第9話 保育園の美少女ちゃん

「なぁ、少女」

「少女じゃない。美少女」

「……なぁ、美少女」

「なぁに? お兄ちゃん」

「さっきからずっと、アリの観察して楽しいか?」

「う〜ん。普通?」


 土曜日。俺らは保育園のボランティアに来ていた。

 やることは、午前中は適当に子供達と遊んで、一緒にお昼ご飯を食べて解散という感じだ。

 んで、そんな中俺は、黒髪ロングの美少女ちゃんと三十分ほど、花壇の周りにいるアリの観察をしていた。


「他の子と遊ばなくていいのか? ほら、あの辺とか楽しそうじゃん」


 ジャングルジムの前で、黒川が作った魔法具で遊んでいる、ちびっ子達の集団を指さす。

 服装を自由に変えられる魔法具を使って、スーパーな戦隊や仮面のライダー、プリティでキュアキュアの魔法少女になりきって、楽しそうに遊んでいる。


「私はあーゆう子供っぽいのは、趣味に合わないの」

「子供のくせに何言ってんだか……」

「お兄ちゃん、うるさい」

「へいへい」


 まぁお気に召さないのなら仕方ない。でもいいな、あれ。普通に楽しそうだ。俺も体質がなければ絶対に使って遊んでいたんだけどなぁ。


「んじゃあれは?」


 今度は、かけるの方を勧めてみる。翔は活発系のちびっ子達と全力鬼ごっこをしている。あいつ、手加減無用で本気でちびっ子を追っかけて逃げてやがる。大人気ないな、おい。


「疲れるからやだ」

「まぁ確かに」


 あれは俺もちょっと嫌だわ。

 ちびっ子達も、翔に勝とうとかなり本気になってるし。遊びってより、ガチ感が強いんだよな。


「あれは?」


 一応クソアマの方を勧めてみる。

 あいつは、魔法で雲を乗れるように固めて、軽く空を飛んで遊んでいる。

 つか、あれ大丈夫なのか? 万が一にでも落ちたら大変なことになるぞ。


「私、高いとこ怖いから無理」

「お? 意外と可愛いとこあるんだな」

「うわ、うざぁ」

「傷つくなぁ」


 いや、ほんとにまじで。

 ちびっ子でも意外とダメージあるなこれ。ほんのちょっと胸が締め付けられちゃったよ。


「それに……」

「ん?」

「あの人、何か嫌だ」

「ほう。ちょっと詳しく聞かせてくれよ」

「う〜ん、なんて言うのかなぁ。滲み出るうざさが気に入らない」

「よく分かってるじゃないか。見る目あるじゃん」


 そうなんだよな。あのクソアマ。存在がクソうざいんだよな。

 まさか共感してくれる子がいるなんて思わなかったぜ。この子はきっと大物になる。俺が保証するわ。


「お兄ちゃんって、あの人のこと嫌いなの?」

「あぁ嫌いだな。多分、世界で一番」

「ふーん」


 って、俺はちびっ子相手に何言ってんだよ……。ここは嘘でもそんなことないよって言うべきだったな。

 ほら、みんな仲良くしましょうねぇ〜みたいな、クソ風習があるんだし。

 いや、待てよ。そんなクソ風習だからこそ、ここは本当のことを言うのが、出来た大人なのではないだろうか? うん、そうに違いない。つまり俺は間違ってない。よし。


「それじゃ、他の友達と遊んできたらどうだ?」


 ほとんどは、翔達と一緒に遊んでいるけど、何人かは、我関せず的な感じの子もちらほらいる。


「……私、友達いないから」

「そっか。なら仕方ないな」

「それだけ?」

「何が?」

「だって。私がこう言うと、大人達は揃って友達作った方がいいって言うんだもん」


 あぁなるほどな。


「まぁ確かに友達はいるに越したことはないな。でもまぁ、無理に作るもんじゃない」

「お兄ちゃんも友達いないの?」

「バカにするなよ。ちゃんといるぞ。ほら、あそこの赤髪リーゼントとマッドサイエンティストだ」

「あれ、友達だったんだ」

「あれ言うなよ。一応いいやつらなんだぞ」

「一応なんだ……」


 まぁ一応だな。翔は、時間にルーズだし適当だしバカだしリーゼントなんだが、まぁ悪いやつではないからな。黒川は、魔法具が関わらなければ、基本的には常識人だしな。


「むぅ……」

「急にむくれっ面してどした?」

「裏切り者。ずるい」

「何でだよ……」

「だって、ぼっちだと思ってたお兄ちゃんに友達がいたんだもん」

「勝手にぼっちにするなよ。失礼なちびっ子だな」


 まぁ確かにね? 友達が多そうな見た目はしてないけどさ。でもよ、ぼっち判定はどうかと思うぜ?


