第12話 魔女の落とし前

 吸血鬼の魔力を辿って転移した先は、どこかの家の中だった。ここはリビングっぽいね。ありゃりゃ、ちょっと悪いことしちゃったなぁ。アタシ土足だわ。

 リビングに居たのは三人。大人の男性と女性が一人ずつと、子供の女の子が一人。見た感じ親子ってところかな。


「見つけた」


 間違いない。昨日今日とボケナスと一緒にいた子だ。魔力も一致している。


「だ、誰だお前は!」

「悪いけど、あなたには用はないから、ちょっと眠ってて」


 父親らしき人が、アタシに向かって来たけど、睡眠魔法ですぐさま寝かせる。同時に母親らしき人にも同じ魔法をかける。そして、記憶改ざん魔法で、二人からアタシの記憶を消し去る。


「さて……」

「うぐっ!」


 はなかっから逃がす気はないけと、念にはねんをだ。アタシは女の子に拘束魔法をかけて身動きを完全に封じる。


「場所、変えよっか」


 転移魔法でホワイトルームに移動する。ここなら、誰にも邪魔されずに済む。例え、何があってもね。


「かなりむちゃくちゃするね。姫乃ひめのお姉ちゃん」

「何で、アタシの名前知ってるのかな?」

「にひひ。何でだと思う?」

「あうっ!」


 ニヤリと意味ありげに笑う少女。アタシを試している、そんな感じの笑みだ。

 気に入らないなぁ……。この子、自分の立場理解出来てないのかな? それともアタシのこと舐めてるのかな?

 たかが吸血鬼の分際で、それもこんな子供のくせに……。

 アタシは重力魔法をかけて地面に押し潰す。


「答えて。何でアタシの名前知ってるの?」

「ち、血の……記憶を、読んだ……から」

「血の記憶?」

「きゅ、吸血鬼は……吸血すると……、吸血した人の記憶を、読むことが出来るの……」


 なるほどね。だから、アタシの名前を知ったわけか。


「こ、答えたんだから……これ、何とかしてよ……。く、苦しいから……」

「まぁいいか」


 重力魔法と拘束魔法を解除して、少女を一旦自由にする。どうせ、ここにいる限りどう頑張っても逃げられないんだし、無駄に魔力を使う必要もないしね。


「はぁ……はぁ……」

「さて、まずはあなたの名前を教えてくれないかな?」

「あ、アヤメ……。千早アヤメ」

「じゃあさ、アヤメちゃん。どうやって死にたい?」

「……え?」


 アタシがそう言うと、アヤメちゃんの表情が変わった。さっきまでは、どこか余裕のある顔をしていたけど、今は戸惑いや恐怖といった感じの表情だ。


「落とし前だよ。落とし前。アタシはそのために来たんだから」

「ちょ、ちょっと、待ってよ……。ほ、本気で言っての……?」

「もちろん」


 だってアタシの大切な人に手を出しうえに、殺しかけたんだから。そのくらい当たり前のことだよね。


「ま、待ってよ!」

「何?」

「わ、私、知ってるよ。そ、総司そうじに――あぐっ!」

「勝手にボケナスの名前呼ぶな。ガキ」


 初めにかけたのより少し強めに重力魔法をかけて、アヤメちゃんを押し潰す。


「う、うぅ……」

「このくらい平気でしょ? 吸血鬼だもんね」


 吸血鬼は人より、何倍も強靭で頑丈な肉体を持っている。それに、今のアヤメちゃんは生き血を吸ったあとだ。肉体は活性化していて再生能力も高くなってる。多分、溶鉱炉にぶち込んでも一時間は死なないはずだ。

 でもまぁ、それでも苦しいものは苦しいし、痛いものは痛いらしいんだけどね。どうでもいいけど。


「それで? アヤメちゃんは、ボケナスの何を知ってるのかな?」

「ま、魔法……お、お兄ちゃんの……中に、かかってる……魔法……その、秘密……」

「ふぅん。聞こうか」


 これはちょっと以外だったね。まさか、ボケナスの中にあるあれに気付くなんて。あんまり期待はしてないけど、もしかしたら有益な情報を持ってるかもしれないし、一応話だけは聞いてみようかな。

 そう思って、アタシは重力魔法を解除する。


「それで?」

「お兄ちゃんの中に、三本の鎖があった」

「三本? それ本当なの?」

「うん……」


 つまり、あれを解除するには、三つの何かをしないといけないってことか。

 これは思いがけない収穫だ。勝手に一つだと思い込んでいた。


「他には?」

「今はそれだけ。で、でも! もっと血を吸えば、もっと色々なことが分かるよ」

「は?」


 影魔法で首を締め上げて、そのまま足が少し浮くくらいまで吊るし上げる。


「何寝ぼけたこと言ってんの? 何でまだボケナスの血を吸えると思ってんの?」

「ち、違っ……」

「何が違うの?」

「か、く……」


 いったい何を勘違いしてるのかな? はぁイライラするなぁ。このまま絞め殺してしまおうか?

