第10話 魔女、怒る

「それじゃ、お疲れ様でした」

「はい。お疲れ様でした。よかったらまた来てくださいね」

「はい。是非」


 二日間の保育園ボランティアが終わって、アタシ達は園長先生に軽く挨拶をしてから、保育園をあとにした。


「いやぁ、結構楽しかったな」

「そうだね。高木君とか子供達にめっちゃ人気だったじゃん」

「いやいや、花咲と百合ゆりには負けるよ」

「そりゃそうでしょ。だって私と姫乃ひめのは、マジカルパワーを使ったんだからね」


 アタシの魔法や百合の魔法具は、子供達にウケた。アタシより百合の方が子供を集めてたかな。やっぱり、変身の真似事が出来るのはすごいね。アタシもちょっとやってみたかったもん。


総司そうじも楽しかったろ?」

「……ん? あ、あぁ……そうだな」

「どうした? 何か元気ない?」


 確かにボケナスの様子がおかしい。体調が悪そうだ。そういえば、今日は朝から元気がなかった気がする。


「何でも……ねぇよ……」

「いや、何でもなくはないでしょ。総司君、顔色悪いよ」

「気の……せいだ……」

「ちょ、おい。総司!?」


 ぐらりとよろけて、倒れそうになるボケナスを高木君が慌てて支える。


「お前……すげぇ熱じゃねぇかよ」

「え?」


 本当だ。すごい熱。正確な体温は分からないけど、多分三十九度は超えてる。

 それに……。


「体に魔力が溜まってる……」


 何で? ついこの間抜いたばかりなのに。いや、それよりもこの量はやばい。いくら総司が魔力を溜め込む体質だからって、これは限界スレスレだ。

 ダメだ。考えている暇はない。今は一刻を争う。


「転移!」


 なりふり構わず、アタシは転移魔法を使って家まで飛ぶ。百合と高木君には申し訳ないけど、一緒に来てもらった。人物指定をして転移するより、まとめて転移した方が早いからだ。


「ごめん、高木君。総司をベットに寝かせて!」

「わ、分かった!」


 ベットに寝かせられた総司の顔に触って、改めて状態を確認する。

 うん。やっぱり酷いなこれ。


「お、おい……何してんだ、てめぇ……」

「うるさい。黙ってて」

「ちっ……」


 悪いけど、今は総司の文句なんて聞いている暇はない。


「今から魔力を抜くから。大人しくしてて」


 服を脱がせている時間がもったいないから、魔法で衣服を破壊して、総司の上半身を裸にする。そのあと自分の上着を脱ぎ捨てて、下着だけになる。


「翔はこっちに来る!」

「あ、はい」

「姫乃。私達は外で待ってるからね」

「うん。ありがとう、百合」


 アタシは寝ている総司に覆いかぶさって、出来るだけ全身をくっつける。

 本来、魔力を抜く時は体の一部に触れているだけでいいんだけど、今回はそれじゃ間に合わない。魔力を抜く範囲を広く、迅速にしなくちゃいけない。


「くっ……」


 流石に……この量は、アタシでもちょっとキツいかな。これが魔力酔いってやつか。視界が少しぐらついて気持ち悪い。


「……おい」

「黙っててって言ったでしょ」

「ちっ……」


 ったく、ちっじゃないっての。まぁこれもアタシがかけちゃった魔法の影響なんだろうけど。

 それにしても……この魔力はなんだろう?

 明らかにいつもと違う。自然にある魔力とは全く別物だ。となると……アタシのように魔力を持ってる人から取り込んだってことになる。

 でも誰から? 魔女ではないのは確実だ。もし魔女だったら、アタシが気が付かないはずないし。魔女以外となると……何だろ? しまったなぁ。確かお母さんが、魔女以外にも魔力を持ってる生き物がいるって言ってたけど、覚えてないや。もっと真面目に話聞いとくんだった。

 仕方ない。ダメ元で直接聞いてみるか。


「ねぇ」

「何だよ」

「あんた、誰から魔力を取り込んだの?」

「てめぇには関係ないだろ」

「関係あるでしょ。死にかけたんだよ」

「ちっ……うるせぇよ」

「答える気はないんだ」

「ねぇな」

「あっそ……」


 ムカつく……! いくらなんでも、この態度はないんじゃないの! もうちょっと言い方ってのがあるじゃん!

 魔法の影響があるとはいえ、今のは流石に頭にきた。

 どっちにしろ、これに関しては原因を突き止めない。

 だから、総司の口から直接聞ければよかったんだけど、話す気がないうえにこの態度なんだったらアタシも手段は選ばない。

 意識を集中させて魔力の出処を追跡する。魔力はDNAのようなものだ。物質にしろ生物にしろ同じ魔力は絶対にない。どこからし違いがある。だったら、それを解析して誰の魔力か分かれば、あとは簡単に見つけられる。


「……見つけた」


 なるほど。そういうことね。

 冷静に考えてみれば簡単なことだった。この二日間、総司がアタシ達以外で会ってる人なんて限られていた。


「終わり。体に溜まった魔力は全部抜いたから。でも今日は、一応安静にしてること」

「分かったよ」

「じゃ、アタシは行くから」


 ――――

 ――


「あ、終わったの?」

「うん。もう大丈夫」

「ふぅ。よかったぜ……」

「二人ともありがとね」


 リビングで待っていた二人に、魔力を抜いて総司が無事なことを伝えると、安心したように言った。

 二人から事情を聞いたのだろうモナも、ふーっと大きく息をはく。


「それで? 原因は分かったのかにゃ?」

「うん。だから今から行ってくる」

「一人で平気かにゃ?」

「大丈夫だよ。むしろ、一人の方がいいかな……」


 正直言って、アタシはかなり怒ってる。あいつ……こうなることが分かっていて、やったんだからね。

 だから……それなりの対応をさせてもらう。そうなると、百合達は邪魔だ。


「モナ。悪いけど、私が戻って来るまで、総司のことお願いね」

「ヒメノ……お前」

「うん?」

「……いや、にゃんでもないにゃ」

「ありがとう。二人もゆっくりしていっていいから」

「う、うん」

「わ、分かった」

「それじゃ、行ってくるね」


 さて。落とし前を付けに行こうか。

 転移……。

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