第8話 魔女は空で語る

「んで? どうすんの、姫乃ひめの?」

「どうするって何が?」


 無駄に長くて色々とあったホームルームごようやく終わって、アタシは箒に百合ゆりを乗せて空を飛んで帰っていた。


「いや、決まってるでしょ。保育園のボランティアのこと」

「あー……」


 そのことかぁ。

 しじみ先生ってば、とんでもない爆弾を投下してくれたもんだよ。


「どうしようね……」

「ま、総司そうじ君は、すごく嫌そうにしてたけど」

「そんなの分かってるよ……」


 分かってるよ。ボケナスがアタシのことを嫌ってるのは。でもさ、あれは流石に言い過ぎじゃないかな? あの時、ちょっと泣きそうだったもん。


「姫乃も、何であそこで言い返しちゃうかな」

「だって仕方ないじゃん。アタシもボケナスのこと嫌いだもん……」

「……嘘つきだねぇ」


 嘘つき、か。まぁ間違ってないね。

 嘘という魔法を自分にかけたアタシにとってはピッタリの言葉だ。


「ま、聞いといてなんだけどさ。頑張りなよ」

「他人事だなぁ」

「他人事だからね」


 と言ってもまぁ、どう足掻いたところで、今のアタシはボケナスに嫌われる運命だ。いつも通り。いつも通り……嫌われて嫌えばいいだけの話だ。

 それにしても……あれだね。百合に言われっぱなしというか、こうも言いたい放題言われるのは面白くないね。

 そうだ。ここは少しくらい仕返しがてら、からかってみようかな。


「百合は? 高木君とは最近どうなの?」

「ん〜? 昨日セックスしたよ」

「へぇ、セックスしたんだ。ふぇ!? せ、せせセックス!?」

「うわわっ! ちょっと姫乃危ないって!」

「あ、ああ、ごめん」


 びっくりした。びっくりし過ぎて、魔力コントロールが少し乱れて、箒がぐらっと大きく揺れちゃった。

 しかし、なってこった……。予想の斜め上を行くとんでもない返しがきたよ……。

 え? てか、百合と高木君ってそんな関係だったの?


「えっとさ、百合? 高木君と付き合ってるの?」

「ううん。付き合ってないよ」

「付き合ってないのにセックスしたの!?」

「うん」


 いや、嘘……。え、まじで?


「あのさ、どういう関係なの?」

「どうって。普通に友達だよ」

「いやいや、それは無理があるでしょ……」


 だってセックスだよ。男女間の行為で最高レベルのやつだよ。それを友達の関係ではやらないでしょうよ。


「あー、あれだよ。セフレだよセフレ。セックスフレンド」

「せ、セックス……フレンド……」


 な、なるほど……。確かにそんな言葉がありましたね。はい。

 いや、でもさ。えぇ……。


「一応言っとくけど、私、ちゃんとかけるのこと好きだよ」

「それは疑ってないけどさ。じゃあ何で付き合ってないのさ」

「まぁ……お互いに待ちっていうか、睨み合いの状態ってとこかな?」

「は、はぁ?」


 え、いや、どういうこと? 本当に意味が分からないんだけど……。

 何? 百合と高木君は戦いでもしてるの?


「ははぁ〜ん。姫乃には分からないかぁ。そうだよねぇ。姫乃はまだまだお子ちゃまだもんねぇ」

「振り落とすよ」

「ご、ごめんって……。冗談だからそんな怖い顔しないでよ……」


 ほほう。百合にしては珍しく焦ってるねぇ。まぁそりゃそうだよね。今は上空百メートルを飛んでるんだもんねぇ。落ちたらまずいもんねぇ。


「ひゃんっ」

「おいこら。調子に乗らないでよ。落ちる時は、道ずれにしてやるんだから」

「わ、分かったからっ。脇腹摘まないで!」


 最近はコンビニ弁当ばかりで、お腹周りがちょっとあれなんだから。


「まぁいいや。そうだねぇ……多分ってか、確実に翔は私のこと好きだね。うん」

「言い切っちゃうんだ」

「そりゃあね。翔のことは、私が一番知ってるから」


 そりゃすごいね。アタシなんて、ボケナスのこと未だによく分からないのに。まぁ、まともに何年も話してないから当然なんだけどさ。


「それでさ、ほら。先に惚れた方が負けって言葉があるじゃん?」

「あぁうん。あるね」

「つまりそういうことなんだよ」

「ほう……」


 なるほどなるほど。百合が言ってた睨み合いってのは、そういうことなのね。要するに主導権争いをしてるってわけか。


「でも何でまた、それでセフレになっちゃうわけ?」

「そんなの決まってんじゃん」

「分かんないってば……」

「姫乃……あんたバカ?」

「バカって言うな。んで? 何でなの?」


 ったく。百合はいちいち一言多いんだから。


「私達は十六歳の高校生。思春期真っ盛りなの。つまり、人生で一番性欲が強い時期であって、ここ掘れワンワンの如く溢れ出てくる性欲を抑えきれないのよ」

「お、おう……」

「それでもって、お互いに好き同士。そうなったらもうさ、やるしかないじゃん。セックス」


 や、やるしかないのか……。そうなんだ。

 うん、まぁね。言ってることは分からないでもない。てか、結構納得出来るかも。

 アタシだって、そういうのに興味がないって言ったら嘘になる。誰にも言えないけど、高校生のうちに経験しときたいって気持ちもある。

 まぁアタシの場合。やった相手がリアルで死んじゃうから、おいそれと出来ないんだけどね。


「あ、ちなみになんだけど。結構体の相性いいんだよね」

「いや、そこまでは聞いてないから……」

「いやいや。聞けよ、聞いてよ」

「何でよ!」

「したいの。自慢。処女の。姫乃に」

「うっざ」


 何こいつ。過去一でウザイんだけど。


「でさぁ。最近、普通のプレイに飽きてきたんだよね。マンネリ化ってやつ?」

「聞かないよ! 何でしれっと話し出してのさ!」

「でね、思ったわけよ。そろそろ新たな快楽という扉を開いてみようかなと」

「話聞いてる? 聞いてないよね?」

「それでね。姫乃的には、コスプレエッチとローションエッチ、どっちがいいと思う?」

「知るかよ! 好きにやればいいじゃん!」

「なるほど。同時にやるのね。その考えはなかったわ」

「いつそんなこと言った!?」


 ダメだこの子。頭の中がピンク色になってるよ。完全に盛りのついた猿だよ。


「ありがとう姫乃! 今度試してみるね!」

「あぁ……うん。楽しんで……」


 もうアタシは知らん。好きにやってくれ。


「安心して。感想は聞かせてあげるから!」

「いらんわ」

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