 いや……ちょっと待ってよ。さっき血を吸えばもっと分かるって言ってなかった?


「ねぇ、血を吸えば分かるって何?」

「血の……記憶……。血は……、情報……。それを見れば、呪いや……魔法の……本質が分かる……」


 なるほど。だから、ボケナスにかかっている魔法が分かったんだね。それに、アタシが知らなかったことまで。

 これは、使えるかもしれない。いや、確実に使える。よし。

 影魔法を解除して、アヤメちゃんを地面に落とす。


「はぁ……はぁ……」

「アヤメちゃん。取り引きしよっか」

「と、取り引き……?」

「ボケナスの血を吸ったことを許してあげるよ。その代わり、今日からアヤメちゃんはアタシの使い魔にならない?」

「使い魔になったら……どうなるの?」

「ボケナスの血を吸うことを許してあげる。ただし、血の記憶だっけ? それで分かったことを何一つ包み隠さず、嘘偽りなく、どんな小さなことでも全てアタシに話すこと。それが約束出来るなら、殺さないでいてあげるよ」


 ははっ、自分で言ってて理不尽極まりないね。これのどこが取り引きなんだか。誰がどう聞いたって脅しだ。それもこんな子供相手に。大人げないを通り越して外道だね。

 でもまぁ、そんなことはどうでもいい。アタシは……ボケナスにかかった魔法を解くためなら、どんな手段でも使ってやる。


「どうする?」

「わ、分かった……。なる……なるよ」

「うん。話が分かる子でよかったよ」


 アタシは、アヤメちゃんの首筋に触れて魔力を注ぐ。すると、淡くピンク色に光る花びらの紋様が刻まれた。


「こ、これは?」

「まぁ、アタシの使い魔になった証かな。あ、すぐに消えて見えなくなるから安心していいよ」


 そう言ってる間に、アヤメちゃんの首筋にあった紋様は消えて見えなくなる。うん。しっかりとなったみたいだね。


「いい? 今、アタシとアヤメちゃんの魔力は繋がってるの。だから、アヤメちゃんがどこにいても、アタシはアヤメちゃんの場所が分かる。この意味、分かるよね?」

「に、逃げられないってこと……だよね?」

「その通り。あ、でも、常に見張ってるわけじゃないから。万が一アヤメちゃんが逃げた時にしか使わないって約束するから。まぁ、もし逃げたら殺すからそのつもりで」

「分かった……」

「それと、アタシと念話とか魔力の貸し借りとか、色々出来るようにしといたよ」


 これは、モナにも同じのをかけてある。使い魔を守るのは、ご主人の大事な責任だからね。


「まぁ、そういうことだからさ。これからよろしくね。アヤメちゃん」

「うん……よろしく、お願いします……」

「敬語じゃなくていいよ。アタシのことも気軽にお姉ちゃんって呼んで」

「分かった」


 モナもアタシのことを、ヒメノって呼び捨てにするし、敬語なんて全く使わないしね。だからそこは平等にいこう。まぁ流石に、園児に呼び捨てにされるってのは、ちょっとムカつくからお姉ちゃん呼びだけど。


「そうだ。二つだけ覚えておいて」

「何?」

「まず一つ目」

「うわあぁぁぁーー!!」


 雷魔法。約一万ボルトくらいの落雷をアヤメちゃんに落とす。


「いい? アタシが上でアヤメちゃんが下。この上下関係をしっかりと理解すること」


 アタシはそう言ってから、治癒魔法を使ってアヤメちゃんの体を治療する。アタシが付けた傷や元々あった傷など治せるものは、全部綺麗に治す。


「二つ目」


 急に治った傷に戸惑っているアヤメちゃんに近付いて、恐怖で怯えきってるアヤメちゃんの顎を掴んで、クイッと無理矢理アタシの方を向かせる。


「この世にはね。アタシのように可愛い魔女とか、研究にしか興味のない魔女とか、危険な魔法を使って喜んでいる頭のネジがぶっ飛んでいる魔女とか色々いるんだけどね。共通して言えることがあるの。分かる?」


 涙を流しながら、 アヤメちゃんはフルフルと首を横に振る。


「それはね。怒らせたらとっても怖いってこと」


 アタシは笑顔でそう言って、アヤメちゃんの顎を離す。


「だからね。もう、怒らせちゃダメだよ」

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