「そのちびっ子ってのやめて」

「んじゃあ……ジャリガール?」

「もっと嫌なんだけど!」

「我儘だなぁ」

「私が悪いの!?」


 ジャリガール、いいと思うけどなぁ。ほら、長年旅をしている主人公一味みたいじゃん。


「普通に名前で呼んでよ」

「俺、お前の名前知らんぞ」

「……め」

「ん?」

「アヤメ。千早ちはやアヤメ」

「アヤメか。俺は斎藤総司さいとう そうじだ」

「総司ね。分かった」

「呼び捨てかよ」


 まぁいいけどさ。

 このくらいの子は、ちょっと生意気なくらいが可愛げがあっていいし。


「じゃあ総司」

「うん?」

「私がともじゃち」


 お、噛んだ。


「大丈夫大丈夫〜。まだいけるよ。リベンジリベンジ」

「……友達になっちぇ」

「諦めるな。諦めない心!」

「ちょもだちに……くそが!」


 くそが頂きました。ありがとうございます。年相応に可愛かったですよ。もうご馳走様って感じっすわ。


「むぅ〜」

「まぁまぁ。そんなむくれるなって。ほら、落ち着いてもう一回言ってみ?」

「すぅ〜、はぁ〜。よし。総司」

「ん?」

「私が友達になってあげてもいいよ」

「おっと? まさかの上からくる感じ?」


 あんだけ噛んでたのに、中々の強メンタルだな。ちょっと尊敬しちゃうよ。


「いいでしょ別に。それにこんな美少女が友達になってあげるって言ってんだよ。泣いて喜ぶところでしょ」

「美少女ねぇ……」


 まぁ確かに顔立ちはいいし、数年後には美少女になってるだろうな。でも、今はただの幼女だもんなぁ。


「何よ」

「んにゃ。何でもないよ」

「それで? どうなのさ」

「あぁ。ありがたく友達にならせてもらいますよ。よろしくな、アヤメ」

「うん。よろしくしてあげる、総司」


 やれやれ……よろしくしてあげるって、本当に生意気なやっちゃなぁ。まぁいいか。


「じゃあ、友達になった総司に私の秘密教えてあげる」

「秘密?」

「うん。でも、誰にも言わないでね」

「分かったよ」


 アヤメはそう言って、口の口角に指をかけ、横にグイッと引っ張り白い歯を見せてきた。歯並びが良くて虫歯一つない綺麗な歯だ。でも、一つ気になったのが、八重歯のところが異様に鋭くて、牙のようになっていること。


「にひひっ。びっくりした?」

「ちょっとな。まさか、吸血鬼だったなんてな」


 母さんにこの世には色々な種族の生物がいるって、聞いたことはあったけど、実際に見るのは初めてだ。意外と近くにいるもんなんだな。


「私が他の子達と仲良くしなかった理由、分かってくれた?」

「まぁ何となくはな」


 言い方は悪いが、魔女と違って吸血鬼みたいな種族は人外だ。少なからず差別をするやつらはいる。だから、生きづらい思いをしてるらし。


「でもいいのか? 俺に秘密を打ち明けて」

「だって総司も普通じゃないでしょ? 魔力を溜め込んじゃう体質でしょ?」

「気付いていたのか?」

「まぁね。吸血鬼は魔力感知が得意だからね」

「なるほどな」


 確か吸血鬼も魔力を操るんだったか。魔女と違って魔法とはまた別のやつらしいけど、俺は詳しく知らない。


「ま、アヤメが何者でも俺は特に気にしないから安心しろよ」

「にひひ。総司ならそう言ってくれると思ってたよ」

「期待に応えられてよかったよ」

「それでね。友達の総司に一つお願いがあるんだよね」

「何だよ?」

「私、お腹空いちゃった」


 つまり、俺の血を吸わせろってことか。


「輸血パックとかないのか?」

「あるけど、あれ新鮮さがないし、あんまり美味しくないんだよね」

「ふ〜ん」


 新鮮さは分からんでもないけど、血に美味しいとかあるんだ。どう違うかちょっと気になるな。


「魔力持ちの血は美味しいんだよね。だからね、お願い総司」

「分かったよ」

「あ、いいんだ」

「いや、お前から言ってきたんじゃん」

「まぁそうだけどさ。嫌がるかなぁって思って」


 まぁ若干怖い気持ちはあるけどな。俺、こう見えて注射苦手なんだよね。


「とにかく、ほら。気が変わらないうちにさっさと吸っちまえ」

「うん。ありがとう」


 アヤメは嬉しそうにしながら、俺の腕に牙を立てて、ちゅーちゅーと血を吸っていく。てか、これ今思ったど、どんぐらい吸われるんだろう? 貧血でぶっ倒れたりしないよな?


「うんうん。やっぱり思った通り美味しいよ。総司」

「そりゃよかったよ」

「もうちょい吸うね」

「お好きにどうぞ」


 やれやれ。奇妙な友達が出来ちゃったなぁ。

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