびったぁ……。

 こんの……ボケナス……。い、いきなり後ろから話しかけるなっての。心臓が止まるかと思ったでしょうが。


「べ、別に何でもないよ」

「だったら店の前で気色悪い笑いしてんなよ。営業妨害だろ。通報するぞ」

「き、気色悪くないし! てか通報するな!」

「はいはい。ほら、さっさと入るぞ」

「ムカつく……」


 てか、何でそんなに落ち着いてるのさ。アタシなんて、昨日から色々と考えちゃって寝れなくて大変だったのにさ。


「はぁ……」


 あーやめやめ。いったいアタシは何を期待してるんだろう。バカみたい。

 アタシは嫌々を演じてるけど、ボケナスはガチで嫌なんだから。そりゃあ、あんな感じにもなるよね。

 まぁ……いつものことだ。今さら気にしたって仕方ないことだ。

 とりあえずまぁ、せっかく高木君が気を利かせてくれたんだし、今日のところはケーキバイキングを楽しむとしよう。


 ――――

 ――


「食い過ぎだろ……」

「は? 何言ってんの。食べるでしょ。食べ放題だよ」


 それにまだ、十個しか食べてないし。全然足りてないし元も取れてない。ここでやめるとかありえないっての。

 それにしても、ここすごいね。ケーキがめっちゃ美味しいのもあるけど、何より種類が豊富。あれもこれも美味しそうで、次どれ食べようか迷っちゃうね。これはいっその事、コンプ目指しちゃおうかな。

 いやはや、高木君にまじ感謝だね。今度ジュースの一本でも奢ってあげよう。


「デブるぞ」

「うるさいわっ! デブる言うな!」


 せめて太るって言え。デブるとかストレート過ぎるわ。

 てか、太ってないし! ちょっと脂肪を装備しただけだし。取り外そうと思えばいつでも取り外せるんだから。今はそう、防御力を上げてるだけだ。

 って、やかましわ。


「そういや、さ……」

「ん?」

「お前、進路どうすんの?」

「え、急に何?」

「ただの世間話だ。ほら、ゴールデンウィーク明けに三者面談あるだろ」

「あー」


 そういえば、そんなのもあったねぇ。完全に忘れてた。てか、お母さんに言ってすらなかったわ。あっぶなぁ。帰ったら言わないと。


「まだ決めてないかな」

「おばさんのあと継がないのか?」

「まぁ最悪それでもいいけど、今のところそのつもりはないかな」

「ふーん。何で?」

「アタシはお母さんほど、占い魔法は得意じゃないからね」

「なるほどな」


 アタシの家は、代々占いで生計を立てている魔女一家だ。結構昔の先代が占い魔法を作って、ずっと受け継がれている。まぁ、占い魔法がアタシん家のお家流ってやつだね。

 一応アタシも使えるけど、精度でいったらお母さんの方が上だ。それでもまぁ、その辺の占い師とかよりは、アタシの方が圧倒的に信頼性は高いんだけどね。

 ただ、占いであることには変わりないから、確実とは言えない。これはお母さんも同じだ。だから、アタシはあんまりこの魔法が好きじゃないんだよねぇ。

 だからって、お母さんやおばあちゃんの仕事をバカにするつもりも、下に見ているつもりもない。ただ単純にアタシの好みの問題だ。


「あんたは?」

「俺は、進学だな」

「大学?」

「いや、専門学校。料理のな」


 意外、でもないか。ボケナスは料理が得意だし、そういう道に進むって考えていてもおかしくないか。


「言っとくけど、料理人になるつもりはないぞ」

「は? じゃあ何で料理の専門学校に行くの?」

「父さんが近いうちに二号店を出すらしくてな。んで、今の店を俺にくれるって言うんだよ。まぁそのための条件として、調理師免許を取れって言うからだ」

「なるほどね」


 ボケナスの家は夫婦で喫茶店をやっている。雰囲気もいいし、コーヒーや料理も美味しいから評判がいい。アタシ達のような学生や主婦のおば様達、年代関係なく人気だ。

 アタシも大好きで、よく放課後に百合ゆりと一緒に通っている。まぁ常連さんってやつだね。その度にこのボケナスから、めっちゃ嫌な顔されるけど関係ないね。アタシはお客様、つまり神様。ゴッドなのだから。

 あ、嘘嘘。魔女です。決して横暴な態度とかしてません。


「まぁ、お前のことなんざ、どうでもいいけどよ。迷惑だけはかけんなよ」

「は? どういう意味?」

「留年とかすんなって言ってんだよ」

「そ、そこまでバカじゃないし!」


 いやまぁ確かにね。いつも赤点ギリギリですよ。でも、まだ一回も赤点は取ったことないから。低空飛行のスレスレで持ち堪えているんですから!


「ならいいけど。不本意かつ屈辱なんだが、お前は一応俺の許嫁なんだから、恥じかかすようなことはするなよ」

「言い方どうにかなんないの? 喧嘩売ってんの? ぶちのめすよ」


 よくもまぁそんなに、悪口が出てくるもんだね。魔法の影響とか関係なしに、デフォルトで口悪いでしょ、こいつ。最早一種の才能だよ。悪口系YouTuberにでもなったら? いけるよ、チャンネル登録者百万人。金の盾ゲットしちゃえよ。


「後あれだ」

「まだ何かあるの?」

「お前には俺の魔力を抜くっていう大事な仕事があるだから、その……自由気ままな放浪の旅とかだけはやめてくれ」


 ほう……。ほうほう。

 ボケナスにしては珍しく嬉しいこと言ってくれるじゃん。言い方はちょっとムカつくけど……まぁ細かいことはいい。

 ただ、ここで素直に嬉しがるわけにはいかない。本当は飛び上がって喜びたいところだけど我慢だ。だってアタシはボケナスのことを嫌ってなくちゃいけないからだ。、分かってる自分がアホなことくらい。だから煽ってやることにしよう。それが今のアタシらしい。


「へぇ〜。つまり、アタシが近くにいて欲しいってことかぁ。可愛いところあるじゃん」

「違ぇよ。ぶっ殺すぞ、クソメガネ魔女」

「メガネは関係ないでしょ! てかクソ言うな!」


 やっぱ前言撤回! 本当に可愛くない!

 それとメガネをバカにすることは許さん。いいじゃんメガネ。めっちゃ可愛いじゃん。メガネ女子こそ最強。それが分かってないなんて、まじで見る目ない。ラブコメ漫画読み込んで出直してこい。

 そんでもって、アタシは誰よりもメガネが似合っているの。つまりアタシが史上最高に世界一可愛い。


「うへへっ、うひひ、ひひっ」

「うっわ……きっしょ」

「うるさい。黙れ」

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