第7話 カオスなホームルーム

 さて、こので一つ問題です。

 担任の先生が激怒しています。何故でしょう?

 宿題をやってくるのを忘れたから? 授業中うるさかったから? ノンノン。その考えは浅はかですね。間違いです。

 正解は、ある一人の男子生徒が先生におばさんと言ったからでした。

 我がクラス二年三組の担任の先生、 名前は枕木しじみ。御歳三十四歳と十ヶ月。アラフォーに片足を突っ込んだ、プリプリピチピチの独身ガールだ。

 そんな、しじみ先生は毎週恒例の婚活パーティに参加し、お決まりの撃沈をくらいイライラマックスの中、愚かな男子生徒はしじみ先生に、「三十五歳はまだおばさんじゃないよ」と言ってしまいました。実に愚かです。そして失礼極まりないですね。だって、しじみ先生は三十五歳ではなく、三十四歳と十ヶ月だからです。

 そして、しじみ先生にとって、おばさんと言うワードは禁句です。NGワードなのです。

 この二つの誤ちを犯してしまった男子生徒は、空手黒帯のしじみ先生による、愛ある正拳突きを受けて、喜びのあまり悶絶しています。

 いやはや、人はこうやって成長していくのですね。勉強になります。

 まぁそんなこんなで、怒りボルテージが限界突破して、バーサーカーの如く狂喜乱舞しているしじみ先生は、かれこれ二時間ほど恨み言や愚痴などの咆哮をあげている最中です。

 ちなみに止めに来た他の先生達は、愛ある正拳突きを受けて、男子生徒同様に喜びのあまり悶絶しています。

 まさに地獄絵図ですね。面白い。


「つまりだ! 私が結婚出来ないのは、私に問題があるんじゃなくて、見る目がない男共が悪いんだ! 要するに世の中が悪い!」


 流石、しじみ先生。とんでもない暴論だ。


「ちっ……、ったくさぁ。婚活パーティだってタダじゃないだっての。さっさといい男現れろってのに」


 おやおや。これはびっくり。

 どこから取り出したのか、アサヒスーパードライのロング缶をカシュっと勢いよく空けて、一気に呷りだしたよ。しかも、すかさずセブンスターに火をつけて吸い出しちゃったよ。

 これには、教育委員会の頭の悪いお偉いさんもびっくりしてハゲちゃうね。


「まぁいい。とりあえず、本題に入るぞ」


 そういえば、まだ本題に入ってなかったな。

 とっくにホームルームは終わってる時間だけどね……。

 てか、俺はいい加減帰りたいんだけどなぁ。そろそろ十八時になりますよ?


「今週の土日、近所の保育園にボランティアに行ってもらう。人数は四人だ。メンバーはめんどくさいから、私の方で勝手に決めさせてもらったぞ。当然、拒否権はないから」


 うっわ。なにそれ、クソめんどくさいじゃん。

 頼むから選ばれてませんように。


「メンバーは、花咲、斎藤、黒川、高木だ」


 選ばれてんじゃねぇかよ……。待って、絶対に嫌なんだけど。

 てか、日曜日はプリティでキュアキュアのアニメとスーパーヒーロータイムを見なくちゃいけないという、大事な予定があるんだが。

 そして何よりも、クソアマと一緒ってのが一番嫌だ。


「先生。拒否します」

「斎藤、話聞いてなかったのか? 拒否権はないぞ」

「そもそも、何で急にボランティアなんですか!」

「あー、それはな。うちのハゲ校長とヤニカスの園長が風俗友達らしくてな。この間のソープ帰りにノリで決めたらしい」


 最低かよ。

 てか、うちの校長ハゲだったの? それじゃあ、あのふさふさの髪はズラってこと?

 おいおい、それは許せねぇな。明日にでも没収してやる。


「まぁそういうことだ」

「あのー、しじみ先生。土日って、保育園の子達は休みじゃないんですか?」


 あ、確かにそれもそうだな。

 黒川のやつ流石だな。よく気が付いた。


「本来はな。でも、ヤニカス園長の権限で、登園してもらうことになったらしい」


 職権乱用かよ。そんかくだらないことで、せっかくの休みが台無しになる、園児たちがあまりにも可哀想過ぎるだろ。


「まぁ、いいじゃねぇか総司そうじ

「何がいいんだよ。絶対に嫌だろ」

「そうか?」

「そうだよ。何でお前はそんな乗り気なんだよ」

「いや、だって俺結構、子供好きだし」

「ロリコンヤンキーかよ。警察に通報するぞ」

「やめろバカ!」


 そもそも、人選がおかしいだろ。

 赤髪リーゼントのヤンキーもどき、マッドサイエンティスト、イカレ魔女。まともなのは、常識人の俺だけじゃねぇか。

 こんな面子で保育園になんて行ってみろ。子供が泣いて、怒り狂ったモンスターペアレントが暴れるのがオチだぞ。


「あ、言い忘れてたけど、内申点に影響するからな」


 えぇ、まじかよ……。じゃあサボれねぇじゃんかよ。くそが、内申点で脅されたら仕方ねぇか。


「先生。せめて、あのクソアマは外してください。じゃないと俺は絶対に嫌です」


 出るにしても、これだけは譲れない。クソアマがいる。それだけは絶対に無理だ。受け入れられない。


「ちょっとボケナス! アタシを外せってどういうことよ!」

「あ? てめぇが居ると不愉快極まりないからに決まってんだろ!」

「それはこっちのセリフよ! アタシだって、あんたみたいなボケナスと一緒なんて不愉快よ!」

「やっかましいわ! 夫婦喧嘩するな!」

「「夫婦じゃない!!」」


 今はまだ!

 そして将来的にも、クソアマと結婚なんざしないわ。絶対に。


「だいたい、お前ら許嫁なんだから実質夫婦みたいなもんだろ。同居もしてるし」


 ぐっ……それを言われると痛いな。事実だから否定も出来ないし……。


「それとも何か? 夫婦喧嘩じゃなくて、夫婦漫才か? あーあー、いいですねぇ。高校生の分際で生涯の伴侶が居て。いいご身分ですわ」


 イラッ〜。

 こんのババア。好き勝手言いやがって。


「お、いいこと思いついた。お前ら、保育園で夫婦漫才やれよ。きっと大爆笑間違いなしだな! あははっ!」

「ちっ、この行き遅れアラフォーババアが」

「あ? おい、斎藤。お前今なんて言った?」

「行き遅れアラフォークソババアつて言ったんだよ! 一生婚活パーティで売れ残って泣いてろや!」

「よし。死ね」

「ぐべらっ!」


 あ、愛の正拳突き……。

 さ、流石……空手黒帯だ。めっちゃ強力だぜ。

 あー……やっばいわ、これ。意識が飛ぶわ。とりあえず、あれだな。口は災いの元ってやつだ。今後の人生の教訓にしよう。

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