第5話 日曜日の正しい過ごし方

 日曜日。国民の休日というやつだ。つまり、体を休めなくてはならない。肉体的にも精神的にも。

 ということで俺は、毎週日曜日の楽しみである、プリティでキュアキュアな朝の教育アニメを見ていた。

 うんうん。今週も素晴らしいね。来週も非常に楽しみである。


「ちっ……かけるから電話かよ……」


 こんな朝っぱらから何の用だよ。今からスーパーヒーロータイムなんだから邪魔するなってのに。毎週訪れる世界の危機なんだよ。


「うるせぇぞ。切るからな」

『いや、要件くらいは聞けよ』

「CMが終わるまでに話せ」

『お前ってやつは……。まぁいいや、んじゃ要件だけ伝えるぞ。昼に駅前集合な。いいところに連れてってやる』

「いいとこ? どこだよ?」

『ニャンニャンパラダイスだ』

「ほう……」


 ということで駅前にやってきた。

 まぁ別に? ニャンニャンパラダイスって単語に釣られたわけじゃない。何だったら来なくても全然よかったしな。ただあれだ。友人の誘いを無下にするのはどうかと思っただけだ。

 うん。だから決してニャンニャンパラダイスに惹かれたわけじゃない。


「おっす。早いな総司そうじ

「時間に正確だと言え。それで? ニャンニャンパラダイスというのは?」

「めっちゃ乗り気だな、おい」

「いやだなぁ。そんなわけないじゃないですかぁ〜」

「嘘こけよ! どの口が言っとんねん!」


 この口じゃい。文句あっか。

 ニャンニャンパラダイス。実にいい響きじゃないか。そもそもの話、ニャンニャンパラダイスなんて単語を聞いて、好奇心をそそられない男の子は存在しないんだよ。つまりこれは、正当かつ正常なんだよ。


「まぁいい。とにかく、さっさと案内しやがれ。ウキウキワクワクが止まらんのじゃ」

「やっぱ楽しみにしてんじゃねぇかよ」

「うっせ」


 ――――

 ――


「おいこら、翔……。こりゃどういうことだ? ええ?」

「どうもこうも、ニャンニャンパラダイスただが?」

「思ってたのと違うー!」


 見た渡す限り、ねこネコ猫! 猫しか居ないカフェ、いわゆる猫カフェじゃねぇか!


「総司。お前、何を想像してたんだよ……」

「そりゃ決まってんだろ。猫耳を付けたメイドさんが萌え萌えで、おもてなしをしてくれるパラダイスだよ」

「バカかお前は……」


 誰がバカじゃ。だいたい、ニャンニャンパラダイスって言われて、誰が猫カフェを想像出来るねん。どう考えたって、猫耳メイド喫茶だろ。


「まぁいいじゃねぇか。ほら、猫可愛いだろ?」

「まぁ……そうだけどな」


 確かに猫は可愛い。俺は完全に猫派だからな。

 特にこいつ。来た時からずっと俺の膝の上で丸くなってる、アメリカンショートヘアのチャーシュー君。まじで可愛い。


「にしても、総司は相変わらず動物に好かれるよな」

「そうか?」

「いや、そうだろ。ここの猫達、ほとんどがお前の周りに集まってんじゃねぇか」

「ふむ」


 まぁ確かに。俺の周りだけ、やたら猫が多い気がする。おかけでほとんど身動きが取れないんだよな。ちょっとでも動いたら、手や足が当たったり、踏んずけちまいそうなんだよな。


「んで? 実際のところ、何で猫カフェに誘ったの?」

「あー。一時間無料券の使用条件が二人一組なんだよ」

「なるほどな。でもさ、他のやつでもよかったんじゃね? ほら、黒川とか」


 黒川百合くろかわ ゆり。俺らと同じクラスの女子だ。俺とクソアマとは幼馴染でもある。翔とはかなり仲が良くて、クラスでもよくイチャついてる。傍から見りゃ完全にお似合いのカップルなんだけど、付き合ってないんだよな。絶対に二人とも気があるんだから、さっさと付き合っちまえばいいのに。


「百合は今日、試作品の実験なんだとさ」

「あぁ、魔法具のか」

「そ。だから断られたんだよ。んで、代わりに総司を誘ったってわけだ」

「納得」


 黒川の家は魔法具屋さんだ。魔法具ってのは道具そのものに魔法がかかっていて、決まった動作や言葉を使うことで動かすことが出来る。つまり、魔法が使えない俺らでも簡単に使うことが出来る。

 俺は魔力を吸っちまうから、持ってないし使わないけど、他は割と使ってる人が多い。


「んで? 今回は何作ってるんだ?」

「いや、俺もよく知らないけど、ちらっと聞いた話だと、人がぶっ飛ぶらしい……」

「それって、物理的の話?」

「じゃないといいんだけどな……」


 相変わらずクレイジーだな。いや、ここはマッドサイエンティストって言った方がいいかな?

 まぁとにかく、黒川は魔法具を作られたら神童と呼ばれているくらい天才なんだが、ちょいちょいぶっ飛んだ物を作ることがある。

 そのせいで、黒川家が二回ほど建て直しがあったり、実験台にされた、黒川の親父さんと翔が十二回ほど入院したこともある。ちなみにトータル十二回ではなく個人で十二回だ。ご愁傷さまです。南無。


「ま、今回は花咲が一緒だし、危険はないと思うぜ」

「どうだかな」


 あのクソアマも信用ならねぇしな。昔、魔法の練習だとか言って、通ってた幼稚園の倉庫を消し飛ばした前科あるし。他にも小学校の時は、プールの水を溢れさせて、校庭を冠水させたこともあったな。

 高校に上がってからは、流石に常識を覚えて派手なことはやってないから、翔は知らないんだよな。

 しかしまぁ、なんでこう魔法に関わってる奴ってのは、どいつもこいつも頭のネジがぶっ飛んでんだかねぇ。ほんと嫌になるわ。

 つーかあれだな。魔法の天才のクソアマと魔法具製作の天才の黒川のコンビって、めちゃくちゃやばいな。

 例えるなら、核爆弾と核爆弾を正面からぶつけるようなもんだぞ。


「ちなみに何だけどさ」

「うん?」

「今日の実験台は、百合の親父さんと花咲の親父さんらしい」

「……生きて帰ってくるといいな」

「だな」


 親父ーズよ。強く生きてくれ。そして心から幸運を願ってるよ。

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