第11話 使い魔として
「
「おう」
「って、お前まだ裸なのかよ……。服着ろよ」
「ん? おぉ……」
そういや裸のままだったわ。
ちっ……あのクソアマ。人の服を台無しにしやがって。あとで服代請求してやるからな。
「体調は大丈夫か?」
「一応な」
「花咲に感謝だな」
「不本意ながらな……」
まぁ確かに今回は助かった。あのままじゃ、やばかったもんな。
「ねぇ総司君」
「ん?」
「今回の件。何か心当たりないの?」
「まぁ……あるには、あるな」
俺の体調が悪くなったのは昨日の夜から。そんでもって、何か特別なことをしたかというと、思い当たるのは一つしかない。アヤメに血を吸わせたことくらいだ。
多分、原因はあれだろうな。
「それ、私達にも話して」
「断る」
「……何で?」
「約束があるからだ」
アヤメが吸血鬼だってのは、秘密にする約束だ。つまり、アヤメに血を吸われたことを話すことは出来ない。
「ふざけないでよ。誰との約束だか知らないけど、そんなこと言ってる時じゃないでしょ!」
「総司。俺も
「……悪いな、
翔達が、吸血鬼のアヤメを差別するとは全く思ってない。だけど、アヤメの事情を俺が勝手に話すわけにはいかない。
「あっそ。じゃあいい」
黒川はそう言うと、ポケットから黒い何かを取り出した。
「いって!」
黒川はそれを持ったまま、大きく振りかぶって、頭を思いっきりぶん殴ってきた。
「な、何すんだよ!」
「うるさいな。総司が悪いんだからね」
いや、確かに話さなかった俺も悪いと思うけどさ、だからって何かよく分からない物でぶん殴るか普通? めっちゃ痛かったんだぞ。絶対にコブになってるからな!
「え、えっと……百合? お前、何したの?」
「総司の記憶を抜いた」
「は? どういうことだ?」
「これ、私が作った魔法具」
ちょっと待て。俺を殴ったやつって、魔法具だったのかよ。
「USBメモリ? 何か、二人で一人の探偵が変身の時に使うあれみたいだな」
「まぁ、それっぽく作ったからね」
あぁ……通りで。やたら既視感あると思ったわ。そういやお前、あれ好きだったもんな。
「って、俺の記憶を抜いたってどういうことだよ」
「これを頭にぶっ刺すと、相手の記憶を読み取れるのよ」
おいおい……とんでもねぇな。なんちゅーもん作ってんだよ。
いや、ちょっと待てよ。ってことは……アヤメのことが筒抜けじゃねぇか!
「おい、黒川! そいつを返せ!」
「は? 返すわけないでしょ。てか、これは私のだし」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ!」
「そんなの分かってるわよ。バカじゃないの?」
「お、おま……」
「とにかく、記憶見せてもらうから」
「ふっざけんな!」
黒川から魔法具を奪い取ろうとしたが、黒川はそれを読んでいたらしく、すっと俺を躱して自分の頭に魔法具を突き立てる。
クソが。間に合わなかったか。
「くっ……」
「お、おい。百合大丈夫か?」
「うん、大丈夫。記憶が一気に流れてきたから、ちょっとクラっとしただけ……」
「それで? 分かったのか?」
「うん。昨日総司がギャル乱交で、一人エッチしてた」
「ちょ、は!?」
何てこと言うんだ!
いや、確かにしたけどね! 今、それを言うことなくない!?
つーか、そんなことまで分かっちゃうの!?
「タイトルは……」
「すいません。本当に勘弁して下さい……」
「うっわ、土下座とかウケる。まぁタイトルは内緒にしてあげるよ」
ち、ちくしょう……。この悪魔、イカレマッドサイエンティストめ……。
「えっと……どんまい、総司」
うるせぇよ。ちくしょう。
「まぁそんなことよりも。総司、あんた吸血鬼に血を吸わせたんだね」
「あぁ……」
「にゃるほど。そういうことだったのかにゃ」
「モナちゃん。吸血鬼について知ってること教えてくれないかな?」
「ワガハイもそんなに詳しくはないにゃ。知ってることといえば、魔女と同じように魔力を持ってることくらいにゃ。恐らく、ソージは吸血された時にその吸血鬼の魔力を取り込んでしまったってとこにゃ」
モナがそう言うんだったら、やっぱり間違いないか。この手の話は、俺よりモナの方がよっぽど詳しいしな。
「ソージ。にゃんでそんなことしたにゃ」
「知らなかったんだよ。吸血されると魔力が流れてくるなんてさ」
「土曜日の時点ではでしょ。でも今日は違う。分かったうえで吸血させた」
「…………」
「何で?」
「記憶読んだんじゃねぇのかよ」
「記憶は読めても、考えは分からないのよ。だから聞かせて」
「魔力を取り込んじまうから、ダメだって断ったら可哀想だろ」
「可哀想って……それで総司が死にかけてどうすんのよ!」
「そこは……悪かったよ。たった二回の吸血でこんなになるとは思わなかったんだよ」
吸血がこんなに危険な行為だったとは思わなかった。
「私に謝ってんじゃないわよ。謝るべき相手は
「……」
「気付いてる? 姫乃、焦り過ぎてあんたのこと、総司って名前で呼んだんだよ。その意味分かってんの!」
確かにそうだったな。
あいつに名前で呼ばれたのは、いつぶりだろうか? 少なくとも、十年近くは呼ばれてない気がするな。
「だから何だってんだよ」
「は?」
「確かに心配かけた。あいつも焦ってたのは見てれば分かった。でも、だから何だよ?」
名前を呼んだ? 知るかよ、そんなの。
「助けられたのは感謝してる。ただそれだけだ。俺があいつのこと嫌いなのは変わらない」
「おい、総司! そういうことじゃないだろ!」
「翔まで何だよ」
何こいつら、こんなに怒ってんだよ。俺があいつのこと嫌いで、あいつが俺のこと嫌いなのはみんな知ってることだろ。それを何を今さら。
「ふっざけないでよ! 姫乃は……姫乃は! あんたのために、自分に――」
「ユリ。ストップにゃ。それ以上言うのは、ワガハイが許さないにゃ」
「……ごめん。モナちゃん……」
「ソージ。お前の事情は知ってるにゃ。でもにゃヒメノにも色々あるにゃ。だから、今回はヒメノにお礼くらい言ってやれにゃ。どうせ、言ってにゃいんだろ?」
「……分かったよ」
まぁ……いくら嫌ってても、命を助けてもらったのに、お礼も言わないのは、人としてやばいか。
「この話は終わりにゃ」
「そういや、クソアマはどうしたんだ?」
「落とし前を付けに行ったにゃ。吸血鬼に」
「なっ!?」
落とし前って……あのクソアマ。アヤメに何かする気じゃないだろうな。
ちっ、こうしちゃいられねぇ。すぐに行かないと。
「悪いけど、行かせないにゃ」
「どういうことだ?」
「そのまんまの意味にゃ。大人しくてるにゃ」
っ!
この圧……モナのやつ本気かよ……。
モナは基本的には普通の黒猫だ。ただし、魔女の使い魔だ。普通じゃないところもある。こうして会話が出来るように、特別な力がある。
その一つが、狂化。戦闘モードみたいなものだ。こうなっちまったら、熊だろうがライオンだろうが、一方的にぶっ飛ばしてしまうくらい強い。ただの人間の俺には、どうやっても勝てない。
「ヒメノにお願いされたにゃ。だから、ヒメノが戻って来るまで大人しくしてるにゃ」
「モナ……」
「悪いけどにゃ、これは友人としてではにゃく、ヒメノの使い魔として言ってるにゃ」
「……」
こりゃまじだな……。
もし、俺が強引にでも行こうとしたら、モナは容赦なく俺を攻撃してくるだろうな。殺しはしないだろうけど、ただでは済まないだろう。
「あの吸血鬼のことをどうするかは、ヒメノが決めるにゃ。それに黙って従うにゃ」
「……」
「安心しろにゃ。殺したりはしないはずにゃ」
「分かった。今はそれを信じる……」
「よかったにゃ。ワガハイもソージのことは攻撃したくにゃいにゃ」
ちくしょう……。
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